リアム・オドネル監督、ハリウッドのVFXの世界で成功する秘訣とは?『スカイライン-奪還-』トークイベント レポート

突如現れた謎の生命体による地球征服の3日間を最新のVFXを駆使して描き、人類の救いのないラストへの衝撃に賛否両論が巻き起こりスマッシュヒットとなった『スカイライン-征服-』(2010)。その続編で、侵略されるがままだった人類が立ち上がり、地球奪還の激しいバトルを繰り広げる映画『スカイライン-奪還-』が、10月13日より公開となる。このほど、8月23日に東京・デジタルハリウッド大学にてトークイベントが行われ、本作の製作・監督・脚本を務めた、VFXスタジオ「ハイドラックス」所属のリアム・オドネルが登壇した。

トークイベントでは、『アバター』、『ジオストーム』など数多くのハリウッドメジャー作品のVFXを手掛けるハイドラックスの共同設立者でもあるオドネルが、本作について、ハリウッドで成功する秘訣など日本の学生の前で語り尽くし、さらに本作で2作目となる『スカイライン』シリーズの続編の構想も明かした。

トークイベント レポート

Q:VFXスタジオ「ハイドラクス」設立、参加の経緯と『スカイライン』シリーズ制作の経緯について。

オドネル:2002年に設立され、私は2005年くらいからグレッグ・ストラウス&コリン・ストラウス兄弟と働いています。彼らは90年代に『X-ファイル』のTVシリーズでキャリアをスタートさせ、『タイタニック』、映画版『X-ファイル』などに参加してきましたが、地震やディザスター映画で見られる「破壊」を得意としており、『デイ・アフター・トゥモロー』における冒頭の氷が解けるシーンでスタジオは世界的に有名になりました。FOXとも仕事で関わりを持ち、問題を解決するクリーンアップチームという形でいくつもの作品に参加し、その中でも『アバター』が最も有名な作品と言えます。当初、自分たちで映画を作ってはいなかったんですが、それまでメジャーで培った技術を集結し、より規模の小さなインディ系の映画を作るに至りました。

Q:ハイドラクスの特徴や強みとは?

オドネル:このスタジオに13年いて思うのは、学んで成長するチャンスを与えてくれるということ。私も最初は脚本家としてキャリアをスタートしましたが、グレッグとコリンは自分たちでカメラを持ち、自分たちで全て行うことを大切にしており、その姿勢から学ぶことは非常に大きかったです。

Q:これまでの印象的な仕事について。

オドネル:『アイアンマン2』(ビジュアルエフェクト担当)の中の、各国がアイアンマンスーツを作ろうとするも失敗するというシーンの制作を持ち掛けられました。私たちは撮影に関するすべてを所有しており、まだテストだったのですが、スタッフを連れて砂漠に飛び、自分たちで“失敗スーツ”のシーンを撮影したんです。空を飛んでも失敗して落ちてしまったり、人を誤って殺してしまったりというシーンを試しに作ったのですが、それをマーベルに提出したところ、満足してもらい「もうこれ以上作り直す必要がない」と本編でそのまま使われました。試しで作ったシーンそのままが採用されたのは大きな喜びでしたね。

Q:ハリウッドで成功するために必要とされる能力、求められる人材とは?

オドネル:自分がどういう人と一緒に働きたいかをイメージすることが大事だと思います。人材で言えば、情熱的で勤勉で、他人の批判を受け入れることができる人ですね。私も最初は、自分が作ったものを否定されるのが嫌でしたが、他人の批判的な意見を受け入れ、成長する過程が重要です。VFXの世界というのは、パズルのピースを組み合わせて、作品を作り上げていくようなもので、正解はひとつではなく、いろんな解決法があるんです。実際、今回の映画でカッコいいアイディアは、私が考えたものではなく他人から提示されたものも多いです。自分の作品の質をさらに上げてくれる人が求められています。

Q:日本のアニメや特撮作品で影響を受けたのは?

オドネル:グレッグとコリンは日本のアニメファンで、前作『スカイライン-征服-』は『エヴァンゲリオン』や『ガンダム』『アップルシード』などに強く影響を受けています。私は小さい頃から『AKIRA』のファンで、『ゴジラ』も大好きです。大人になってからは『カウボーイビバップ』、グレッグとコリンに勧められて見た作品では『獣兵衛忍風帖』もありますし、うちの子どもはジブリの作品がとても大好きです。もちろんクラシックでは黒澤明の作品も好きですし、最近では三池崇史監督の『十三人の刺客』が好きですね。

Q:今回は監督、脚本、製作を兼ねたことで仕事に大きな違いは?

