映画『三度目の殺人』福山雅治、是枝裕和監督が登壇!第22回釜山国際映画祭オフィシャルレポート!

【上映前舞台挨拶】

福山雅治、是枝裕和監督が「ましゃ」コールもかかる中、客席から登壇すると、840席のキャパシティが埋まった満席の会場からは割れんばかりの拍手と大歓声が巻き起こった。圧倒的な盛り上がりを見せる会場に、福山さんは「アニョハセヨ、ありがとうございます、カムサハムニダ、福山雅治です。今日はですね、久しぶりにこの釜山に帰ってきまして、こんなに沢山の方、一階、二階、三階、三階の皆さんありがとうございます。二階の皆さんもありがとうございます。一階の皆さんもありがとうございます。映画楽しみにして下さっていると聞いています。どうぞ楽しんでいってください。」とご挨拶。続いて、是枝監督が「こんばんは、是枝です。新作ごとにこの映画祭に呼んで頂いて、毎年のように韓国のファンの皆様とこういう時間を設けて頂くこと本当に感謝しております。ありがとうございます。そして今日、なかなかチケットが取れなかったとか、昨日の夜から並んだ方がいるとか、いろいろ耳に入ってきているのですけど、来て頂いて本当にありがとうございます。」と韓国のファンへ感謝の気持ちを述べると、会場からは熱い拍手が送られた。

トーク1(Q&A)

是枝監督は作品について、「4年前に『そして父になる』で福山さんと初めて釜山を訪れまして、次にどんなものを作ろうかと企画のキャッチボールを続けていきながら今夏の作品に辿り着きました。今回は一つの殺人事件をめぐる、弁護士と殺人犯と被害者の家族の話です。これまで私が作ってきたホームドラマとはやや趣が違いますし、ミステリーやサスペンスのジャンルとも、見て頂けばわかると思いますが、違うストーリーの流れを持った作品です。いい意味でみなさんの予想を裏切るようなそんな作品に出来上がっているといいなと思います。上映後また二人で戻ってきますので、ゆっくりお話ししましょう、楽しんでください。」と語り、これから本作を鑑賞する場内からも本作に向けた期待が一層高まる様子も見受けらた。

【Q&A】

Q1:今回は今までとは違ったトーンの、法廷サスペンスとなっています。監督が映画を作るときは、その時期に持っている問題意識が作品に反映されます。どういう視点で、この時期に、この作品を作られたのでしょうか?

是枝:『そして父になる』を福山さんとつくったときに、法律監修で入って頂いた弁護士さんと話をしていた中で、ふっと彼が「よくレポーターが裁判所の前からテレビで中継して、判決は出たけど控訴が決まって、真実を追究する場所が地方裁判所から高等裁判所へ移りましたっていうレポートを聞くことがあるけど、あれ違和感があるんですよ。別に法廷って真実を明らかにする場所じゃないんですよね」って言ったんですよね。そこで「何をする場所なんですか?」と聞いたら「利害の調整ですね。弁護士には真実は分からないですからね」って言われたのが凄く印象に残って。誠実だなって思う半面、そういう人間たちが真実を分かったという振りをしながら判決に至って人を裁くということ、そういう制度を私たちの社会が持っているということのちょっと怖さみたいなものを感じたというのがこのストーリーを考えたスタートにありました。

Q2:みなさんの集中度と目のが輝きが他のどの会場より強い気がします。福山さんに質問です。今回、ここにいらっしゃれなかったのですが役所広司さんとの火花が散るような演技対決を見せていただきました。主人公二人は、見えない弦を、お互い精一杯引っ張り合う対決のような構造を見せてくれます。現場で、火花が散るような演技対決についてどう感じたか、また重盛というキャラクターで一番大事だと思うキーワードはなんでしょうか。

福山:重盛のキーワードは、勝ちにこだわる。感情のままに動くというよりは、まずは仕事として感情よりも勝つことにこだわるプロフェッショナルというのがキーワードになるんじゃないですかね。それとお芝居ですけど、役所さんとの。あれは、緻密にコントロールしたり計算したりは正直あまりしていません。むしろ現場で起こったこと、目の前に現れた役所さん演じる三隅に素直に反応していった結果、ああいう形になっていったというか。事前にこうしよう、ああしようと組み立てたわけではなく、その場で起こったことに素直に反応していったという、それだとまるで何も準備していない人みたいな感じですけども、そういうわけではないのですけれども、はい。

Q3:監督の映画を見るたびに、キャラクターがとても立体的だと感じていました。監督がキャラクターを描く過程やどのようにキャラクターを作り出しているのかを教えてください。

是枝:特別な方法があるわけではないですが、でもそう言って頂くのは嬉しいです。今回のような作品の場合、特に気を付けなければいけないのは、事件自体が非常にセンセーショナルなものなので、事件を追うことに僕自身が引っ張られてしまうと、登場人物が立体的に浮かび上がってこない、つまりストーリーラインだけが届いてしまうので、あくまで人がいて事件がある、それはどんな物語を書くうえでも順番が逆であってはいけない。人があって事件が動く、そのことを忘れない、ということが大事なことだと思います。あとは僕は綿密な履歴書を作るわけはなく、しかも回想シーンをほとんど使わずに現在進行形だけで映画が出来上がるのを一番シンプルで美しいと思っているのですが、その中に過去と現在と未来がどこかから感じられると登場人物が立体的になってくると思っています。セリフも衣装も美術も、あらゆるものがその3つの時間を意識しながら「今」を描くという意識がうまくいったときに、人間が立体的になっていくと思っています。

トーク2(Q&A)

Q4:三隅が娘に結局お金は送らなかったのか、娘の広瀬すずさんに対する感情も全て嘘だったのか、など観客がどう受け止めるかだとは思いますが、監督にその辺の見解を聞きたいです。

是枝:メインになっている三人はそれぞれ父と娘で、三人ともその関係がうまくいっていないんですよね。だからあの雪合戦のシーンは重盛が電車の中で見た夢という設定で作っていますけど、あの夢は三隅が見ていても、咲江が見ていてもおかしくない。あのシーンは三人が夢の中だけで共有するものとして書いたんですけど、出てこない人間がいて、目の前にいる人間にその代わりを見ていくというんでしょうか。自分が一緒にいられない娘の代わりに、目の前にいる娘というというか。中心にいる三人がそれぞれ相手の中に別の人間をみていくというのが今回の三人の関係だったので。それが最後のシーンでは、重盛が三隅のなかに自分を見ていくということに重なって進んでいくように作っていきました。

Q5:日本の予告を見たときは、「本当のことを教えてくれよ」というセリフとともに、福山さんが崩れていく姿が描かれていると思っていましたので、最初は重盛が三隅より強い立場にいると思った。最後の接見室のシーンを見ると、最初二人が対立していた関係とは正反対で、むしろ三隅が重盛を尋問するように見えた。最後の法廷シーンで三隅が重盛に対して握手を求めながら「ありがとうございます」というシーンで、重盛と三隅がお互いに感じた感情が何だったのかがとても気になりました。

福山:大変深い感想ありがとうございます。そのあたりは、役者の演じ方、現場で演じた感覚や感情はもちろんあるのですが、最終的には監督の判断によって、編集で構築されていってる部分もあるので、(福山さん監督に向って)どういうつもりで作られたんですか?

是枝:そうですね、脚本とはちがうセリフがあったものを省略して作ったりしてます。出来上がったものから自分であのシーンを解釈すると前半でガラス越しだけど手を重ねると分かるんですと三隅に言われ、今あなたがおっしゃったみたいに二人の関係がどんどん変わっていきます。そして(二人の立場が)逆転していくじゃないですか?重盛の方が探られてる感覚になるでしょう?そこでもう一度今度は直に手を触れます。そうなった時に重盛が今度三隅が何を考えているのかわかるんじゃないかな?そして重盛なりに分かったことを三隅にぶつけにいくという(流れです)。言葉にはあの場ではしてないですけど、三隅に触れたことで重盛の中でまた少し三隅に近づいた感じになっていますね。

福山:実は全然違うセリフがあったんですが、それがカットされているので、僕が演じた時の感情とは違う見え方になっているのかもしれないです。

Q6:接見室のシーンですが意図はありますでしょうか?

是枝:接見室シーンは7回あるんですが、二人の距離感の変化に合わせて撮り方を全部変えようと、撮影の瀧本さんと相談して決めていて、カメラが実態の三隅を撮るのは5回目まで待って、(非常にフィクションのポジションとしてですが、)壁を外して真横に入るのが6回目まで待ってという、最初、殺人犯と弁護士だったものが少しずつ関係を変えていくように、お芝居でもそうですけどカメラワークでもそのように見せましょう、という話をしていました。最後、同じ方向を見ていた二人が重なってまた離れていくというシーンは僕が描いたコンテではなく、瀧本さんが現場で見つけてくれたんです。それが、自分が描きたいと思っていた脚本であり、描きたいと思っていたシーンをあのワンカットがすべて表現してくれた素晴らしいものだったので、後半のカット割りは全部変えて、あのカットで推すように変更しました。

サイン(是枝監督)

『三度目の殺人』
9月9日(土)より公開
監督・脚本・編集:是枝裕和 
出演:福山雅治 広瀬すず 吉田鋼太郎 斉藤由貴 満島真之介 市川実日子 橋爪功 役所広司 
配給:東宝 ギャガ

STORY それは、ありふれた裁判のはずだった。殺人の前科がある三隅(役所広司)が解雇された工場の社長を殺し、火をつけた容疑で起訴された。犯行も自供し、死刑はほぼ確実だった。その弁護を担当することになった、重盛(福山雅治)。裁判をビジネスと割り切る彼は、どうにか無期懲役に持ちこむために調査を始める。何かが、おかしい。調査を進めるにつれ、重盛の中で違和感が生まれていく。三隅の供述は会うたびに変わる。動機さえも。なぜ殺したのか?本当に彼が殺したのか?得体のしれない三隅に呑みこまれているのか?弁護に真実は必要ない。そう信じていた弁護士が、初めて心の底から真実を知りたいと願う。やがて、三隅と被害者の娘・咲江(広瀬すず)の接点が明らかになり、新たな事実が浮かび上がる──。

(C)2017『三度目の殺人』製作委員会