『悪人』、『怒り』など多数の著書が映像化されるベストセラー作家・吉田修一による傑作短編集「犯罪小説集」を、主演に綾野剛、共演に杉咲花、佐藤浩市を迎えて『64-ロクヨン-』の瀬々敬久監督が映画化した『楽園』が10月18日より公開される。このほど、本作の公開に先立ち、10月9日にTOHOシネマズ 梅田にて舞台挨拶が行われ、キャストの綾野剛、佐藤浩市、瀬々敬久監督が登壇した。
多くの観客で埋め尽くされた会場に、綾野剛、佐藤浩市、瀬々監督が登場。すると、事前に登壇者を知らされてなかった観客からは驚きと興奮に包まれた歓声が沸き起こった。綾野は「皆さん、こんばんは。大阪~大好き~!(観客「いえ~い!」)いいですね~。これがやりたかったんです。今日の一番やりたかったことができました。今から作品を観て頂くということで、砕けてもよくないかなと思いつつ、この時間はこの時間なので。楽しみましょう。宜しくお願いします」、佐藤は「どうもこんばんは。佐藤です。えーー、壊れてます(笑)。今日は朝から稼働していて、ちょい壊れかけています(笑)。楽しめるような作品ではないと思いますが、何か持って帰って頂きたいなと思います。本日はどうぞ、宜しくお願い致します」、瀬々監督は「一時期関西に住んでいたこともあったので、お!ナビオ阪急か。と思って来ました。あとこの劇場は、シネコンらしからぬ、昔ながらの劇場スタイルなので、いい感じだなと思っています。今日は宜しくお願いします」とそれぞれの挨拶で和やかにスタートした。
関西への思いに対する質問に「関西大好き!」と即答した綾野は「大阪で撮影をしたことがないので、今後ぜひ大阪で撮影がしたい」と熱望。撮影場所はたくさんあるのでぜひというMCに対し「ほんまですか?いや、ゆうてもでしょ~?」と関西弁でツッコむシーンも。一方、佐藤は「僕らの世代は京都の撮影所が非常に多くの作品を撮っていた時代なので、僕にとっての関西は京都ですね」と振り返った。
3名とも『64-ロクヨン-』でタッグを組んでおり、今回それ以来の再集結となった。瀬々監督は二人の魅力を「綾野さんは15年以上前、まだこんなにメジャーになる前から知っているけれど、繊細さとインディーズ魂を持ち続けており、作品の大小に関わらず取り組んでくれ、それが作品によく出ているなと思います。浩市さんは、見えないと思いますけど同い年で(笑)、頼れる上司みたいな役が多いですが、実はとても優しい心の持ち主だなと思っています」と語った。
綾野は佐藤に対し、「『64-ロクヨン-』からずっと背中を見続けていますね。浩市さんの背中には修羅があるというか、今まで起こった色々なことや思いを背中から感じるんです。今回ご一緒出来ることになった時もとても安心感がありました。普段はプライベートでも食事に行ったりします」と信頼感をにじませた。一方、佐藤は綾野を「ハードな部分とソフトな部分を持ち合わせていますね。中堅と呼ばれる一番難しい年齢に差し掛かっていますが、例えば、綱渡りをするにしても安全な渡り方をしたいって思う役者もいるけれど、どうせやるなら目隠しして渡った方がおもしろいでしょって言えるハードな面もあるし、冷静にちゃんと人を観察している面もあり、すごく多面的な部分を持った役者だと思います」と絶賛。照れた綾野は「今めっちゃ観察してます」と客席を見つめ、笑いを誘った。
また、本作の役にちなんで“追い詰めたこと、追い詰められたことはあるか”という質問に対し、綾野は「自分で自分を追い込んで、追い詰められていますね。どうやったら映画に対して等価交換できるのかということを考えて精神的にも追い込んで、今回もいいとこまでいけたかなと思います」とストイックさを感じさせた。対する佐藤は「僕らの時代は追い込まれまくりですね。相米慎二監督というワンシーンワンカットで有名な監督がいて、『魚影の群れ』という映画の撮影初日は午前中いっぱいリハで、午後になってやっとテイクを回し始めて、何十テイクも撮った後に、今日はもうやめようと言われて凄くショックでした。けれど、そういった追い込まれた状況っていうのは、その後の自分にとって決してマイナスじゃなかったと思いますね」と当時を振り返った。一方、昨日飲みすぎたという監督は「僕はもう毎日追い詰められて生きてますよ。今も追い詰められてます。早く帰りたいです」のセリフに、すかさず綾野が「ただの二日酔いじゃないですか」とツッコみ、場内は笑いに包まれた。
