齊藤工「初めての映画の現場は20年前、北村一輝さんの撮影見学だった。今回ご一緒出来て大変誇らしい」

インドネシア、日本、韓国、マレーシア、シンガポール、タイの6ヶ国を舞台に描かれた6エピソードからなるホラー・アンソロジー『フォークロア』。うち2作品『TATAMI』『母の愛』が、第32回東京国際映画祭内「CROSSCUT ASIA部門 #06ファンタスティック!東南アジア」にて特別上映され、上映終了後、『TATAMI』の齊藤工監督、キャストの北村一輝、黒田大輔、そして『母の愛』のジョコ・アンワル監督が登壇した。

日本を代表して初のホラー作品の監督にチャレンジした齊藤監督は、「自分が初めて映画の現場に関わらせて頂いたのは20年前、北村一輝さんの撮影の現場見学でした。それが今回主演として北村さんとご一緒出来たのは大変誇らしいです。もちろんジョコ監督とご一緒出来たのも大変うれしく思っております」と北村との驚きの接点を明かした。対して『TATAMI』で主演を務めた北村は、「齊藤監督と初めてお会いした20年前当時、『映画を撮りたいです』とおっしゃっていまして、『その時はぜひ俺を使ってくれ』と言ったのを覚えています。それが本当に叶ったことが、とても嬉しかったです」と語った。インドネシアのホラー王ジョコ監督も、「私が2005年に撮ったデビュー作が当時の東京国際映画祭で上映されました。ですので、僕にとってこの東京国際映画祭が初めての映画祭なので特に思い入れがあります」と東京国際映画祭に対する意外な接点を口にし、齊藤監督も「インドネシアホラーの巨匠ジョコ監督の作品は大好きで刺激をたくさん頂いています」と尊敬の念を述べた。

Q&Aでは、上映直後ということもあり、興奮冷めやらぬ中、多数の観客から手が挙がった。「2作品とも着想を得る題材となるものはあったか」という質問に、齊藤監督は「今回のプロジェクトのテーマがスポーツのアジア予選のようだと感じ、まず日本特有の“伝承”ということで“畳”を思い浮かべました。実は外国語には畳にあたる単語が無く、そのまま“TATAMI”と表現されるのです。さらに日本特有の“藁人形”も日本人に馴染み深い畳と同じイグサとワラでできているそうなので“タタミ一畳分の恨みを込める”という思いで“畳”という言葉から着想を得ました」とコメント。対してジョコ監督は「インドネシアの怪談話から着想を得ました。親に愛されない子供を誘拐し自分の無念の裏に隠してしまう、というお化けの話があるのですが、よく母に『悪さをするとお化けに攫われるわよ』と脅かされたものです。母は厳しくも私を愛してくれました。劇中の母親像は私の母がモデルなのです。なので、あの主人公は私ですね」と作品の根幹が実生活にあったことを明かした。

次に、役作りについて問われると、北村は「俳優とはセリフをうまく言うだけではなく、監督、脚本の意図をどれだけ表現できるかだと思っています。今回は主人公視点のカットが多かったため、監督たちと打ち合わせを重ね、観客が疑似体験しやすいように、主人公自体は大きすぎるリアクションはせず、控えめにフレームに映るように心がけました」と撮影秘話を語った。また、齊藤監督はどんな人かと問われると、「現場では怖かったですよ(笑)」と冗談で会場を沸かし「齊藤監督は俳優もやられていますので、演者の気持ちがすごく分かっていました。準備に時間をかけるのもそうですが、同じくらいキャストとのディスカッションの時間をたくさんとり、そのおかげでホラー作品ではあったものの現場は爽やかな風が吹いたように温かくフレンドリーな雰囲気でした」と続けた。それに対して齊藤監督は「本当にキャストの皆さんの演技に頼りっぱなしで、(『TATAMI』で)義父役の黒田(大輔)さんの演技は特に鳥肌モノでした。そしてアジアの優秀な映像作品に贈られるアジアンアカデミークリエイティブアワードという賞で、北村さんが主演男優賞を、義母役の神野三鈴さんが主演女優賞、ジョコ監督も脚本賞を受賞いたしました。これをきっかけとしてアジア映画がさらに世界で盛り上がってくれればと願っています」とコメントした。

最後のフォトセッションでは黒田大輔も登場し、ホラー作品のイベントであるものの温かな雰囲気のままイベントは締めくくられた。

『フォークロア:母の愛』
監督:ジョコ・アンワル
出演:マリッサ・アニタ テウク・ムザク・ラムダン
【作品概要】 インドネシア篇は『悪魔の奴隷』などの熟達のホラー王、ジョコ・アンワルが監督。住処を追い出された母と息子に怪奇現象が降りかかる。

『フォークロア:TATAMI』
監督:齊藤工
出演:北村一輝 神野三鈴 黒田大輔 大西信満
【作品概要】 日本編は俳優・斎藤工が監督として初のホラーにチャレンジ!父の葬儀に帰郷した男が、家族の秘められた過去を知るが…。北村一輝主演。