ジアド・ドゥエイリ監督&憲法学者の木村草太が登壇!『判決、ふたつの希望』公開記念トークイベント レポート

第90回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた、ジアド・ドゥエイリ監督作『判決、ふたつの希望』が、8月31日より公開となる。それに先立ち、8月8日に渋谷ユーロライブにて公開記念トークイベントが行われ、来日したジアド・ドゥエイリ監督、首都大学東京教授で憲法学者の木村草太が登壇した。

レバノン出身のジアド監督自身の実体験がもととなった本作は、人種も宗教も異なるふたりの男性の間に起きた些細な口論が、ある侮辱的な言動をきっかけに裁判沙汰となり、国家を揺るがす騒乱にまで発展していく法廷社会派エンターテインメント。台風が近づく中、大勢の観客が来場し大反響の場内に登壇したジアド監督と木村。はじめに「天気が悪い中来てくれてありがとう」と感謝の気持ちを述べたジアド監督は、「実は新作の準備で忙しかったから、本当は来るのを迷っていたんだけど…今は心から来日してよかったと思う。9日に帰国予定なんだけど、帰りたくないから台風で飛行機が飛ばなければいいのにと思うくらい(笑)」と冗談で会場を沸かせると、すかさず木村も「きっと台風も監督に会いたくて日本にきたんですね」とコメント。和やかな雰囲気でトークイベントが始まった。

約20年振りとなる来日ということで、日本の印象を聞かれたジアド監督は「実は以前来た時のことはあまり覚えていなんだ。僕は大都市が大好きで今もパリに住んでいるんだけど、今回来日して本当に東京が大好きになったよ。住んでみたいくらい」とこの来日を満喫している様子。映画の感想を聞かれた木村は「最近の映画は、個人には期待するけど社会には何も期待しないという作品が多い気がしているんですが、この作品はレバノンという複雑な歴史、文化を舞台にしているにも拘らず社会全体を諦めていないという希望を感じました。教えられるものがありますね」と本作の魅力を熱弁。それに対しジアド監督は「僕は映画で社会や世界を変えられるとは思っていないんだ。映画の役目は物語を伝えることが第一だと思っているからね」と前置きしながら、「レバノンにはまだまだ課題が多い。パリに住んで不自由なく快適に暮らしていても、レバノンには必要とされていると感じることがあるんだ。だから僕はきっと、これからもレバノンに足を運んでいくことになると思う」と故郷への想いを明かした。

弁護士や裁判官になる人へも教鞭をとっている木村は、本作で描かれる法廷シーンが気になったようで、「裁判官や弁護士を魅了的なキャラクターとして描いてくれているのが嬉しいですね。劇中の裁判シーンは本物の法廷なんですか?」と問いかけると、ジアド監督は「レバノンではある時期だけすべての法廷や裁判官など全員がお休みになる期間があるから、そこで場所を借りたんだ。壁に木製のパネルを貼って撮影したんだけど、撮影後も裁判所がそれを気にいってくれて、実は今もその状態のままなんだよ。弁護士の母がわざわざそこでセルフィーを撮って教えてくれたんだ(笑)」と驚きの撮影秘話を披露。木村はそのエピソードを聞いて「日本ではありえないですね。(日本だと)椅子ひとつ変えるのも難しいだろうし、撮影では貸してくれないんじゃないかな?法廷ってすごくえらそうだから(笑)」と冗談をまじえてコメントし、文化の違いに驚いた様子を見せていた。

法廷で重要な役割を担う裁判官も女性だったことに対し、「これはモデルがいるんですか?」と続けて質問を投げる木村。ジアド監督は「実際に近郊の裁判所にリサーチに行った時、たまたま傍聴した裁判の判事が女性だったんだ。その姿をみて強いインスピレーションを受けて、女性を判事にしようと思ったんだよ」と語り、「この作品では女性をポジティブに描きたいと思っていたんだ。トニーとヤーセルの妻役も、強くてポジティブな美しいキャラクターにしているのもそういった理由からなんだ」と映画の中で描かれる女性キャラクターに対しての想いを明かした。

世界各国で高い評価を受け、レバノン史上初のアカデミー賞ノミネートという快挙を達成、そして日本でも多くの有識者が絶賛のコメントを寄せている本作に対し、木村は「日本から遠い国であるレバノンが舞台ですが、普遍的なテーマが描かれている物語だと思います。我々にとってもとても大事なテーマなので、きっと心に響くはずです」と太鼓判を押して会場を後にした。映画上映後には、ジアド監督と来場者とのQ&Aを実施。映画鑑賞直後の観客からは「素晴らしかった」「感動しました」といった絶賛の感想が飛び出し、「映画を作る上で参考にした他の映画はなんですか?」と聞かれると、法廷映画をリストアップして何度も見直していたというエピソードを明かすと共に、共同で脚本を執筆した元妻でもあるジョエルとのエピソードを披露した。身振り手振りを大きくしながら真剣に語る姿に場内も次第に熱気を帯びていき、ジアド監督への質問がやまないといった状況に。当初の終了予定の時間を大幅にオーバーし、大盛り上がりでイベントは幕を閉じた。

『判決、ふたつの希望』
8月31日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開
監督・脚本:ジアド・ドゥエイリ
脚本:ジョエル・トゥーマ
出演:アデル・カラム カメル・エル=バシャ
配給:ロングライド

【ストーリー】 レバノンの首都ベイルート。その一角で住宅の補修作業を行っていたパレスチナ人のヤーセルと、キリスト教徒のレバノン人男性トニーが、アパートのバルコニーからの水漏れをめぐって諍いを起こす。このとき両者の間に起きたある侮辱的な言動をきっかけに対立は法廷へ持ち込まれる。やがて両者の弁護士が激烈な論戦を繰り広げるなか、この裁判に飛びついたメディアが両陣営の衝突を大々的に報じたことから裁判は巨大な政治問題となり、“ささいな口論”から始まった小さな事件は、レバノン全土を震撼させる騒乱へと発展していく…。

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