是枝裕和監督「ジュリエット・ビノシュさんから『一緒に映画を作らないか』と提案をいただいたことが制作のきっかけ」映画『真実』

昨年のカンヌ国際映画祭で日本映画21年ぶりの快挙となるパルムドール(最高賞)を受賞し、興行収入46億円を記録した大ヒット作『万引き家族』の是枝裕和監督の長編14作目となる最新作にして初の国際共同製作映画『真実』が10月11日より公開される。このほど、8月28日より開幕した第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に本作が選出され、8月28日に行われた記者会見、フォトコール、レッドカーペットイベントに、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、リュディヴィーヌ・サニエ、クレモンティーヌ・グルニエ、マノン・クラヴェル、そして是枝裕和監督が登壇した。

真っ青な空が輝く晴天に恵まれた、第76回ベネチア国際映画祭のオープニング。レースがあしらわれた優雅なプラダのドレスで登場したカトリーヌ・ドヌーヴ。赤を基調としたグッチのジャケットスタイルでスタイリッシュに登場したジュリエット・ビノシュ。プラダのシャツスタイルで爽やかな装いのマノン・クラヴェル。ミュウミュウの白いブラウスで登場したリュディヴィーヌ・サニエ。キラキラと光沢感のあるグリーンのディオールのドレスに身を包んだクレモンティーヌ・グルニエ。そして、是枝裕和監督が記者会見場に登場。会見場は報道陣で満員(250人キャパ)。面々が現れるなり、マスコミ陣からは歓声と拍手が。大盛り上がりのなか、それぞれが海外媒体の質問に応じた。

Q:最初にご挨拶。映画の制作、出演のきっかけ。

是枝監督:まずはこの素晴らしいキャストとともに作り上げた本作をオープニング作品に選んでいただいたベネチア国際映画祭の方々に、この場で感謝したいと思います。ありがとうございます。元々は、楽屋のシーンだけで出来上がる舞台を考えていました。しかし、実際に映画が動き出したのは、ジュリエット・ビノシュさんから一緒に映画を作る冒険をしないかと、2011年に提案をいただいたことがきっかけです。その時点では、日本で撮るのか、フランスで撮るのかといった確たる目標があったわけではないのですが、ふと、あの話をフランスで撮ってみようかと思いつきました。戯曲の主人公は、その国の映画史を代表する女優だったので、もしかすると、そのような女優さんを撮るチャンスが生まれるのではと思ったんです。そこで、大幅に戯曲を書き直して、母と娘の話に仕上げました。脚本が完全に固まる前の段階で、何度もお二人にお会いして、インタビューをさせていただき、女優という人生を送られている方の生の言葉を、どのように脚本に落としていくかという作業を、継続的な信頼関係のなかで、数年に渡って行っていきました。その結実したものがこの『真実』です。

カトリーヌ:是枝監督が言ったように、脚本の初稿を読んだ後で会いました。それからパリ、そしてカンヌで会って、日本でも会いました。こんなことが1年以上続きました。面会や本読み、コメントを通して、彼が言ったように、作られていったのです。是枝は映画の中で演じる人物を少しずつ私たちに近づけることを考えていました。私の場合、映画に出演する時は、人物を演じるにしても、自分というものを作品に投入します。特に今回は、関係が複雑なのは分かっていました。是枝は英語もフランス語も話さないので、いつも通訳を挟んでの会話です。それも悪いことではありません。大事なことを話すように促されるからです。

ジュリエット:是枝監督と仕事をすることは数年前からの夢でした。是枝は2011年と言ったかと思いますが、私はもっと前からだと思います。12年前…。(会場に向かって)14?2014年?14年前?14年前ね。京都で一緒になりました。特別な機会でした。本当に夢のようでした。是枝監督の映画に出ることは、役者が監督に対して抱く夢を実現することです。さらにカトリーヌとの共演も夢のようです。『ロバと王女』は私が子供の頃大好きな映画でした。彼女と共演できたことは光栄で夢のようです。だからこの映画は私にとって夢の実現なのです。それに未来の頼もしい才能に出会うこともできました。私にとってとても鮮烈で、貴重な経験でした。

Q:監督は、「家族」をテーマにした映画を作ることを得意としていらっしゃるようですが、あなたの目から見たら、このフランス人とアメリカ人の家族はどのような家族なのでしょうか?私から見るととても滑稽であると同時に、機能不全に陥っている家族です。

是枝監督:今回の作品はファミリードラマの要素もあるのですが、演じるということを通して、一組の母と娘が和解とは言わないまでも、お互いがお互いの人生を、つまりは自分自身の人生を少しだけ受け入れて先に進むという、そのような女性二人の話を書きたいと思っていました。その二人の周りには、血縁関係に関係なくいろんな女性や男性がいて、その輪が広がっていくことで、いろんな場所に魔法が使われて、その魔法には嘘も含まれているんですが、それが人と人を繋いだり、和解させたりしていくという、そのような物語を描きたいと思いました。

Q:カトリーヌ・ドヌーヴさんとジュリエット・ビノシュさんに質問です。映画の準備や撮影模様についてお話しいただけますか?また、言語の壁についても言及されました。どんな経験でしたか?困難や試練があったのでしょうか?

