19世紀にフランスにジャポニズムブームを巻き起こし、西洋近代絵画の源流となった世紀の絵師・葛飾北斎の知られざる生涯を、柳楽優弥と田中泯のダブル主演で描く映画『HOKUSAI』。新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて5月29日の劇場公開が延期されていたが、このほど、新たに2021年5月に公開されることが決定した。併せて、11月9日にTOHOシネマズ 六本木ヒルズ にて東京国際映画祭 特別上映舞台挨拶が行われ、キャストの柳楽優弥、田中泯、監督の橋本一、企画・脚本を手掛けた河原れんが登壇した。
会場では、本作の最新特別映像が流れ、観客らが高揚しているところに、二人一役で葛飾北斎の青年期と老年期をそれぞれ演じた柳楽優弥と田中泯、橋本一監督、企画・脚本の河原れんが登壇した。
はじめに、柳楽は「本日はお越しいただき、ありがとうございます。葛飾北斎役で最も興奮したことは、時代劇であるのに刀を使ったチャンバラのような殺陣をやるのではなく、アーティストを演じさせていただいたということです。これは本作の魅力のひとつだと思うので、楽しんでご覧いただきたいです」、田中は「北斎の老年期の役ということで、自分もご覧の通りの年齢ですが、嘘偽りなく年齢を感じながら演じさせていただきました。本当に光栄な役でした。小さいころから北斎に触れることの多い人生でしたが、その北斎を身をもって演じることができたのは、この上ない幸せな撮影の日々でした。楽しんでご覧いただければと思います」、河原は「北斎生誕 260 年という年ですが、北斎が生まれた江戸、東京というこの町の東京国際映画祭のクロージング作品に選んでいただいて光栄です。皆様に楽しんでご鑑賞いただければと思います」、そして橋本監督は「一年以上も前に撮影して、ようやく皆様の前にお披露目できる日がきて嬉しいです。最高のスタッフ、キャストと共に作り上げた一本です。特にこの主演のお二人の“目”の素晴らしさには、カメラ越しに見ながら抱きしめたくなる時が何回もありました」と盛大な拍手に包まれながらコメントし、公開を待ち焦がれていたファンの前で想いを伝えられる喜びを噛み締めた。
本来ならば今年5月公開を予定していたが、改めて来年の公開を控えて、柳楽は「僕自身、北斎の絵は知っていたのですが、北斎の人生についてはあまり多くのことを知らなかったんです。特に青年期の情報はあまり残されていないこともあり、僕たちの北斎像というものを監督と作り上げていきました。見ごたえのある作品にできたのではと思います。期待していただきたいです」と自信満々にコメント。田中も「この映画は撮影中から好きで、撮影が終わってから時間が経ちますが今でも好きな一本です。こんなにも世界中に知られている北斎ですが、この映画が語っていることを観ていただくことで、北斎が絵を描いた理由が少しは伝わるんじゃないかと思います。北斎もこのタイミングで観てもらうことで、喜んでくれているんじゃないかな」と北斎の想いを語るかのように、丁寧に言葉を紡いだ。
葛飾北斎の人生や人物像については史実も少なく未だに謎に包まれているが、世界で最も有名な日本人として知られている。最近では『鬼滅の刃』の主人公が使う技、“水の呼吸”も、北斎のあの波からインスピレーションを受けて生まれていたことに話が及ぶと、柳楽は「北斎が『鬼滅の刃』にも響いているなんて、すごいですよね。僕は俳優をやらせていただいていて、絵を描き続けた北斎とは少し違いますが、同世代の(東洲斎)写楽や(喜多川)歌麿ら当時のスター達が台頭していく中で、悔しいとか、もっと上手くなりたいという気持ちは、僕と同じなのではないかなと思いながら演じさせていただきました。北斎が何故そこまで“波”に感動し、こだわって描いていたのかという理由を撮影していく中で見つけたいなと思っていたのですが、撮影が近づいていくにつれて、北斎はこの波の絵に(成功できなかったら)人生を諦めるくらいの覚悟と情熱を込めて、向き合っていたのでないかと思いました」と北斎の想いを感じ取りながら演技に努めたことを明かした。
