antenna*×ユーロスペースのコラボ企画スタート!第1弾作品『希望のかなた』トークショーレポート

2017年のベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞した、アキ・カウリスマキ監督最新作『希望のかなた』(12月2日より公開中)。このほど、渋谷・ユーロスペースとキュレーションアプリ「antenna*」によるコラボ企画「antenna*cinema」の第1弾として本作がピックアップされ、12月23日、渋谷・ユーロスペースにてトークイベントが開催され、テキスタイルデザイナーの河東梨香と鈴木マサルが登壇した。

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ともにムーミン関連のデザインも手掛けているという共通項も持つ、北欧にゆかりの深い河東と鈴木。実はカウリスマキ作品を鑑賞するのははじめてだったと告白した河東は、本作について、「はじめは独特のリズムに戸惑った。難民という難しいテーマを描いているが、決してつらく悲しいだけでない希望のある終わり方」と感想を述べた。また、レストランオーナーのヴィクストロムが一人で酒を飲むシーンをお気に入りに挙げ、「光の描き方がおもしろい。まるで絵画のよう」とコメント。一方、鈴木は開口一番「知り合いがたくさん出ていてびっくりした!寿司屋のシーンで登場する(日本人エキストラ)の半分くらい」と答え、続けて「僕が普段やっているデザインはいわゆるジャパニーズ北欧というか、わりとかわいいイメージで日本ではとらえられているが、カウリスマキ作品は、彼独自の世界観はあるにせよ、実際のフィンランドのある種の暗さをとらえていて案外リアルだった」と語った。

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続いてフィンランドの印象について、デンマーク人の母を持つ河東は、「デンマークともまた全然違っている。どちらかというと幼いころ住んでいたロシアに似ている。歴史的にも統治下にあった影響が色濃く残っているのではないか」と、北欧諸国でも国によってそれぞれ違った個性を持っていることを伝えた。鈴木は、自身も携わるフィンランドを代表するブランドで、ポップな印象のあるマリメッコについて、「マリメッコはまだできて60年そこそこのブランド。日本では北欧はカラフルなイメージがあると思うが、マリメッコ以前のフィンランドは全然そうではなかった。何もないフラットな空間があったからマリメッコのような鮮やかなデザインがポンと入ってきたんだと思う。カウリスマキ監督の作品はタイプライターが出てきたりとレトロな世界観。きっと昔のフィンランドのイメージを意識しているのかもしれない」と分析した。

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トークの後半では、二人が北欧で撮影した写真をスライドに流しながら北欧デザインの特徴について掘り下げた。河東は福祉施設や公共施設の写真を複数紹介し、「壁や床にブルーや水色が多用されている。そこに対になる赤の椅子を持ってきている。こういったコントラストはブルーの壁、赤い絨毯といったカウリスマキ作品に通じる」と語った。さらに、カウリスマキ作品に登場するレストランに雰囲気が似ているとして、1930年代に著名な建築家アアルトがデザインした、ヘルシンキにある「レストラン・サボイ」を紹介。同様に鈴木も、ヘルシンキ郊外のオールドスタイルのレストランの写真を挙げ、「モノを大切にする文化があって、食器とかもずっと同じブランドのものを使い続けるからスタイルが変わらない」と付け加えた。

昨今、日本で北欧デザインのブームが続いており、カウリスマキ監督も小津安二郎を意識するなど日本びいきとしても知られている。北欧と日本の共通点について、鈴木は「シンプルなものを好む。精神性が近いのかもしれない。東の果てと北の果て、どちらにも辺境の美学があるのではないか」と分析。最近では、寿司バイキングができるほどにヘルシンキでは寿司ブームのようで、二人は劇中でのトンデモ寿司屋が強烈に印象に残ったと明かした。「antenna*cinema」では、今後も良質な作品からライフスタイルをテーマに語り合うコラボトークイベントを定期的に開催する予定だ。

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『希望のかなた』
2017年12月2日(土)より、渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開中
監督・脚本:アキ・カウリスマキ
出演:シェルワン・ハジ サカリ・クオスマネン
配給:ユーロスペース

【ストーリー】 内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、レストランのオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手を差しのべ、自身のレストランに雇い入れる。そんなヴィクストロムもまた行きづまった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた。それぞれの未来を探す2人はやがて“家族”となり、彼らの人生には希望の光がさし始める…。

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