時代の寵児たちをカメラに収めてきた日本人写真家、鋤田正義の軌跡をたどるドキュメンタリー映画『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』が、6月23日に川越スカラ座での公開初日を迎え、本作に登場するPANTAと監督である相原裕美が登壇し、舞台挨拶が行われた。
『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』の川越スカラ座での初日舞台挨拶に、本作に登場するPANTAと監督である相原裕美が登壇。あいにくの雨にもかかわらず劇場には多くのファンが訪れた。MCには当日急遽登壇となった脚本家・監督の井上淳一を迎え、終始和やかな雰囲気でトークセッションが行われた。
PANTAが「是枝監督とリリー・フランキー、パルムドールが勢ぞろいで…。これ本人許諾とか大変じゃなかったですか?」と、今年5月に第71回カンヌ国際映画祭にて『万引き家族』でパルムドールを受賞した是枝裕和監督、そして同作主演であるリリー・フランキーが本作の出演者であることを話題にあげると、「大変でした」と相原。さらに、本編中で、デヴィッド・ボウイの楽曲が使用されていることについては「一年くらい交渉にかかって、もちろん鋤田さんとの関係があったので、いろいろやっていただいて良くしてもらったのですが、やっぱりそのくらいかかる感じでした」と、改めてデヴィッド・ボウイの楽曲使用についての苦労を語った。
井上が「なぜ鋤田さんを撮ろうと思ったんですか?」と質問すると、相原は「僕とPANTAさんは元々僕がビクターというレコード会社で仕事をしていて、PANTAさんがアーティストだった、というところからのお付き合いで、どちらかというと音楽ビデオや、音楽に関する映画などを作っていたんです。数年前に自分で会社を興して、アーティストの音楽映画以外のものをやりたいなと思っていた時、ちょうど2016年の1月にデヴィッド・ボウイが亡くなって、鋤田さんお元気かなと思って連絡して会ったのがきっかけですね」と映画『SUKITA』誕生秘話を披露した。
PANTAは鋤田とのジャケット撮影当時を振り返り、「原宿のセントラルアパートの屋上で寒中のなか延々立たされたんですよ。よくみんな鋤田さんの写真のことをいろんな言葉を使って説明するけれど、音楽を言葉で説明するのと同じで、すごく届かないところがあるんですよ。やはり彼は撮影のとき一切注文を出さない。セッティングの打ち合わせはしますが、こういうポーズをしてくれとか、ここを見てくれとか一切言わないんです。スタジオにいてもそれは一切同じで、このとき(映画にも登場するジャケットの撮影)一時間近くかかったので、もう寒さで死にそうでしたよ(笑)」と話し、会場の笑いを誘った。
また、PANTAは「話によると、カメラマンのタイプは2通りあって、1つは撮影するときによく話しかけてくるタイプ、そしてしゃべらないタイプの人がいるんです。鋤田さんは後者らしいですね。基本的にはしゃべらないで、途中で話をしながら、そういう風にコミュニケーションはとるんですが、写真でこういう風にやってくれとかは言わないと聞いています」と鋤田の撮影のスタイルについて話し、「誤解があったら申し訳ないんだけれど、注文を出すカメラマンもいっぱいいるんですよ、でもあんまり成功したためしがない。自分がこうやるんだっていう構造ができていて、そこに当てはめようとするわけじゃないですか。それはやっぱり無理がある。それよりもナチュラルにっていうのが、自分の一番大好きな言葉ですけれど、やはりこれが一番かな」と語った。
相原は、本作撮影時の鋤田について、「いつシャッターを押すのかを撮りたいです、と打ち合わせの時に言いました。そしたら後で是枝監督とかいろんな人が、鋤田さんは新しい技術をいとわない、そっちに行ってしまうと言っていて。一番最初の撮影が2016年の布袋さんのライブで、もうデジタルの時代。布袋さんのライブでいつシャッターを押すのか見ていると、シャッターを押しっぱなしだったんです。デジタルなのですごい量。5000枚くらい撮っていました。後から聞いたら、鋤田さんはムービーをまわしてそこからコマ抜きをしてやりたいぐらいと。そのくらい一瞬のタイミングを逃したくない気持ちで今はやっているみたいです。今年80歳の方なんですけれどそういう風にスタイルを変えられるっていうのがすごいことだと思います」と、まさに現在進行形で進化し続けている様子を披露した。
『SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬』
5月19日(土)より全国公開中
監督:相原裕美
出演:鋤田正義 布袋寅泰 ジム・ジャームッシュ 山本寛斎 永瀬正敏 糸井重里 リリー・フランキー クリス・トーマス ポール・スミス 細野晴臣 坂本龍一 高橋幸宏 MIYAVI PANTA 是枝裕和 立川直樹 高橋靖子
配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
【作品概要】 デヴィッド・ボウイをはじめ、世界的アーティストの代表的なポートレートやアルバムジャケットを数多く手がけてきた日本人写真家がいる―。鋤田正義、この5月で80歳。ボウイとの親交は40余年に及び、マーク・ボランを撮った1枚は、ギタリスト・布袋寅泰の人生を決定づけた。本作では鋤田自身が写真への情熱を語るだけでなく、錚々たるアーティストたちが貴重な撮影秘話を披露し、彼の人柄や創作活動に迫ってゆく。
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