『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した深田晃司監督と、同作で毎日映画コンクール女優主演賞ほか数々の映画賞に輝いた筒井真理子が2年ぶりに再タッグを組む映画『よこがお』が、7月26日に公開初日を迎えた。翌7月27日にテアトル新宿にて公開記念舞台挨拶が行われ、キャストの筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、吹越満、深田晃司監督が登壇した。
公開二日目となるテアトル新宿には朝一番の回にもかかわらず、超満員の観客を前に舞台挨拶がスタート。筒井は「映画と一緒に旅をしてくださってありがとうございます」と感激の面持ち。上映後に拍手が起こったことを聞くと「満員の、本作を心待ちにしてくださったお客様の前で過ごせることは幸せです。すでに映画を見た方から『今までにみたことがない映画だった』という感想もきいていて、この映画はいろんな見方ができる映画だと思います。時間があれば喫茶店でもいって、皆さん一人一人に感想を聞きたいくらいです!」と筒井。市川は「この作品は頭で考えたりするのではなく、自分の生理的反応が現れるというか。きっとこの帰り道もいろいろな感情が生まれてくる…あれ何をいってるのかわからなくなちゃった(笑)。今日はありがとうございます!」と話し、隣に立つ筒井と笑いあう姿も。一方、吹越は「実は今日の朝5時くらいまで飲んでいまして、舞台挨拶何かやらかしちゃったら、と思っていましたが、先ほど控室で池松くんも朝4時まで飲んでいたと聞いたので(笑)」と続け、場内を和ませた。
今回、本作で深田組初参加となった市川は、演じた基子という役について「基子というキャラクターは、こういうことを思ったから、こういうことをした、とつなげようと思ってもつながらない。理屈ではなく(筒井さん演じる)市子を好きだという気持ちだけ持っていこうと思った」と演じた感想を吐露。同じく初参加の池松は、本作を観た感想について聞かれると「脚本はものすごく綿密で、螺旋階段のように感情が作られていて、キャラクターと一緒に登っていくと、きちんと連れていかれるような、すごく作りこまれた素晴らしい作品でした」と独特の表現でコメント。また自身の役については「誤解を恐れずに言うと、この物語世界に加担しないことが、一番加担できることなんじゃないか、と思った。(自分が演じた)和道というキャラクターも被害者なのか加害者なのかわからない。深田さんの作品は、無自覚や無意識を抽出していると思いました」と続けた。吹越は「とりあえずひどい話だな、嫌だな、と思って観ていた。何で『よこがお』ってタイトルなのか、ずっと考えていたけれど、人って対面するだけでなく、たまたま隣にいる人とかってコミュニケーションとっていないし、横顔だけですよね。その人が抱えているもの全部なんてわからないんですよ。自分の演じた市子の婚約者戸塚も市子のことを全て知らない。切ないんだけど、言ってみれば人ってみなそうなんです。人に言えないこともあるし、言えるんだけど人に言わずにいる。なんか人間って素晴らしいんだなと思いました」と話すと、深田監督もその言葉に大きくうなずいていた。さらに「深田監督の演出はすごく繊細。人って会話していると、ついうなずいてしまうじゃないですか、それを『今うなずくのやめてください』と言われ(笑)。でも信用できると思った」と現場でのエピソードも語った。
ここで、改めて本作が第72回ロカルノ国際映画祭国際コンペティション部門に正式出品することになったことが伝えられると、会場からは大きな拍手が。筒井は「72回もの歴史があり、商業に偏らず自由な精神を72年も続けている映画祭でこの作品を選んでいただけて、本当に光栄です」、深田監督は「ずっと憧れていた映画祭で、僕が信頼する同世代の濱口監督などすでに参加している。今回選ばれてとても嬉しいです。ただ現地の物価が高いということでビビッています」と答え、会場からは笑いとともに、再度激励の拍手が贈られた。
「監督が作品のことを全て知っているか、というとそうではなくて、作り手と作品の関係って、親と子と関係に近い。親が子供のことを全部しっているわけでなく、子供の友達からその評判をきいてこういう面もあるんだと知るように。お客様に観てもらって、そのリアクションを聞いて初めてわかったりすることがよくあるので、ツイッターなどで感想を書いていただけたら嬉しいです」と深田監督。最後に「闇営業の問題などどんどん情報が更新されていく最近のマスコミによる報道をみていると、本作は今の時流にフィットしている映画だと実感しています。ぜひ映画館でみてほしい!」と熱い思いとともにイベントは締めくくられた。
『よこがお』
7月26日(金)より角川シネマ有楽町、テアトル新宿ほか全国公開中
監督・脚本:深田晃司
出演:筒井真理子 市川実日子 池松壮亮 須藤蓮 小川未祐 吹越満
配給:KADOKAWA
【ストーリー】 訪問看護師の市子(筒井真理子)は、その献身的な仕事ぶりで周囲から厚く信頼されていた。なかでも訪問先の大石家の長女・基子(市川実日子)には、介護福祉士になるための勉強を見てやっていた。基子が市子に対して、密かに憧れ以上の感情を抱き始めていたとは思いもせず…。ある日、基子の妹・サキ(小川未祐)が行方不明になる。一週間後、無事保護されるが、逮捕された犯人は意外な人物だった。この事件との関与を疑われた市子は、ねじまげられた真実と予期せぬ裏切りにより、築き上げた生活のすべてが音を立てて崩れてゆく。すべてを失った市子は葛藤の末、自らの運命へ復讐するように、“リサ”となって、ある男の前に現れる。
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