第3回東京ドキュメンタリー映画祭で長編部門グランプリと観客賞をW受賞した、フィリピンのスラム街に住む、日本に帰ることのできない過去を背負った邦人男性たちの生活と、そのまわりに生きる現地の人々を7年間追い続けたドキュメンタリー『なれのはて』が、12月18日より公開されることが決定した。併せて、ポスタービジュアルと場面写真がお披露目となった。
マニラの貧困地区、路地の奥にひっそりと住む高齢の日本人男性たち。「困窮邦人」と呼ばれる彼らは、まわりの人の助けを借りながら、僅かな日銭を稼ぎ、細々と毎日を過ごしている。警察官、暴力団員、証券会社員、トラック運転手…かつては日本で職に就き、家族がいるのにも関わらず、何らかの理由で帰国しないまま、そこで人生の最後となるであろう日々を送る。本作は、この地で寄る辺なく暮らす4人の老人男性の姿を、実に7年間の歳月をかけて追ったドキュメンタリー。
半身が不自由になり、近隣の人々の助けを借りてリハビリする男、連れ添った現地妻とささやかながら仲睦まじい生活を送る男、便所掃除をして軒下に居候している男、最も稼げないジープの呼び込みでフィリピンの家族を支える男…。カメラは、彼らの日常、そしてそのまわりのスラムの人々の姿を淡々と捉えていく。
監督は、原将人監督作『20世紀ノスタルジア』、矢崎仁司監督作『ストロベリーショートケイクス』、松井良彦監督作『どこに行くの?』などの助監督を務めた粂田剛。当初はテレビ番組のディレクターとして、「困窮邦人」が番組になるのではと考え、フィリピンに通ってリサーチを続けていたが、内容的にテレビでは難しいと判断し、映画として発表することを決めた。それから7年間、断続的に一人で現地に通い、彼らと交流を深めていく中でカメラを回し続けた。
それぞれがそれぞれの理由で祖国に居場所を失った男たち。日本で生きていくことができない彼らが、なぜフィリピンでなら生きていけるのか?それは、日本にいる者にとっても“幸せとは何か”という重い問いを突き付ける。
■粂田剛(本作監督) コメント
この映画の撮影のために、2012年から2019年にかけて20回ほどマニラを訪れた。1回の滞在が10日から2週間、帰国する頃にはすっかりフィリピンに馴染んでいた。だからなのか、日本に帰って来るたびに、何とも言いようのない違和感を覚えた。静かで、清潔で、整然とした街並みが、自分を拒絶しているかのような…マニラの猥雑で、臭くて、喧騒に満ちた空間が妙に懐かしかった。隣近所の迷惑など考えずフルボリュームで音楽を流し、カラオケを歌い、怒鳴り声や泣き声、そして笑い声の絶えない路地が。もちろん、そんな違和感はしばらくすると消え去り、当たり前のように日本での日常に埋もれていくのだ。でも、振り返ると、あの違和感こそが、男たちがフィリピンで生きることを選択した理由だったのではないかと思う。全てが整理された日本ではなく、混沌としたフィリピンだからこそ、きっと彼らは自分が身を置く“隙間”を見つけることができたのだ。観客の皆さんにも『なれのはて』を通じてフィリピンの奇妙に温かいカオスを体感していただけたら幸いだ。
『なれのはて』
12月18日(土)より、新宿K’s cinemaほか全国順次公開
監督・撮影・編集:粂田 剛
音楽:高岡大祐
出演:嶋村正 安岡一生 谷口俊比古 平山敏春
配給:ブライトホース・フィルム
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