名作『スタンド・バイ・ミー』、『恋人たちの予感』、『ミザリー』のロブ・ライナー監督による初監督作品で、架空のロックバンド「スパイナル・タップ」の全米ツアーに密着した、1984年製作のモキュメンタリー映画『スパイナル・タップ』が6月16日より公開中。このほど、6月17日に新宿武蔵野館にて公開記念トークショーが行われ、音楽評論家の伊藤政則が登壇した。
上映直後の興奮冷めやらぬ観客に迎えられた伊藤。1984年当時、イギリスに行っていたことがきっかけですでに本作の存在を知っていた伊藤は、本作の印象を「面白いけど日本では公開できないだろうな」と思ったと振り返った。「84年当時、アメリカではMTVは登場していたけど、ロックが成熟してくるのは更に1~2年後なんです。この映画が目指したのはサタデー・ナイト・ライブとかブルース・ブラザーズのような“ロックを笑う”ということ。ロック・ビジネスやロック好きな観客を引っ張り出して笑う、ということだったのです。1984年のアメリカのロックシーンはヴァン・ヘイレンがやっと出始めたくらい。まだロック・ビジネスはそこまで成熟してなかった。すでにロックが成熟しているイギリスのバンドと、アメリカのまだ成熟していないロック・ビジネスを描いているところが面白い作品なんです。僕が当時の日本で公開してもどうかなって思ったのは、まだ当時の日本のロックシーンがそこまでいってないから。そうゆう文化が根付いていない日本人が観ても、わからない部分が沢山あっただろうなって思います」と、当時の欧米のロックシーンを説明しながら、日本でロックが根付いた今だからこそ楽しめる作品であることをアピールした。
さらに、本作の面白さについては、「この映画には真実が沢山描かれています。ストーンヘンジのシーンはブラック・サバスから持ってきているネタ。ブラック・サバスは巨大なストーンヘンジをステージに登場させたのですが、その揶揄で劇中に小さいストーンヘンジが出てきてるんです。当時のブラック・サバスはダメなバンドになっていたので、そうゆうところでイギリス人は大笑いしたんです。あと、インタビューのシーンでナイジェルのギターに値段のタグがついている。あれは当時、楽器メーカーから提供されたギターやベースをこっそり売却しちゃうミュージシャンがいたんです。だから彼のギターに値札がついたままになっているのはとってもリアルだったんです。そうゆう笑いは当時の日本人にはわからないですよね」と説明。また、劇中に登場する目盛り11のマーシャルのアンプについては、「マーシャルはとても高価だったんだけど、マーシャルを使うというのがロックミュージシャンの夢だったんです。音がデカいのはロックの目的の一つ。演奏は二の次だったんです。だからマーシャルの目盛りが11まであるなんて、バカバカしくて欧米人は笑えたんです」と本作に盛り込まれた爆笑ポイントを明かした。
多くのミュージシャンと接してきた伊藤は、『スパイナル・タップ』のような珍エピソードはあったのか聞かれると、「マリリン・マンソンがサマソニに来た時に、大阪のペットショップに行きたいと言われたので連れて行ったそうです。それで彼はハムスターとカブトムシを買ったんですけどね。いよいよライブが始まるっていう時にホテルから電話がかかってきて、“マンソンの部屋をどうにかしてくれ”と言われたらしくて。こっちはライブが始まるのにそんな場合じゃないんだけど、どうしてもと頼まれたのでホテルに行ってみたら、ハムスターが部屋に放し飼いになっていたそうですよ」と嘘のような話を披露した。
最後に、30年の時を超えて公開した本作について、伊藤は「やっと日本もロックやヘヴィメタルで笑えるようになりましたね。当時、日本でヘヴィメタルは一つの特定ジャンルにすぎなくて、いつか消え去るものだとみられていたんです。やっと日本のファンの方々もこういう映画を愉しむことができるようになったという気がします」と語り、イベントは終了した。
『スパイナル・タップ』
6月16日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
監督:ロブ・ライナー
製作:カレン・マーフィ
出演:ロブ・ライナー マイケル・マッキーン クリストファー・ゲスト
配給:アンプラグド
【ストーリー】 「スパイナル・タップ」は60年代にデビューし、かつて一世を風靡したイギリスの人気ロックバンド。ビートルズ・スタイル、フラワーチルドレン…時代とともに音楽性も変化させてきた彼ら。そして時は80年代、最先端であるハードロック・スタイルを武器に現在に至っている。そんななか、アルバム「Smell the Glove」のリリースが決定、大々的な全米ツアーを行うことになった!彼らの大ファンである映画監督マーティ・ディ・ベルギーは、ツアーに密着を決意。映し出されるのは、結成秘話からメンバーたちの苦悩、歴代ドラマーの怪死、トラブルから感動のステージまで、次々と明かされるファン必見のエピソードの数々。伝説のロック・ドキュメンタリー『スパイナル・タップ』がここに誕生する―!!
©1984 STUDIOCANAL All Rights Reserved.