「“死”を見つめるからこそ“生”が輝く」内田也哉子が語る、坂本龍一への想いと“命の祝福の旅物語”

世界的音楽家・坂本龍一の最後の3年半を追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』(監督:大森健生)が、11月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開される。公開に先駆けて行われた先行試写会には、文筆家で無言館共同館主の内田也哉子さん、そしてプロデューサーの佐渡岳利氏が登壇し、作品に込められた“生と死”への想いを語った。

試写を鑑賞した内田さんは、開口一番こう語った。「偉大な音楽家の生き様というのはもとより、一人の人間の、生きて、やがて枯れていく自然の姿を見守るような、とても親密な映画でした。この機会に出会えて幸せでした」

30年前、ニューヨークで坂本龍一と出会ったという内田さん。「仏様のように座っていらして、でもバッドボーイのような危うさもあって、すごくかっこいい大人だなと衝撃を受けました」と当時の印象を振り返る。さらに、坂本が子どもと真摯に向き合う姿を目にした思い出を明かし、「いつか親になった時、あんな風に子供とフラットに語り合えたら…」と憧れを抱いたと語った。

内田さんは、母・樹木希林さんの晩年を思い起こしながら、坂本龍一の“死”への向き合い方に深い共感を示した。「母は『こうして人は死ぬんだよ』と私に見せてくれた。死を見つめるからこそ、今持っている“生”が輝く。一分一秒を無駄にできないという話だったのだと思います」

そして坂本龍一の姿勢について、「坂本さんも相当な覚悟をもって、自分が必死に生きて閉じていく姿を、人生の通過点として受け取ってもらいたかったのでは」と静かに語りかけた。

本作のプロデューサー・佐渡岳利氏は、坂本龍一との出会いを「NHK番組“どてらYMO”」と語り、「興味を持ったことにストレートで、やると決めたら一直線。意識を変えてくれた存在」と回想。さらに「坂本さんが死に直面しながらも、どう音楽を生み出していったのかを描く作品になった」と語った。映画の核となる「日記」は、坂本本人が晩年に綴ったもの。佐渡氏は「普段とブレない姿に驚いた」と振り返り、坂本の誠実な人間像を滲ませた。

イベントの最後、内田さんはこう締めくくった。「坂本さんはこの世に身体としてはいらっしゃらない。それは悲しいことですが、残された音楽や想いは確実に生きています。老若男女、誰もが何かを受け取れる“命の祝福の旅物語”。何度でも観てください」その言葉に、会場は静かな感動に包まれた。

■作品情報
タイトル:『Ryuichi Sakamoto: Diaries』
監督:大森健生
出演:坂本龍一
朗読:田中泯
プロデューサー:佐渡岳利、飯田雅裕
製作:NHKエンタープライズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ、コムデシネマ・ジャポン
公開日:2025年11月28日(金)より TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

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