カトリーヌ:とてもユニークで複雑な経験でした。最初の週は少し大変でしたね。ある人を見ながら、他の人の話を聞くのに慣れるまでに時間がかかりました。なぜなら話は是枝監督の通訳を通していたからです。でも時間が経つと…。まず質問したり、何か言いたい時は、肝心なことに絞って話します。撮影についてのおしゃべりがないのです。それはかなり特殊なことでした。でも顔を見て、表情を見れば、何かが読めます。監督が通訳を通してコメントを伝える前に、彼の顔を見て感じました。彼が望んでいる方向に進んでいるのか、そうでないのかを感じたのです。確かに特殊でユニークな経験でしたし、一般的に生活で感じるコミュニケーションの大きな制約を超えるものでした。でも経験してよかったと思います。是枝監督と一緒に撮影できて幸せでした。直接思いを伝えられないというフラストレーションはありましたけどね。

ジュリエット:私は撮影の前にしっかり準備したいタイプなのですが、準備できるか尋ねた時に、「是枝監督は役者が準備することをあまり好まない」と聞いたので、戸惑いました。最初は是枝監督の指示を待ちましたが、撮影中に彼が私と一緒に演じていることに気付きました。私と一緒に呼吸し、言葉が理解できなくても、一緒に演じていたのです。私は彼が求めるものを漠然と理解しようとしていました。そのうち夕食のシーンの撮影がありました。私がカトリーヌを挑発するシーンです。これは二人の関係がクライマックスに達する瞬間であり、「真実」について、ついに母親を攻撃する場面です。私が演じる人物は母親のウソによって傷ついた女性です。母親の言葉の中に真実を見つけられず傷ついています。私は完全に役に入っていました。カトリーヌが映画の中で「なんて深刻なのかしら」というように、私が演じる人物は実に深刻なのです。その部分を表現すべきだと思いました。わたしは深刻な側面を押し出しました。その瞬間から、確か翌日だったと思いますが、是枝監督はラッシュを見て、「シーンに重みを加えてくれてありがとう」と言ってくれました。穏やかに港を目指す船のようでした。他の役者たちを乗せてくれたのです。カトリーヌと私以外にも人物はいますが、この二人の関係が映画の中心です。これまで映画で共演したことも、他の状況で一緒になったこともない女優たちです。その二人が出会って、何年も待ち続けた映画に出るのです。そういう意味では映画の魔法です。思いもしなかった時に、私たちを引き合わせてくれたのですからね。

フォトコールでは、「是枝!」、「カトリーヌ!」、「ジュリエット!」と歓声が止まらず、昨年『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、今や世界中で注目を集める是枝監督の最新作である本作への注目度の高さが感じられた。

また、レッドカーペットでは、イタリアのファッションブランド、アルマーニのタキシードとえんじ色の蝶ネクタイを身にまとった是枝監督。フランスのファッションブランド、ジャン=ポール・ゴルティエの朱色と黒のドレスに身を包み、さすがな貫禄を見せるカトリーヌ。是枝監督と同じくアルマーニのセクシーなドレスで大人の魅力溢れるジュリエット。フランスのファッションブランド、シャネルの黒のジャケットとミニ丈ボトムスのセットアップでスタイル良くクールにきめたリュディヴィーヌ。フランスのファッションブランド、クリスチャン・ディオールの白のドレスで天使のような可愛さをふりまくクレモンティーヌ。そして、イタリアのファッションブランド、プラダのチューブトップドレスで大女優たちに囲まれながらも堂々とシックにきめたマノンが登場。ジュリエットと是枝監督は会場に集まった観客の元へ駆け寄り、サインといったファンサービスを行う様子も見せた。レッドカーペットには審査員グループとして塚本晋也監督も登場。そのほか、ニコラス・ホルトなどの人気俳優も登場し、映画祭のオープニングイベントを大いに盛り上げていた。

『真実』
10月11日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本・編集:是枝裕和
撮影:エリック・ゴーティエ
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ ジュリエット・ビノシュ イーサン・ホーク クレマンティーヌ・グルニエ リュディヴィーヌ・サニエ
配給:ギャガ

【ストーリー】 国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が自伝本「真実」を出版。アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優の娘婿ハンク(イーサン・ホーク)、ふたりの娘のシャルロット(クレマンティーヌ・グルニエ)、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、そして長年の秘書…お祝いと称して、集まった家族の気がかりはただ一つ。「一体彼女はなにを綴ったのか?」そしてこの自伝は、次第に母と娘の間に隠された、愛憎渦巻く“真実”をも露わにしていき…。

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