大泉洋「泯さんだけがタイムスリップしてきた人に見える」、田中泯「僕はセリフを覚えるのが嫌い」『名付けようのない踊り』対談映像

『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『のぼうの城』などで知られる犬童一心監督が、世界的なダンサーとして活躍する田中泯の踊りと生き様を追った映画『名付けようのない踊り』が、1月28日より公開される。このほど、公私共に親交のある、俳優・大泉洋と田中泯の対談映像がお披露目となった。

1978年にパリデビューを果たし、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現、そのダンスの公演歴は現在までに3000回を超える田中泯。映画『たそがれ清兵衛』から始まった映像作品への出演も、ハリウッドからアジアまで広がっている。そんな独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、『メゾン・ド・ヒミコ』への出演オファーをきっかけに親交を重ねてきた犬童一心監督が、ポルトガル、パリ、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら撮影した。同じ踊りはなく、どのジャンルにも属さない田中泯のダンスを、息がかかるほど間近に感じながら、見るものの五感を研ぎ澄ます。

▼対談映像 前編

▼対談映像 後編

大泉洋と田中泯が初共演を果たしたのは、2015年放送(能登で最初に行われた撮影は2014年)のNHK朝の連続テレビ小説「まれ」の時にさかのぼる。だが、映像では大泉が「でも実は、そのちょっと前に京都の撮影所でお会いしているんですよ。その後に朝ドラ(での共演)が決まったんで。不思議なご縁もあるなと思ったんですよ」と明かすも、その言葉に驚いた様子で田中は「本当に?記憶違いなんじゃないの?」と笑ってみせた。さらに朝ドラ「まれ」の撮影を振り返った大泉は、「(塩田での塩作りのために)塩田に立ってるあのお姿は、本物よりも本物らしいというか。何をやってもそうなっちゃうのがすごいなと。大河ドラマ(「鎌倉殿の13人」)でも泯さんだけがタイムスリップしてきた人に見えるんですよ。なんでなんだろうなと思いますよね」と感心した様子を見せた。

近年、俳優として映画・ドラマへの出演が相次ぐ田中は、「僕はセリフを覚えるのが嫌いだし、上手に喋れるわけでもない。だからまず、その人はどういう気配を放っているのか、背中はどうなっているのか、肩がどうなっているのか、そっちの方に関心がいってしまう。身体がその人になるというかね」とその役作りのアプローチを説明。それを聞いた大泉も「僕らだと、どうしてもセリフに頼っちゃうから。でも泯さんはそうじゃない。泯さんの踊りというのもそういうところから入っているんでしょうね」とその独特なアプローチに感心していた。

大泉が田中の踊りを初めて見たのは、中野区にある小劇場「plan-B」での公演であり、その光景がどうにも忘れられなかったという。「あの地下の狭いスタジオでギュウギュウになりながら観たんですが、暗闇の中から弱い光がフワッと浮かび上がると、泯さんが角材をおでこに当てて三角形にしていて。そこから動かないわけです。でもそこでおでこの角材がドーンと外れて、泯さんが崩れ落ちて、倒れてしまった。どうするのかなと思ったら、そこからまた角材を持ってジワーッと、ゆっくりと立ち上がって。また三角形になった。誰も何も言わない。とにかく静寂が流れるだけ。あれは何でしょうねぇ」とその時の様子を克明に描写する大泉。「あれだけ動かないものを見ているのに、体験としてはすごいスリリングなわけですよ。もう劇的としか言いようがない。衝撃的な体験でしたね」と語る大泉の言葉もどんどん熱を帯びてくる。「それで終わった後に泯さんとお話をする機会があって。『あの角材で三角形になった時はどんな気持ちだったんですか』と聞いたら、『きれいな三角形でしょ、と思っているんです』と。『では角材がバーンと外れたのはああいう演出なんですか』と聞いたら、『あれはビックリしました』って。『ハプニングなんですか?』と聞いたら『そうですよ』だって」などとそのやりとりが可笑しくてしょうがないという大泉に対して、田中も笑顔で「終わった後に、あなたが『笑っちゃいけないんですか』って言ったのがうれしかったんですよ」とクスクス笑い。さらに「僕はね、笑おうが怒ろうが、その見ている人の中に、きっかけがすべてあるはずなんです。だからあそこでゲラゲラと笑い声が出ても、まったく僕は平気なんですよ。平気というよりはむしろ望んでいるわけです。それが当たり前なんだから」とその踊りに対する思いを語った。その後も田中の語る独特な踊りの哲学を聞いていた大泉は「なんかこうやって話していると、役者の仕事もそうだなと思うんですよね。だから次のお仕事はもっと上手にできるんじゃないかと、泯さんと話し合うと思いますね」としみじみした様子だった。

そんな大泉が今回のドキュメンタリー映画について「誰もが泯さんの踊りを生で見られるというわけではないからこそ、この映画は観た方がいい。こんな世界があるのかと思いますし、めくるめく(踊りの)世界が広がってるので。そういった意味では犬童(一心)監督がよくぞいろんなところについていって、撮ってくれたなと思いますね」と語ると、「田中泯さんの踊りにまだ出会ってないという方にとっては、本当に素晴らしい機会だと思う。これはぜひ見てもらえたら面白いと思います」と観客にメッセージを送った。その上で、最後に「なぜ今、彼に惹かれるのか?」と改めて問いかけられた大泉は、「僕は突きつけられる感覚というか、それでいいのか、お前と言われてるような感覚があるんです」と前置きしつつ、「自分じゃ、なかなかムチを入れられないんですけど、そのムチを目の前で入れてもらえるというか。そういう感覚が欲しくて、田中泯を見たいと思うんじゃないですかね」と田中の魅力について言葉をかみ締めるように口にした。

『名付けようのない踊り』
2022年1月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマほか全国公開
監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:犬童一心
アニメーション:山村浩二
音楽:上野耕路
出演:田中泯 石原淋 中村達也 大友良英 ライコー・フェリックス 松岡正剛
配給:ハピネットファントム・スタジオ

【作品概要】 1978年にパリデビューを果たし、世界中のアーティストと数々のコラボレーションを実現し、そのダンス歴は現在までに3000回を超える田中泯。映画『たそがれ清兵衛』から始まった映像作品への出演も、ハリウッドからアジアまで広がっている。40歳の時、田中泯は“畑仕事によって自らの身体を作り、その身体で踊る”ことを決めた。そして74歳、ポルトガルはサンタクルスの街角で踊り、「幸せだ」と語る姿は、どんな時代にあっても好きな事を極め、心のままに生きる素晴らしさを気付かせてくれる。そんな独自の存在であり続ける田中泯のダンスを、『メゾン・ド・ヒミコ』への出演をきっかけに親交を重ねてきた犬童一心監督が、ポルトガル、パリ、山梨、福島などを巡りながら撮影。また、『頭山』でアカデミー賞短編アニメーション部門に日本人で初めてノミネートされた山村浩二によるアニメーションによって、田中泯のこども時代が情感豊かに点描され、ぶれない生き方が紐解かれていく。

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