『三度目の殺人』が数々の賞で称えられた是枝裕和監督の長編14作目となる最新作『万引き家族』が、第71回カンヌ国際映画祭 「コンペティション」部門で最高賞であるパルムドールを受賞した。このほど、多彩な映像制作者たちをゲストに招き、制作にまつわる様々な事柄を語る早稲田大学の人気講義「マスターズ・オブ・シネマ」に、同大学の教授(基幹理工学部)も務める是枝裕和監督と、ゲストに松岡茉優が登壇。学生からの質疑応答などが実施された。
学生で満席となった会場に松岡が登場すると、客席からは大きな歓声が。是枝監督からキャリアを聞かれた松岡は「キャリアでいうと15年。ギュッとすると5年位。不遇の子役時代があって(笑)」と述べつつ、『万引き家族』で是枝監督の子役への指導方法を見て「とてつもなく愛のあるやり方。私も子役の時に監督と出会っていたら、今とんでもない女優になっている」と話すと、是枝監督から「(すでにもう)とんでもない女優になってますよ」とツッコまれ、「またまた〜」と嬉しいそうに照れ笑いを浮かべた。
『勝手にふるえてろと』と『万引き家族』の芝居の違いについて、「決定的な違いがある」と述べた松岡。「不遇の子役時代があり同世代の人たちがスターになっていく様を見て、苦虫をかみまくっていた。その時からずっと芝居に対するジンクスがあって、これはこうあるべき。これはこうしたほうが効果的という考え方があった。その最終形態を出したのが『勝手にふるえてろ』」と作品で自身の経験を出し切ったと語り、対して『万引き家族』では「それをやるとOKがでない。だから自分の経験を全部捨てて、私本来の姿でやった」と素に近い状態で挑んだことを話しつつ、「その後に三谷幸喜さんの舞台でお江戸コメディ(「江戸は燃えているか」)をやったので、舵を切りすぎてショートしました(笑)」と笑った。
『万引き家族』では、各世代で一番上手い役者を選んだという是枝。「今回は樹木希林さんがいて、安藤サクラさんがいて。そこに太刀打ちできるのは相当じゃないと」と松岡を絶賛。「リリー(・フランキー)さんは、3人を化物と言ってました」という是枝に、「ドラゴンと恐竜とトカゲ」と3人を比喩した松岡。「今までは経験則でゲームをクリアしてたけど、今回はレベル1からのスタート。そのフィールドにレベル100とか2000の人がいて…」と、松岡はかなり自信を失ったという。「樹木希林さんはすでに伝説的な人ですが、安藤サクラさんは全女優さんにとって、絶望的な存在。絶望的に素晴らしいお芝居をする」としんみり。カンヌのレッドカーペットを歩いた時も「この方と同じ笑顔では歩けないと思った。10年、20年かかるかもしれないが、この人と同じ笑顔でカンヌのレッドカーペットを歩きたい」と本音を明かした。
三谷幸喜と是枝監督と一緒に仕事をすることが夢だったという松岡は「それが去年の12月末から4ヶ月で叶った。私の人生のチャプター1が終わった」と述べ、「2ndステージの目標は、人として豊かになること。今回の仕事を通して、樹木希林さん、安藤サクラさんの女性としての豊かさを感じました。人としての年輪を厚くするために、いろいろなものを新しい気持ちでインプットしていきたい」と述べ、イベントは終了した。
『万引き家族』
6月8日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督・脚本・編集:是枝裕和
出演:リリー・フランキー 安藤サクラ
松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ
緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 / 柄本明
高良健吾 池脇千鶴 / 樹木希林
配給:ギャガ
【ストーリー】 高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が転がり込んで暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である初枝の年金だ。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震えていた幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として育てることにする。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく─。
(C)2018『万引き家族』 製作委員会