1979年に黒人刑事が過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)に潜入捜査するという事件を綴った同名ノンフィクション小説を映画化し、第91回アカデミー賞では脚色賞を受賞した、スパイク・リー監督最新作『ブラック・クランズマン』が3月22日より公開される。このほど、公開を記念して3月1日にアキバシアターにてスペシャルトークショーが開催され、字幕監修のオーサカ=モノレール 中田亮が登壇した。
上映後の熱気冷めやらぬ中、登場したのは本作の字幕監修を担当したファンクバンド・オーサカ=モノレールの中田亮。「僕の本業はジェームズ・ブラウンの研究家です。この映画の中でも彼の歌詞の話が出てくるんですよね。本当はそのシーンの字幕で名前入れたかったんですけど、J・Bって短くしちゃったので伝わりづらかったかも。ロンとフリップが黒人の喋り方を研究しているんですけど、あれおかしいんですよね。KKKに潜入するのに黒人の英語の喋り方を練習しているんですよ。今日はそんな映画の話をしていきたいと思います」と語り、本作の隠された見どころが明かされ、トークショーは始まった。
■スパイクが描くダメ主人公!彼が遅刻するにはわけがある!?
中田:映画の中で「WAKE UP!」ってずっと言われてる、主人公ロンはまだ目覚めてないボンクラヒーロなんですよね。遅刻してまた遅刻して・・「WAKE UP!=目を覚ませ!」というのはスパイク・リーが30年以上言い続けている重要な言葉です。『ドゥ・ザ・ライト・シング』でも最初に言ってるんですね。『スクール・デイズ』でも最後に「WAKE UP!」、『ジャングル・フィーバー』でも朝起きるところから始まります。そんなシーンの中にスパイク・リー監督は「黒人として目を覚ませ」というメッセージを込めてきており、今回の映画のテーマでもあります。最後の方にある映画の中で扉をドンドンと叩かれるシーンは、まさに「起きろよ!」と言われているんですね。アメリカでロンはヒーローなんですけど、映画の中では、格好つかないような様子も描かれていて全然ヒーローじゃないんです。最初見たらヒーローに見えるんですけど、何回か見ていくとヒーローじゃないなと思うこともあって。だからこの映画は何回も見ることで、ドンドン味の出てくる映画なんです。
■原作と映画との違いについて
中田:この映画は、所謂「事実に基づくお話」じゃないんです。入り口は本当の話ですけどね。白人警官が潜入捜査したこと、ロンが電話でデビッド・デュークと話して会員証をもらったことも、クワメ・トゥーレの演説に潜入したのは本当です。パトリスという女性が映画に出てきますが彼女は存在しないし、ユダヤ人の話も原作にはありません。そんな現実とフィクションが混ぜて作られているところがパズルっぽくて、この映画の面白いところなんです。
■KKKの今昔
中田:冒頭に出てくる『風と共に去りぬ』は南北戦争を描いた作品で日本では名作扱いされています。南北戦争で北軍が勝利し奴隷が解放された南部で、それに反発した白人たちによって最初のKKKが作られました。この映画にも登場する、松明を焚いて白頭巾をかぶっているKKKのスタイルが1916年以後で第二期のKKKと言われています。映画の中でKKKのメンバーたちが見ていたD・W・グリフィス監督の『國民の創生』はアメリカ初の長編映画になります。白人の黒人に対する恐怖を白人にうえつける内容でとんでもない映画です。この映画がきっかけで第二期KKKが生まれました。公民権法の制定まで黒人に対するリンチ活動は続きました。キング牧師は公民権運動で大きな成果をあげました。その後、ストークリー・カーマイケルが指導者になってブラックパワー運動を始めます。それから黒人のカルチャー、特に音楽が注目されるようになり、黒人のヒーローが活躍し楽しい側面もありました。そんなブラックカルチャーのブームに対して、違和感を持った一人がKKK最高幹部になったデビッド・デュークでした。21世紀になるとブッシュ政権のあとその後オバマ政権が誕生し、リベラリズムの良い時代になったんですが、低所得者層の白人はそんなオバマ政権を苦々しく思っていて、それが爆発して今のトランプ政権が誕生しました。いまだデビッドはトランプ大統領を支持しています。トランプ大統領は今のKKKと言えると映画は伝えます。この二つの時代がとても似ているということを描き出しているわけです。
■スパイク・リー監督アカデミー賞脚色賞受賞について
中田:第91回アカデミー賞で脚色賞を受賞したスパイク・リー監督。「Let’s Do The Right Thing!!」と世界に放たれた監督の熱いスピーチは、今年のアカデミー賞のハイライトだと世界中で話題になりました。そのスピーチに対してトランプ大統領がTwitterで「人種差別的だ」と言及し話題になりました。トランプ大統領は本気で言ってると思うからこわいんです。僕の知り合いの黒人の女性歌手はオバマ政権時「オバマが大統領になって白人が皆怒っている。これから黒人に辛い時代が来ることになる」とずっと話していました。オバマ政権への反発や黒人差別がトランプ政権を生んだのだと思います。
■映画に登場するブラックスプロイテーションについて
中田:ブラックスプロイテーションっていうのは、造語なんですが僕は黒人娯楽映画と訳します。71〜74年に流行った黒人ヒーローを描いた映画ジャンルです。この映画は最初の『風と共に去りぬ』から、『黒いジャガー』、『スーパーフライ』など映画のことばかり言っているんです。『ブラック・クランズマン』はブラックスプロイテーションのパロディだと思います。この映画にはたくさんのブラックスプロイテーション映画が出てきます。『黒いジャガー』は警察から依頼を受けた黒人私立探偵の話です。『黒いジャガー』の監督の息子が撮った『スーパーフライ』は麻薬の売人の話。『HIT MAN』はその名の通り殺し屋の話です。『クレオパトラ危機突破』は空手を使う女警官が麻薬組織と戦う話。『コフィー』は女の子VS麻薬組織の話でした。この映画にはそんな過去の映画のポスターが出てくるんですけど、シワが入ってるポスターと入ってないポスターがあるんです。『黒いジャガー』と『クレオパトラ危機突破』のポスターにはシワが入っているんですが他のポスターは入ってないんです。これは明らかにわざとで、僕が思うに、警察官を題材にした映画はシワを入れているんです。それは、警察の映画は黒人の解放に本当には役に立たないという意味だと思います。こういった発見があるからこの映画は何回見ても面白いんです。
『ブラック・クランズマン』
3月22日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督・脚本:スパイク・リー
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン アダム・ドライバー ローラ・ハリアー トファー・グレイス アレック・ボールドウィン
配給:パルコ
【ストーリー】 1979年、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスの警察署でロン・ストールワース(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。署内の白人刑事から冷遇されるも捜査に燃えるロンは、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話をかけてしまう。自ら黒人でありながら電話で徹底的に黒人差別発言を繰り返し、入会の面接まで進んでしまう。問題は黒人のロンはKKKと対面することができないことだ。そこで同僚の白人刑事フリップ・ジマーマン(アダム・ドライバー)に白羽の矢が立つ。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で1人の人物を演じることに。任務は過激派団体KKKの内部調査と行動を見張ること。果たして、型破りな刑事コンビは大胆不敵な潜入捜査を成し遂げることができるのか―!?
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