昨年公開された映画『正体』で第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人監督による最新映画『港のひかり』が、2025年冬に公開されることが決定した。
『余命10年』、日台合作の『青春18×2 君へと続く道』など、男女の繊細な思いを紡ぐ作品や、現代任侠の生きづらさや人間味を鋭く描き出した『ヤクザと家族 The Family』など、幅広いジャンルを映し出してきた若手随一の実力派である藤井監督。今回、日本映画界を代表するキャメラマン・木村大作(監督作品:『散り椿』、『劔岳 点の記』、撮影『鉄道員(ぽっぽや)』)と初タッグを組み、北陸の港町を舞台にした完全オリジナル脚本に挑んだ。
本作は、元ヤクザの“おじさん”と、両親を事故で失い、視力を失ってしまった不遇の少年との十数年間の友情を描く物語。親子以上に年齢が離れ、出自も全く関係がなかった2人の交流を通して、たとえ血のつながりはなくても、「誰かのために生きる」という自己犠牲の精神をベースにした感動エンタメ大作となっている。2023年10月~12月に能登半島・富山県で全編フィルムで撮影が行われた。クランクアップ直後に起こった能登半島地震の影響により、海が隆起してしまい入船することが難しくなってしまった大沢漁港や、焼失してしまった輪島の観光名所・朝市通りなど、重要なシーンの多くを、美しい輪島や富山の情景の中で撮影を敢行した。
主演を演じるのは、日本映画界を代表する俳優・舘ひろし。藤井とのタッグは、『ヤクザと家族 The Family』以来2度目となる。藤井監督との映画をもう一本撮りたいと熱望していたという舘は、今回企画から作品に参加し、監督と脚本の内容について、何度も打ち合わせを重ねた。打ち合わせの中で舘ひろしは、無償で自らの人生をささげる愚直な男で、故渡哲也の面影を宿すような男を演じたいと監督に直談判。舘の思いを受け、藤井道人が脚本に練り上げ、そんな舘をキャメラマン木村大作がフィルムにおさめた。まさに日本映画界の最高峰のキャスト・スタッフが心血を注いで作り上げた、感涙必至のエンタメ大作となっている。
舘は、「人の強さとは何か、誰かのために生きるとはどういうことか、かつて親分に教えられたその思いを愚直に守りながら、漁師として孤独に生きようとする男を演じました。この役は藤井監督と何度も話し合い作り上げたものです」と語り、本作に懸ける熱い思いを語った。そして、「“強い男”とは何かを考えたとき、石原裕次郎さんや渡哲也さんの生き様が頭をよぎりました」と、自分を育ててくれた先輩の影を投影したと言う。今回、新しい挑戦として日本映画界のレジェンド・木村大作とのタッグに挑んだ藤井は、当時の撮影現場を思い返し、「発見と勉強の連続で、沢山の偉大な背中を見せていただきました」と先輩映画人たちとの撮影について語った。「ロケーションへの敬意、撮影現場での情熱、そして何より映画への愛。35mmフィルムでの撮影、モニターのない撮影現場のスタッフ、キャストの集中力は凄まじく、「先輩たちは、この集中力の中で映画を作っていたのか」と圧倒されました」と、まさに映画界の技術力の継承が行われた現場での熱量を感じ取っていた。
木村は、「この作品のショートプロットを読んだとき、これは他人への自己犠牲の物語であり、今までにない新しい映画ができると思った」と語り、本作の可能性を感じていた。撮影という枠を超えた“映画を作る”キャメラマンである木村は、本作の映像についても監督との打ち合わせを何度も行い、「この作品は、元ヤクザの漁師が盲目の少年のために自らを犠牲にして光を与える、という限りなく非日常の物語。だからリアリティではなく、叙事として作りたい」と撮影手法だけではなく、どう観客に見せたいかまで議論を重ねた。様々な映画人がお互いの思いをぶつけ合って生まれた本作に、舘は「大スクリーンでこそ味わうべき、一見の価値がある映画です。きっと映画史に残る感動作だと自負しております」と映画の完成度に対して、並々ならぬ自信を見せた。
本作において、もう一人の主役級の重要な役どころで、事故により両親を失い、自身の視力も失ってしまった不遇の少年・幸太を演じるのは、寺島しのぶの息子として歌舞伎界でも注目を集める尾上眞秀。目が見えず、両親もいない、理不尽で辛い境遇にいる少年という難しい役どころであることについて尾上は、「撮影前に盲学校に行かせてもらったり色々準備をしました。お芝居の中で特に難しかったのは涙を流すシーンでした」と語り、
「舘ひろしさんはいつも優しくて、撮影が終わったらよく焼肉屋さんに連れて行ってくださいました。藤井監督や藤井組のスタッフの皆さんにもとてもよくしていただきました。キャメラマンの木村大作さんもすごく優しかったです」と初の映画出演で緊張しながらも現場の空気を楽しみながら撮影に臨んだことを語った。尾上の演技について藤井は「日本映画界の未来と言っても過言ではない尾上眞秀くんも、素晴らしい演技でスクリーンを彩ってくれています」と語り、彼の演技をファインダー越しに見つめ続けていた木村も「映画初出演とは思えない、自然体で豊かな感情表現を見せてくれた」と太鼓判を押した。
場面写真は、全編フィルム撮影で行われた本編映像の中からの切り抜き。元ヤクザで漁師の“おじさん”の船に乗る幸太。幸太にとっては見えないはずの海を感じ微笑む顔と、遠く海を見つめる“おじさん”との対比が美しい、フィルムの質感そのままの場面写真となっている。
『港のひかり』
2025年11月14日(金)全国公開
監督・脚本:藤井道人
企画:河村光庸
撮影:木村大作
出演:舘ひろし 尾上眞秀
配給:東映 スターサンズ
©2025「港のひかり」製作委員会