ピーター・バラカンが作品を深く解説!『サバービコン 仮面を被った街』アフタートークイベント レポート

ジョージ・クルーニー監督、ジョエル&イーサン・コーエン脚本による『サバービコン 仮面を被った街』が5月4日より全国ロードショーとなる。本作の公開を記念し、5月1日に東京・神楽座にてトークイベントが行われ、音楽をはじめとして様々なカルチャーに造詣が深く、報道番組「CBSドキュメント」の司会を長らく務めたピーター・バラカンが登壇した。

会場に登場したバラカンは、「今日は50年代代表として来ました(笑)。コーエン兄弟の作品はよく観ていて、ひねくれたブラックなコメディが多いんですが、今回はあまりにもブラックで、声に出して笑えないおかしさがありましたね」と本作の感想を話した。1951年イギリス・ロンドン生まれのバラカンと、1959年設定の本作の登場人物ニッキーはほぼ同世代。最初に、当時の時代について言及したバラカンは、「当時のイギリスとアメリカは全く違いますね。アメリカに憧れる面もありましたが、イギリスはもっと小さい国でしたし、生活ぶりも質素でした。イギリスにニュータウンは50年代にはなくて、イギリス式のものが60年代に出来始めたと思います。50年代は戦争の傷跡がまだ残っていましたね。まだまだこれから戦争から復興するという時代。劇中では男の子たちがジーンズにTシャツを着ていますよね。僕が初めてジーンズを履いたのは60年代。50年代当時のイギリスの小学生は短パンを履いていました。長いズボンは9~10歳の子が履いていたと思います。劇中のニッキーもあまり服装を持っていないようですが、子供達があまり甘やかされる時代ではなかった」と服装の点も交えつつ、イギリスとアメリカの違いを振り返った。

マット・デイモン演じるガードナー・ロッジの一家については、「劇中のロッジ家はいわゆるサラリーマンの、中産階級ぐらいの家庭ですね。サバービコンも実際の街がモデルになっていますが、こういった街はもうちょっとワンステップアップしたい人に向けて売り出していたと思います。ロッジ家に置いてあるテレビのリモコンのシーンを観た時は、『え、待てよ、50年代にリモコンあったの?』と思いました。僕の家にリモコン式TVが初めて来たのは80年代でした。このリモコンが出るシーンはちょっと面白い、話題になるディテールですね」と、劇中のこだわり抜いた家具についても話が出た。

また、50年代の音楽の話になると、バラカンは「50年代が終わる頃に小学生だったんですが、親がレコードプレイヤーを初めて買ったのは60年代だったから、50年代はラジオで音楽を聴いていました。音楽を聴いていたけど、積極的、というよりは子供向けのリクエスト番組を週末に聴いていた、という感じですかね。テレビも観ていましたが、当時のイギリスのテレビのチャンネルは、民放とBBCワンチャンネルずつしかなかった。テレビではよく西部劇のシリーズ物をやっていましたね。『ローン・レンジャー』とか『リン・ティン・ティン』とかいっぱいありました。タイトルがスラスラなぜか思い出されますが、やっぱり小さい時の体験って忘れないですね(笑)。遡って観ると、50年代のアメリカの映画は面白い作品がたくさんあった。割とコメディと真面目なドラマが混ぜたものが普通だった。今は、真面目なものは賞をとるかもしれないけど、あまり一般の人は見てないっていう印象がありますね」と当時の自身の経験を振り返りつつ語った。50年代のミュージシャンの話題になると、「いま50年代を思い出すとロックンロールのイメージが強いですね。エルビス・プレスリーは54年にレコードデビューして56年頃にヒットします。その後もリトル・リチャード、チャック・ベリー、バディ・ホリーや色々なミュージシャンが出てくるんですが、皆2年くらいでほとんどいなくなります。南部では悪魔の音楽だ、と言われてレコードを割って燃やされたり、事件が起こります。そこで、59年となると、割とアイドル歌手の時代になります」と解説し、会場からも感嘆の声が上がった。

