ホウ・シャオシェンやジャ・ジャンクーら名匠たちの作品の映画音楽を手掛け、『アグリー』『雨にゆれる女』『パラダイス・ネクスト』と監督作品を発表してきた半野喜弘監督の最新作で、眞栄田郷敦が主演する『彼方の閃光』が、12月8日より公開されることが決定した。併せて、予告編とポスタービジュアルが披露された。
本作は、幼い頃に視力を失い、手術は成功するも、その視界に色彩を感じることが出来ないでいた主人公・光が、戦後日本を代表する写真家・東松照明(とうまつ・しょうめい)の写真に惹かれ、長崎・沖縄の戦争の記憶をたどるロードムービー。今、そこに暮らし未来を守ろうとする人々の姿を捉え、「戦争とは?敵とは?」何なのかを、次世代へ問いかける。
東松照明は、2012年に亡くなるまで、川田喜久治、奈良原一高、細江英公らとともに日本の写真界を牽引してきた戦後を代表する写真家の一人。戦後の日本人、米軍基地、長崎、そして沖縄など数々のテーマに取り組み、「占領」「家」といった問題作を次々と発表。そして、1966年に発表された「11時02分NAGASAKI」は、風化しつつあった原爆の記憶を改めて呼び起こし記録したものとなり、東松の代表作となった。その後も時代と向き合い、様々な分野に挑戦し続けた東松の作品群は日本の社会、そして戦後の日本人が歩んできた姿そのものが描き出している。
そんな、東松照明の作品に触れ、戦争の記憶を辿ることになる物語の主人公・光を演じるのは、その確かな存在感と演技力で注目を集める俳優、眞栄田郷敦。これまで、半野監督作品で主演を務めてきた窪塚洋介、青木崇高、妻夫木聡、豊川悦司の名だたる俳優たちと同様に、眞栄田は本作で眩いばかりの輝きを放ち、スクリーンを支配するほどの大きな存在感を感じさせる。なお、眞栄田にとって、本作が映画初主演となる。共演には、池内博之、尚玄、加藤雅也といった俳優陣の他、“日本のヒップホップ・クィーン”として知られるAwichが本格的な女優デビューを果たしている。
予告編では、旅路で光が目の当たりにすることになる今なお残る戦争の痕跡や、光にとってかけがえのない出会いとなる人々の姿の断片や記憶が色の無いモノクロの映像美と共に、モンタージュのように紡がれている。
ポスタービジュアルは、色の無いモノクロの世界に身を置く主人公・光が“何か”を捉えた刹那の姿と、海面でたゆたう二人の人影を捉えた姿で構成されており、「その瞳に映る世界は、姿を変える」というキャッチコピーが添えられている。海のシーンは、その神秘的な映像美で作中、最も印象に残るシーンの一つで、かつ、映画を観終えた観客だけがキャッチすることになるであろう隠喩を含んだシーンである。
■眞栄田郷敦 コメント
お話をもらってまず作品のイメージを映像化したトレーラーを観せていただいたのですが、これまで体験したことがなかったモノクロの映像や世界観に強く惹かれました。その後、脚本を読ませてほしいとお願いをしたのですが、「やらせてください」と即答していました。この作品を通して、「戦争」という歴史を伝えていかなければならないという意識を改めて強く持つことになりましたし、自分なりに伝えていける方法があることを実感しました。自分自身としては、あの時持てるすべての力を出したし、出させてもらったので、是非色んな方々に観ていただきたいと思っています。
■半野喜弘(監督・原案・脚本・音楽・スタイリング) コメント
色彩と平和、この2つのキーワードが両輪となってこの映画は走ります。当然のように自分の手の中にあると感じているものを見つめ直し、主人公の眼差しを通してその意味や価値を問う。そんな映画を作りたいという思いから『彼方の閃光』は生まれました。本作にとって主人公・光の瞳はあまりに重要な存在で、私自身が何を求めているのかを自分でさえ分からずにいました。それはまるで私自身が暗闇を彷徨っているような感覚でした。そんな中、私は眞栄田さんの瞳に、まさに探して求めていた「光」を見ました。それは私にとって閃光と言えるものでした。公開までの道のりは困難の連続でしたが、ついに辿り着いたという気持ちです。主人公の眼差しは、この映画を観る人の眼差しでもあります。その眼差しに映る世界が観る人の心に触れることを願っています。
『彼方の閃光』
2023年12月8日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開
監督・原案・脚本・音楽・スタイリング:半野喜弘
出演:眞栄⽥郷敦 池内博之 Awich 尚⽞ 伊藤正之 加藤雅也
配給:ギグリーボックス
【ストーリー】 生まれて間もなく視力を失った10歳の少年・光(ヒカリ)。光にとって世界は「音」であり、彼はカセットテープに自分の世界を録音してゆく。光の眼は手術をすれば視力を得られる可能性があった。母の説得により、手術を受けることを決意するが…。20歳になった光(眞栄田郷敦)は、東松照明(1930-2012)の写真に強く導かれるように長崎へ。旅先で出会った自称革命家の男・友部(池内博之)にドキュメンタリー映画製作に誘われ、長崎・沖縄の戦争の痕跡を辿ることになる。その中で、心に傷を負いつつもたくましく生きる女・詠美(Awich)、沖縄を愛し家族を愛する男・糸洲(尚玄)と出会う。戦争の痛ましい記憶と彼ら3人の生き様は、光の人生を大きく揺さぶり始める。灼熱の日々の中、光の眼に映るものとは、何か?そして、51年後の2070年、71歳になった光(加藤雅也)。彼の生きる世界は大きく変容していた…。
©彼方の閃光 製作パートナーズ