老年期を演じ、撮影現場でもまさに北斎そのものだと称賛されていた田中は、「北斎はすごい昔の人です。今の世の中にはいないし、産まれてきた環境も地球も今のようではなかった。ものすごく大きな時間の開きがあるのにも関わらず、世界中で皆さんが絵をみて何かを感じる。有名な名前だけが継承されていっているのではなく、絵を見たときにその凄さが向かってくるのが本当に羨ましいです。北斎は『こんな世の中、おかしい』、『もっといい世の中がないのかな』と口癖のように言う人でしたが、僕もその台詞にとても同調して、震えるように言葉を発することができて嬉しかったです。僕も子供のころから『なんで大人はああなんだろう?』、この年になっても『大人のせいかな?』と思ってしまうことがしばしばあるので、北斎と似ているのかもしれないですね」と北斎との共通点を口にした。
“北斎”という難しい題材を映画化するにあたって、河原は「葛飾北斎という人は、江戸時代に90年も生きた人で、そんな人の人生をわずか2時間にまとめるのは不可能な話なんです。90回以上引っ越したとか、30回以上名前を変えたとか、3万枚以上の作品を残したとか、逸話は沢山ありますが、これをまとめるだけではただのダイジェスト映画になって面白くないなと思いました。そこで、本当に何を描きたいのかなと思ったときに、やはり北斎が描いた“絵”に焦点を当てて、どんな絵を描いたのか、その絵を描いたときに、北斎は誰と出逢い、どんな気づきがあったのだろうか、影響を受けた北斎の次の絵はどんな風に変わったのかと、私なりに考えながら作品を作り上げました。柳楽さんと田中さんのお言葉を聞いて改めて、北斎の“美しい不器用さ”を描きたかったんだなと感じました。きっとそういう一面があり、愚直に自分の作品を作り上げて、世に何かを伝えようとしていたんじゃないかなと思います。他にもこの作品に込めたメッセージや、今の時代にだからこそ見てほしいという意味も、ご鑑賞いただいて感じていただきたいです」と北斎を表現した苦労を熱く語った。
また橋本監督も「この映画を作る際に、なぜ北斎はここまで世界中で認められて、人気があるのか。特に波の絵は見ただけで沸き上がってくる気持ち、あのワクワク感はどうやって創り出したのかという答え探しを目標にしていました。ただその答えは僕自身も見出してないし、作品の中にも答えはないかもしれませんが、観ていただいた方はそれぞれの答えを感じとれるかと思います。そして言葉のない絵と同様に、日本語が分からない、言葉が分からない人が見ても伝わるような映画を目指しました」と北斎同様に本作が世界中で愛されることへの願いとこだわりをコメントした。
最後に、柳楽は「僕は10代のころから日本映画に関わらせていただいています。今、このような時期で気を付けるべきことは多いと思いますが、日本映画ファンとして、また皆さんに元気をお届けできるような俳優でありたいと思います。楽しんでください!」、田中は「ヨーロッパやアメリカ、世界中で映画が見られていない状況の中で、今日これから上映されるということは本当に特別な時間を体験なさるということだと思います。是非、大切に観ていただき、そして正直な感想を持っていただきたいです。今は映画どころではないという人達が世界中にいるかと思いますが、作る側も夢中で作った映画です。是非、宜しくお願いします!」と観客にメッセージを送り、舞台挨拶は幕を閉じた。
『HOKUSAI』
2021年5月 TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:橋本一
企画・脚本:河原れん
出演:柳楽優弥 田中泯 玉木宏 瀧本美織 津田寛治 青木崇高 辻?本祐樹 浦上晟周 芋生悠 河原れん 城桧吏 永山瑛太 阿部寛
配給:S・D・P
【ストーリー】 腕は良いものの食うことすらままならない生活を送っていた北斎(柳楽優弥/田中泯)に、ある日、人気浮世絵版元(プロデューサー)蔦屋重三郎(阿部寛)が目を付ける。歌麿(玉木宏)や写楽(浦上晟周)の台頭で自分の絵を見失う北斎だったが、重三郎の後押しによって唯一無二の独創性を手に入れ、その才能を開花させる。そんな中、北斎の盟友で偽作者・柳亭種彦(永山瑛太)が、幕府の禁に触れ討たれたという報せが入る。信念を貫き散った友のため、怒りに打ち震える北斎が描いた命がけの作品とは…?
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