突然訪れた長男の死によって巻き起こる家族の混乱と再生を、ユーモアをまじえつつあたたかく描いた映画『鈴木家の嘘』が、11月16日より公開される。このほど、第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に出品された本作のワールドプレミア舞台挨拶がTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、主演の岸部一徳をはじめ、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、そして野尻克己監督が登壇した。
“鈴木家”を代表し、家長・幸男を演じた岸部が「『鈴木家の嘘』の上映にお越し頂き、本当にありがとうございます」と一礼し、観客へ感謝の気持ちを述べた。本作がデビュー作となる野尻監督と17年前からの仲という加瀬は、「ずっと助監督の頃の姿を見ていてたので、監督のデビュー作が本日お披露目となりとても嬉しく思ってます」と自分のことのように嬉しそうに述べた。大御所俳優たちよりお祝いの言葉をもらった監督は、「本日は本当にありがとうございます。実は今日スーツで来いと言われたのに緊張のせいかカジュアルな服装で来てしまって…しっちゃかめっちゃかになってます!」と自虐ギャグを披露し会場の笑いを誘った。
出演者全員が読んですぐに出演を決めたという脚本は、野尻監督の完全オリジナル。それぞれに読んだ当時の感想を聞くと、「新人監督が自ら書いた脚本というのはそんなになくて、それに加え実体験を基に書いている。悲劇になる内容でもおかしくないのですが、不思議なことに読んでいるうちに思わず笑ってしまって。そのバランスが素晴らしく、出演することを決めました」と岸部。原は「本当に完成度が高く、面白くて。自分の役どころの大きさに責任感と身が引き締まる思いを感じながら脚本を読んだのを今でも覚えています」と当時のことを思い出し、感慨深く語った。加瀬は「監督の実話を基にしているとは聞いていましたが、富美を通して監督の気持ちを知り、感動しました」と述べた。ベテラン俳優たちとの共演について木竜は「現場ではすごく緊張していて、けれど共演者のみなさんが大きく包んでくださったので、安心して作品、監督、共演のみなさんと向き合って演じられました」と、共演者へ感謝の気持ちを述べた。さらに「私が撮影で吹き出物が出来てしまったとき、原さんが肌にいいサプリやカットしたフルーツを持ってきてくださったんです!本当のお母さんのように接してくださってとても嬉しかったです」と撮影時のエピソードを話すと、原は「実は(木竜は)うちの次女と同じ日に生まれて同い歳なんです!出会ったときに思わず運命を感じましたね」と驚きの事実を語り、会場を沸かせた。
岸部演じる幸男の妹・君子を演じた岸本は、「一輪の毒の花のような役でしたが、撮影はすごく楽しかったです!実話の力、迫力というものをとても感じた作品でした」と振り返った。出演者のそれぞれの想いを聞いた監督だったが、「撮影が始まってからは緊張しすぎて10日間ぐらいトイレに行けなくて…その時は本当につらかったです」と当時の苦い思い出を暴露し、出演者も驚きの表情を見せた。
それぞれに印象に残ったシーンを聞かれると岸部は「すべて印象に残っていますが、特に木竜さん演じる娘の富美が手紙を読むシーンは、脚本を読んでも映像を見ても感動して…一番印象に残りましたね」と振り返り、その言葉に感動した様子の木竜。また岸部との親子共演を果たした加瀬は、本作で岸部と掴みあうシーンも。お互いを信頼し合っているからこその迫真の演技に加瀬は、「岸部さんは何度も共演している先輩なので、思い切って胸を借りるつもりでそのシーンに挑みました」と振り返った。
上映後のQ&Aには野尻監督が登壇。実際に家族に引きこもりの弟がいたという女性から「弟がなぜ引きこもりになったのか理由がわからないのだが、野尻監督は理由をどのように考えていたのか」という質問に、「やっぱりわからなかった。ただ、理解はできるところがあって、男性はとくに自分の理想と現実が離れすぎてしまうと、どうしても社会に出るのが怖くなることがある。引きこもってしまうということは、もう一度自分を作り直して生きているんじゃないかと僕は思っている。引きこもっている人に対してはマイナスなイメージがあると思うが、僕はもう一度自分を作り直す時間が必要なんだと思っている」と真摯に答えた。また、木竜麻生を抜擢した理由について聞かれると「笑顔がよかった。『Wの悲劇』の頃の薬師丸ひろ子みたいな芯の強さを感じた」と明かした。他にも映画に感動した観客から多くの質問が飛び交い、あっという間にQ&Aは終了した。
『鈴木家の嘘』
11月16日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー
監督・脚本:野尻克己
音楽・主題歌:明星/Akeboshi「点と線」(RoofTop Owl)
出演:岸部一徳 原日出子 木竜麻生 加瀬亮 岸本加世子 大森南朋
配給:松竹ブロードキャスティング、ビターズ・エンド
【ストーリー】 あまりにも突然に訪れた長男・浩一の死。ショックのあまり記憶を失った母のため、遺された父と長女は一世一代の嘘をつく。ひきこもりだった浩一は、扉を開けて家を離れ、世界に飛び出したのだと―。母の笑顔を守るべく奮闘する父と娘の姿をユーモラスに描きつつ、悲しみと悔しみを抱えながら再生しようともがく家族の姿を丁寧に紡ぐ感動作。
©松竹ブロードキャスティング