突然訪れた長男の死によって巻き起こる家族の混乱と再生を、ユーモアをまじえつつあたたかく描いた映画『鈴木家の嘘』が11月16日に公開初日を迎え、11月17日シネスイッチ銀座にて公開記念舞台挨拶が行われ、主演の岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋、野尻克己監督が登壇した。
上映終了直後、盛大な拍手がわき起こり、東京国際映画祭レッドカーペット以来となる、監督とキャスト陣が揃って登壇した。主演を務めた岸部より「観終わったみなさんがどのように感じてもらったのかとても楽しみですが、僕は『鈴木家の嘘』を本当に良い作品だと思っています。本日はお越しいただき誠にありがとうございます」と感謝の挨拶。東京国際映画祭では“本当の家族のように見える”とまで言われていたキャスト陣。その団結力もあり、同映画祭では日本映画スプラッシュ部門にて作品賞を受賞した。それについて監督は「この作品にかかわったすべての人でとった賞だと思っています。みんなが僕を監督にしてくれた。だからこそたくさんの人に観てもらいたいです!」と述べた。また“鈴木家”のチームワークの良さはどう生まれたのかまず聞かれると、「こうやったら家族に見えるかな、という考えは一切なかった。みんなが自然でいられたからこそチームワークが良く見えるのかもしれないです」と岸部。監督と13年以上も前から親交がある加瀬は「監督自身の経験をもとにしていて、それに向き合った監督の姿に心にくるものがあった」と感慨深く語った。
鈴木家の息子・浩一が突然死んでしまったことで、鈴木家の親戚があつまり食事をし家族会議をするシーンについて岸本は「正直に言って、とにかく何回もやりました!うどんは伸びるし汁もなくなるし…」とぼやき。それに監督は「10回くらいやりましたね…」と返すと「もっとですよ!!」とすかさず突っ込む岸本。その場にいた大森も「(岸本さんが)いつ怒るか分からなかった…止めるなら俺だなと思ってヒヤヒヤしていました」と当時の思いを明かし、3人のやりとりに会場は笑いが止まらず。しかしそのシーンについて監督は「でも僕はそのシーンが一番泣けるんです。浩一の死に家族がショックを受け感情を表現できない中、岸本さん演じる君子だけは、悲しみという感情が生きている。とても人間らしい姿がとても好きなんです」と意外なコメントに、岸本も「あの時言ってくれればいいのに!」とさらに突っ込んだ。
息子・浩一の死のショックでその時の記憶をなくしてしまった母・悠子。そんな母のため、父と娘が「浩一はアルゼンチンで働いている!」と嘘をついたことが始まりとなり、娘・富美が浩一に成りすましアルゼンチンから手紙を送り続けることに。先日の東京国際映画祭で東京ジェムストーン賞を受賞し、どの役にも全力で向き合い新人女優として今最も輝く木竜へ、なんとこの日は母・悠子を演じた原から手紙が送られるというサプライズが。突然のことに驚く木竜。原は自分が読んだら泣いてしまうというということで、この日はMCが手紙を代読。「麻生ちゃんは、『鈴木家の嘘』では形ではなく心で芝居のできる素敵な女優でした。自然体で演じるあなたは本当に素晴らしい。またいつか一緒に演じられるよう、私もがんばります」と冒頭から感動の言葉に涙をこらえきれず泣き始める木竜。さらに「これから女優として忙しくなると思いますが、自分自身の人生を置き去りにせず、幸せで充実した人生を送ることが女優・木竜麻生を豊かにする。それを忘れないでください」と締めくくった。読み終わった後も涙が止まらない木竜は「こんなに幸せで、たぶん良いことはもうないんじゃないかと思います。今日という日をみなさんと迎えられたことが本当にうれしいです。ありがとうございます」と声を振り絞り感謝の気持ちを述べた。また最後に岸部から「俳優で大事なものは人柄だと僕は思っている。彼女は、もともともっている人柄が本当に素晴らしい。これからしんどいことが待っているかもしれないけれど、これからも素敵な映画女優として大成してほしいと思っています」と、もらい泣きを隠しつつも声を震わせながらエールを送った。会場も感動で鼻をすする音が聞こえている中、「原さん、僕に手紙はないんですか!」としんみりな雰囲気を一変させる野尻監督!その突っ込みに、原も「また後日!」と返し会場は大盛り上がりで舞台挨拶は終了した。
『鈴木家の嘘』
11月16日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:野尻克己
音楽・主題歌:明星/Akeboshi「点と線」(RoofTop Owl)
出演:岸部一徳 原日出子 木竜麻生 加瀬亮 岸本加世子 大森南朋
配給:松竹ブロードキャスティング、ビターズ・エンド
【ストーリー】 あまりにも突然に訪れた長男・浩一の死。ショックのあまり記憶を失った母のため、遺された父と長女は一世一代の嘘をつく。ひきこもりだった浩一は、扉を開けて家を離れ、世界に飛び出したのだと―。母の笑顔を守るべく奮闘する父と娘の姿をユーモラスに描きつつ、悲しみと悔しみを抱えながら再生しようともがく家族の姿を丁寧に紡ぐ感動作。
©松竹ブロードキャスティング