また、当時の人種差別については、「50年代に有名なアラバマ州のバスのボイコット事件があって、これをきっかけにマーティン・ルーサー・キングが出てきて、公民権運動に繋がりますね。でも50年代はまだ進んでいないかな。一つ、画期的な最高裁の判断が54年にあったんですが、同じ学校に白人も黒人も通うのは、60年代になってから。南部には50年代にはまだまだ酷いことがありました。アメリカは社会的に進んでいる面もありますが、基本的に保守的な国だな、と思うことも多いです。どこの国でも田舎に行けば行くほど保守的になりますが、今、まさに拍車がかかっているような気がしますね」と当時の社会背景を解説した。

ジョージ・クルーニー監督が、コーエン兄弟が書いたロッジ家のコメディ・スリラーの脚本に、レヴィットタウンの実話をプラスして物語を成立させたという本作。バラカンは「ジョージ・クルーニー監督が最初はオスカー・アイザックの役をやらないかと言われて、コーエン兄弟の脚本を持っていたんですよね。そこから何年か経って、何を監督しようかと思った時、思い出したのが本作。そこにレヴィットタウンの事件を組み入れるのは監督ならではの面白さですね。ジョージ・クルーニーは娯楽作品にもよく出ますが、最近は真面目な映画に多く出ていますね。『グッドナイト&グッドラック』が本当に名作ですよね。子供の2人が素晴らしい最後を彩りますよね」と監督の手腕を褒め称えつつ、映画の結末にも言及した。クルーニー監督がなぜ、今この作品を撮ろうと思ったのか、考えを尋ねられると、「結果的にどの程度意図したかは別として、今のトランプ時代のアメリカを思わせますね。アメリカに限らず、世界中でそんな雰囲気になっていますが、監督はそういったことをみんなに考えてほしい、と思ったんでしょうね」と答えた。

また、オスカー・アイザックがインタビューで「“アメリカを再び偉大に”と言って、かつての輝かしいアメリカに戻ろうとする動きがある。本作はそんな時代にこそ見てほしい作品だと思う」と語ったことに話題が移ると、「どこが輝かしいんだ、って感じですね(笑)。トランプが輝かしかったって思い込んでいるのは、実はこの話のことだった、ということですよね。古き良き時代、というのは結構洗脳されていると思う。あと、最近日本では伝統についての話が多いな、と感じるのですが、みんなが伝統と思い込んでいるのは新しいものだったりします。“伝統だと思い込んでいる”ということです」と、今の日本の社会にも通じる部分があることを指摘した。

本作には実際のドキュメンタリーの映像も使用されているが、バラカンは「まさにレヴィットタウンの事件のドキュメンタリーの本物の映像が使われているんですよね。ただ、実際のレヴィットタウンの事件では、抗議に行動に出ていた人はそんなに多くなかったらしいですね。抗議行動に出ている人の声を大きく見せていたみたいです」と最後まで様々な知識を駆使した話に観客は真剣な面持ちで聞き入り、イベントは幕を閉じた。

『サバービコン 仮面を被った街』
5月4日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督:ジョージ・クルーニー
脚本:ジョエル&イーサン・コーエン ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴ 
出演:マット・デイモン ジュリアン・ムーア オスカー・アイザック
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
 
【ストーリー】 明るい街、サバービコンへようこそ!そこはアメリカン・ドリームの街。しかし、そこに住むロッジ家の生活は、自宅に侵入した強盗により一転。一家の幼い息子、ニッキーの運命は予想もつかない方向へ…。時を同じくして、この町に引っ越してきた黒人一家の存在が、笑顔溢れるニュータウンの住人たちのドス黒い一面をあぶりだす。街の人々と家族の正体にただ一人、気がつくニッキー。事件は、想像を超える結末へと急展開する。果たして、幼いニッキーの運命は?サバービコンの行く末は!?

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