町山智浩「撮り直しだけで10億円!監督はケビン・スペイシーに対して…!?」映画『ゲティ家の身代金』公開記念トークイベントレポート

1973年に発生し、大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫の誘拐事件を映画化した、巨匠リドリー・スコット監督最新作『ゲティ家の身代金』が5月25日より全国ロードショーとなる。それに先立ち、5月7日に東京・神楽座で公開記念トークイベントが行われ、映画評論家の町山智浩が登壇した。

この誘拐事件は、1700万ドル(当時のレートで約50億円)という破格の身代金を要求されるも、50億ドル(当時のレートで約1.4兆円)の資産を持つゲティがその支払いを拒否したことが有名で、日本のメディアでも大きく報道された。本作では、この事件の裏側で、誘拐犯と身代金を拒むゲティの間で戦い続けた人質の母親の姿を描く。

当初、ゲティ役はケヴィン・スペイシーが演じるはずだったが、セクハラ疑惑の発覚により、2017年11月に降板。映画は既に完成しており、全米公開は1ヶ月後に控えていたが、スコット監督が再撮影を決行し、急遽クリストファー・プラマーがキャスティングされた。その2週間後には映画を完成させ、第90回アカデミー賞(助演男優賞)、第75回ゴールデングローブ賞(監督賞、主演女優賞、助演男優賞)、第71回英国アカデミー賞(助演男優賞)にノミネートされるという快挙を達成し、クリストファー・プラマーは本作で自らが持つアカデミー賞演技部門ノミネートの歴代最高齢記録を更新した。

町山はこの件に関して「撮り直したシーンがすごくお金がかかるシーンで。ゲティさんの大豪邸で撮影したシーンなんですけど、撮り直しだけで10億円かかっている。インタビューでリドリー・スコット監督に会えたので『撮り直しの件で、ケビン・スペイシーのことはどう思いますか?』と質問したら、『ぶっ殺したいよ!でも行方不明で見つからないんだ!』って(笑)。雲隠れしてどうしようもないと言ってました(笑)」と映画の裏話を明かした。

リドリー・スコット監督は、もともとクリストファー・プラマーをゲティ役に考えていたというが、「映画会社の方からもっと大物を使ってくれと言われて、ケビン・スペイシーに無理やりメイクしてやらせたそうなんです。だから結果として良かった」と町山。続けて、「リドリー・スコット監督は『全然違う映画になっちゃった。俳優が違うだけで、全く違う人格になった』と言ってました(笑)」と話しつつ、「ケビン・スペイシー版は、ものすごい冷酷非情の金持ち。人間というよりは悪魔のようなキャラクター。クリストファー・プラマーは、人情を入れてきた。彼にもインタビューしましたが、ゲティさんについて全く調査しなかったし、ケビン・スペイシー版のフィルムも観なかったそうです」とインタビューでの貴重なエピソードを明かしてくれた。

町山は監督とのインタビューで犯人たちの話も聞いたという。「監督は犯人側から脅迫されたそうです。監督のところに手紙が来て、『うちの組をチンケな悪党として描くんじゃねえ!』と言われたそうで(笑)」と述べ、手紙の送り主であるイタリアのンドランゲタという犯罪組織について「イタリアのGDPの3%がンドランゲタで、国家権力も介入できない」と説明していた。

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『ゲティ家の身代金』
5月25日(金)全国公開
監督:リドリー・スコット
出演:ミシェル・ウィリアムズ クリストファー・プラマー ロマン・デュリス チャーリー・プラマー マーク・ウォールバーグ
配給:KADOKAWA

【ストーリー】 “世界中のすべての金を手にした”と言われた大富豪ジャン・ポール・ゲティ。愛する17歳の孫ポールが誘拐され1700万ドル(当時のレートで約50億円)という破格の身代金を要求されたゲティは、こともあろうかその支払いを拒否。彼は大富豪であると同時に、稀代の守銭奴だったのだ。離婚によりゲティ家から離れ中流家庭の人間となっていたポールの母ゲイルは、息子のために誘拐犯のみならず世界一の大富豪とも戦うことに。一方、一向に身代金が払われる様子がないことに犯人は痺れを切らし、ポールの身に危険が迫る。しかし、事件は思いもよらぬ展開へと発展していく。

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