オドネル:いままでと全くプロセスが違って、いわゆる映画のCEO的立場であり、大変でしたが、楽しかったです。2013年に脚本を書き始めて、14年の冬に撮影が開始され、いまでもこうやって動き回っているのが楽しいです。企画開発、ロケハン、撮影…いままで裏方の仕事をしてきて、今回、こうして前に出てカメラに指示出すのは素晴らしい経験でした。特にベテランスタッフに参加してもらい、そこから学ぶことを意識しました。長年のファンだった人々と働けて夢のようでした。

Q:インディ作品、メジャーとの違いは?

オドネル:私たちのスタジオは、ちょうどメジャーとインディの間にいると感じています。撮影は効率化を進めていて、前作に出てくるアパートはグレッグのアパートだし、グリーンスクリーンの撮影はわずか1日でした。今回もインドネシアで撮ったことで予算が浮いたし、20日間でグリーンバックでの撮影を終えました。「手作り感」と言える、小さな規模でスタッフと作るというやり方が気に入っているし、そこがメジャーとの違いであり、そこにこそ我々のユニークさが出ていると思います。ハイドラックスは常に新しい挑戦をしようと努力し、他社と同じルールでは動かず、自分たちらしいクリエイティブの在り方をと考えています。

Q:前作と本作では映画のテイスト自体が変わっており、肉弾戦、生身のアクションが増加しています。

オドネル:もちろん監督が違うのでスタイルは変わります。アクションをもっと増やそうとは最初から思っていました。特にイコ・ウワイスとヤヤン・ルヒアンの2人が加わったことで、アクションの幅が広がりました。彼らは自分たちでアクションの振り付けもデザインしてくれました。

Q:さらなる続編構想はありますか?

オドネル:この夏に脚本を書き終えており、野心的な作品になってます。今回の『スカイライン-奪還-』の直後から始まり、ローズとエイリアンになったトレントがメインキャラで冒険する物語で、エイリアンの惑星が舞台になっています。シリーズの中では、最もトラディショナルなストーリーになっているように思うし、過去2作の要素も散りばめられてます。映画にならなくとも、ミニシリーズやストリーミングなど何らかの形で世に出したいと思っています。

Q:「破壊」シーンを大事にしているというハイドラックスですが、その中で特に意識していることは?

オドネル:CG効果はレイヤーをどれだけ重ねていくかが大切です。でも、やり過ぎると効果が薄れてしまいます。『インデペンデンス・デイ』の爆発シーンは、CGを多くは使わず、ミニチュアを使っていますが、リアルに見えるのはバランスがいいからです。現代の映画の爆破は、破片が飛び交い、煙が出て、実際の(爆発の中心の)現状が隠されて見えなくなってしまうことがあります。私はあえて引き算をして、宇宙船の墜落シーンなどでも、その瞬間を見せたくて、あえて煙を少なくし、観客が見られるように工夫します。それは実際の爆発とは違うけど映画は現実ではないのでそうあってもいいと思っています。先ほども言いましたが、パズルを組み合わせていくというのがVFXの作り方なので、いくつも方法はあるのです。科学ではないので、ひとつの答えがあるわけでもなく、必ずしも正しい答えを導き出すのではなく、バランスを考えてシーンを判断すること大事なのです。

『スカイライン-奪還-』
10月13日(土)より、新宿バルト9他全国ロードショー
監督・脚本・製作:リアム・オドネル
製作:グレッグ・ストラウス&コリン・ストラウス
VFXスタジオ:ハイドラックス
出演:フランク・グリロ ボヤナ・ノヴァコヴィッチ ジョニー・ウエストン イコ・ウワイス ヤヤン・ルヒアン
配給:REGENTS ハピネット

【ストーリー】 突如として世界各地に現れ、地上から人々を吸い上げていく未確認飛行物体。軍隊の攻撃も空しく、地球はわずか3日間で征服された。しかし、人類反撃の希望は僅かに残されていた。息子のトレント(ジョニー・ウエストン)と共に宇宙船に吸い込まれたLA市警の刑事マーク(フランク・グリロ)は、人間の心を残したままエイリアンになったジャロッドとの共闘により宇宙船を破壊することに成功した。内戦が続くラオスに墜落した宇宙船から、生まれたばかりのジャロッドの娘、ローズと共に脱出したマークは、反政府組織のボス、スア(イコ・ウワイス)のアジトに身を潜める。そんな中、エイリアンに対抗する手がかりを見つけだした彼らだったが、アジトは大量のエイリアンに囲まれていた!いま、地球の支配者の座を懸けて、残されたわずかな武器と肉体を駆使した最終決戦が始まろうとしていた…。

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