また、最近大盛り上がりのスポーツについて話題がおよび、スポーツ大好きな綾野は「ラグビーに、世界陸上に、マラソンのMGCに、そろそろ出雲駅伝も始まりますよね!本当によだれダラダラです。映画はどこか虚構な部分がありますが、スポーツは無条件で本当に圧倒的なノンフィクションですよね」と目を輝かせた。佐藤は「我が横浜ベイスターズは阪神タイガースさんに先日負けましたもので。ぜひ阪神タイガースの皆さんには巨人戦頑張っていただきたいと思います!!」とエールを送り客席から大きな笑いと拍手が起こった。するとなんと巨人ファンだという監督が「さっき速報をみたら現在巨人が勝っているそうです!僕の嫁は阪神ファンなので、帰ったらバトルが起きると思います」と続けた。
最後に、瀬々監督は「丁度1989年に監督になって30年目になるのですが、『楽園』は30周年記念映画だと思っています。いつの間にかなんでこんな時代になっちゃったのかなぁと、普段思ったりします。こんなにいがみ合ったりとか、国と国が憎しみあったり、こんなはずじゃなかったなぁと。そんなことを思いつつ作った映画です。何か感じてもらえればいいなと思います」、佐藤は「掛け違えたボタンというのは掛け直すことができるんですけど、掛け違えたボタンを掛け直すこともできずに、自分で一番望まない所に向かってしまう弱者がいるという事を、観て考えて頂けたら嬉しいなと思います。その中で、そこに『楽園』というこのタイトルの意味合いとかを色々オーバーラップにして考えてほしいです」、綾野は「この映画が皆さんにとって、出会ってよかったと思える作品になったら本当に幸いですし、舞台挨拶前も流れていましたけど、『一縷』という曲があります。これは“一括り、ひとまとめ”という言い方もできるんですけど、きっとこの作品で皆さん打ちのめされる部分もあると思いますし、苦しくなる部分もあると思います。ですが、この楽曲が必ず皆さんを包み込んでくれていると信じております。帰られた後、ご家族だとか、お子さんなのか、兄弟なのか、彼氏なのか彼女なのか、自分にとって大切な愛おしい人をもう一度抱きしめてみてください。この映画は、世の中には抱きしめなければいけない人がいるということを、僕たちは映画という形で伝えられたらと思っておりますので、皆さんにこの映画を託します。是非受け取って頂けたら幸いです」と挨拶し締めくくった。
『楽園』
10月18日(金)全国公開
監督・脚本:瀬々敬久
原作:吉田修一「犯罪小説集」
主題歌:上白石萌音「一縷」 作詞・作曲・プロデュース:野田洋次郎
出演:綾野剛 杉咲花 村上虹郎 片岡礼子 黒沢あすか 石橋静河 根岸季衣 柄本明 佐藤浩市
配給:KADOKAWA
【ストーリー】 あるY字路で起こった少女失踪事件。未解決のまま、家族や周辺住民に深い影を落とし、直前まで一緒にいた少女の親友・紡(杉咲花)は罪悪感を抱えたまま成長する。12年後、またそこで少女が姿を消し、町営住宅で暮らす青年・中村豪士(綾野剛)が容疑者として疑われた。互いの不遇に共感しあっていた豪士を犯人とは信じ難い紡だったが、住民の疑念が一気に暴発し、追い詰められた豪士は街へと逃れ、思いもよらぬ自体に発展する。その惨事を目撃していた田中善次郎(佐藤浩市)は、Y字路に続く集落で、亡き妻を想いながら、愛犬・レオと暮らしていた。しかし、養蜂での村おこしの計画がこじれ、村人から拒絶され孤立を深めていく。次第に正気は失われ、想像もつかなかった事件が巻き起こる。Y字路から起こった二つの事件、そして3人の運命の結末は…?
© 2019「楽園」製作委員会