オダギリジョー監督「“俳優”というフィルターがつきまとっても、映画を撮りたかった」『ある船頭の話』

オダギリジョー長編初監督・オリジナル脚本作品で、主演に柄本明、共演に村上虹郎を迎え、一人の船頭を通して「本当に人間らしい生き方」を見つめる映画『ある船頭の話』が、9月13日より公開される。このほど、9月9日に公益社団法人日本外国特派員協会にて記者会見が行われ、オダギリジョー監督が登壇した。

本作を観た外国特派員協会員に温かい拍手で迎えられ、オダギリ監督が登場。ベネチア国際映画祭から帰国後初の記者会見という事で、早速「ベネチアはどうでしたか?」と聞かれたオダギリ監督は、「上映後、想像以上に温かい拍手をいただき、本当に幸せでした」と語り、続けて「街を歩いていても、『昨日映画観たよ。すごく良かったよ』と声をかけていただき、すごく自信になった」とベネチアでの反響を語った。

また、「これまでなぜ映画を作らなかったのか?」という質問に対して「俳優という立場を利用して映画を撮るのはよくないと思っていた。どれほど真剣に映画作りに向き合ってもどうしても“俳優オダギリジョー”というフィルターがつきまとう。フェアな評価はいただけない気がしてこれだけ時間がかかってしまいました」と回顧。「なぜ今作ろうと思ったか?」という質問には、「健診を受けて大げさな話ですが、残された自分の時間について真剣に向き合った事がありました。その残された時間に何をするか?本当は映画を撮りたかったのに、変なプライドでやりたい気持ちを閉じ込めていたなと。1本映画を作りたいという想いが、押し込めていた気持ちを上回った」と本作制作のきっかけを明かした。

■オダギリジョー監督 コメント
Q:これが初めての監督作とは思えない。一つ一つのシーンが丁寧に描かれている。特に夜のシーンが美しいと感じたがあれはどうやって?
クリス(クリストファー・ドイル撮影監督)の存在が大きい。本当に撮りたいと思ったシーンを全て実現してくれた。「ジョーはとにかく俳優に芝居をつけろ。アートの部分を考えろ。どうやって作るかは俺たちの仕事だから。画づくりもお前のやりたいことを全部伝えてくれ」とクリスが言ってくれて。僕はやりたいことを細かく伝えて、クリスに本当に助けられました。クリスはただの酔っ払いじゃないなと思いました。

Q:こんな映画を作れるオダギリ監督の幸せの定義は?
それぞれの幸せは何か?というのがこの映画のテーマでもあるし、皆さんそれぞれの幸せを見つけてほしい。時代や環境に左右されず、自分の中で大切なものをちゃんと持てているか、という思いをこの映画に込めた。それを持てるという事が幸せなのかもしれない。

Q:音楽の使い方に感銘を受けた。どうやって作っていった?
中学時代から曲を作るのが大好きで、今でも作っている。僕はミュージシャンに憧れている俳優でもあった。役者としても監督としても、音楽には人一倍こだわりをもっていると思う。5.1サラウンドをいかに有効活用するかに重きを置いていたので、まず劇場で見ないとこの良さは伝わらない。ゆくゆくはネット配信すると思うんですけどネットでは見ないでください!(笑)

Q:日本の“間”を意識させる、ゆっくりとしたリズムの映画。やはり、日本人的な“間”を映画で表現しようとしたのか?
時代設定を明治時代で想定していて、今我々が生きている社会とは全く違う時間の流れ方があると思った。きっと僕らはめまぐるしく移りゆく社会の中で、自分を見失いそうになる。もっと自然と寄り添う時間の流れ方があったはずだと思い、まずはそれを表現することを目指した。この映画には、大切なものを見失っているのではないかという問いかけがあり、もしかしたら時間の流れ方もそうなのかもしれない。

Q:多くの人が初監督作で出演したがる。本作では思わなかった?
セリフを覚えるというのが結構しんどくて、そこに時間を割かれるのが嫌で、絶対に出たくなかった(笑)。でも一番の理由は、自分の作りたいものに集中したかったというのが大きい。

Q:監督として、先輩俳優との仕事はどうでしたか?
多くの尊敬する先輩方に出演して頂きました。柄本さんや先輩方に僕が芝居をつけるのは失礼だと思って。役者として信頼している人たちを呼んでいるのに…「ここは違う」というのは野暮ですよね(笑)。同じ役者として、どうすれば役者の心の湧き出す芝居を引き出せるかというのがわかるので、その点は強みだったと思います。

『ある船頭の話』
9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開
監督・脚本:オダギリジョー
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
出演:柄本明 川島鈴遥 村上虹郎 伊原剛志 浅野忠信 村上淳 蒼井優 笹野高史 草笛光子 細野晴臣 永瀬正敏 橋爪功
配給:キノフィルムズ/木下グループ

【ストーリー】 近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。川岸の小屋に住み船頭を続けるトイチ(柄本明)は、村人たちが橋の完成を心待ちにする中、それでも黙々と渡し舟を漕ぐ日々を送っていた。そんな折、トイチの前に現れた一人の少女。何も語らず身寄りもない少女と一緒に暮らし始めたことで、トイチの人生は大きく狂い始める…。

© 2019「ある船頭の話」製作委員会