東出昌大と濱口竜介監督がタッグを組み、芥川賞作家の柴崎友香による同名恋愛小説を映画化した『寝ても覚めても』が9月1日より公開中。このほど、9月8日にテアトル新宿にてティーチインが行われ、主演の東出昌大、濱口竜介監督が登壇した。
この日集まった観客からは、時間内に収まらないほどの感想と質問が溢れた。誠実なサラリーマン・亮平と自由人・麦(バク)を一人二役で演じた東出は、「東出さんは、亮平と麦、どちらに思い入れがありますか?」という質問に「(撮影)時間が長かったし、演じていて好きだったのは亮平です。麦は基本的には朝子が好きだけれど、その時その時で興味の対象が変わるちょっと変わった人なので。亮平パートで物語も帰結するので、亮平の方が思い入れが強かった気がします」と回答。さらに、撮影当時の気持ちが蘇った東出は、「亮平、優しいんですよ。朝子と付き合い出してから、それこそ毎日のように亮平はクッシー(瀬戸康史演じる同僚の串橋)を連れて朝子の働くウニミラクルに通ってるから。ストローがもったいないって言って、使ってないっていう。そうだ思い出した(笑)」と映画の中では描かれない部分の細かいエピソードを披露した。
「キャストを周囲から守るために、撮影時は『用意ッ、スタート!!』と声を張って出演者たちを守る幕を作るんです」と取材で答える濱口監督。キャストが役を演じやすいように現場を作り上げる姿勢は映画の中にも良く現れている。「濱口監督の演出法で、俳優陣に“胸の中の鐘を鳴らすように”と言うのはどう言う意味ですか?」と言う質問に対し、「なんだか伝言ゲームのようになってますが、“お腹の中の鈴を鳴らすように”と伝えてるんですが、その言葉をイメージしながら発声すると、良い声が出てくる。なので“胸の中の鐘を鳴らすように”ではなくて…」とモゴモゴする濱口監督に会場は爆笑。東出も「良いんですよ、細かいところはそこまで(笑)」と濱口監督の細かさに笑みがこぼれた。
何度か挿入される、顔を真正面から捉えたカットについて、濱口監督は「目線を向けてもらう時は余計なことを言うと余計なことを考えてしまうと思うので、『大変申し訳ないんですが、カメラを見てただいていいですか?』とお伝えしますね」と説明。東出も「僕も一度だけカメラを見るシーンがあって、大好きなシーンなんですけど、その時にも監督からは余計な説明なく、同じように言っていただいただけでした」と当時を振り返った。
この日の観客は東出ファンもさることながら、待望の濱口作品最新作を心待ちにしている人も多く、過去作『ハッピーアワー』『天国はまだ遠い』などを観たと言う声も多かった会場。その中で「前作『ハッピーアワー』のように、前日譚の細かな設定はありましたか?」と言う質問が。濱口監督は「東出さん含め若手の出演者は、事前にワークショップを重ねそれぞれのキャラクター同士のインタビューとかをしましたね」と説明。そのインタビューについても台本が用意されていたようで、東出は「『愛とはなんですか?』と亮平に対して聞かれると、それに対して、『聞かんといてもらえます?』と答えるところからインタビューが始まっていて、“ただ思春期の頃にCharaさんがボーカルのYEN TOWN BANDの『Swallowtail Butterfly~あいのうた~』を聞いていたんだけども、その曲を良いなと思って聞いてたら、おかんに『裏声の変な曲』と言われて、自分のアイデンティティを傷つけられたと思ったところに弟が近づいてきて、弟に八つ当たりして、弟が泣いて、『弟いじめんじゃないの!』と怒られ、Charaが歌ってて…”っていうのが亮平の愛についてのインタビューの答えなんですよ!全部それが書かれてるんです。監督すごいな~って思いましたね(笑)」とこれまでに語られることのなかった人物設定について解説した。それに対し、「ただ、亮平は一人っ子って劇中で言ってるので設定が間違ってるんですけどね…」と濱口監督が告白し、場内の笑いを誘った。
最後に、濱口監督は「人によって受け止め方が違う作品だと思います、コミュニケーションの道具にしてほしい」、東出は「今日、この会場で皆さんと一緒に3度目の鑑賞をしました。自分で出ておきながら、傑作だなって思っちゃいました。こういう映画に今後も出続けたい」と挨拶し、拍手のなか会場を後にした。
『寝ても覚めても』
9月1日(土) テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香「寝ても覚めても」(河出書房新社刊)
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「River」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知 仲本工事 田中美佐子
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
【ストーリー】 東京。カフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先の会社で亮平と出会う。真っ直ぐに想いを伝えてくれる亮平に戸惑いながらも朝子は惹かれていき、ふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平には告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦(バク)に顔がそっくりだったのだー。
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS