森達也「ドキュメンタリーは化学の実験だ」映画『禅と骨』シンポジウム付き上映会

『ヨコハマメリー』の中村高寛監督11年ぶりの長編ドキュメンタリー『禅と骨』(配給:トランスフォーマー)が9月2日(土)よりポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトル他全国にて順次公開。これを記念して8月24日(木)、都内にて生命とは動的平衡にある流れである」と提唱する生物学者・福岡伸一と、「フィクションとノンフィクションに境はない」を基調に、数々のドキュメンタリー作品を生みだしてきた映画監督、作家・森達也をゲストにお迎えしたシンポジウム付きの公開直前!カウントダウン上映会を実施した。分野こそ違うが、それぞれの境界のボーダレスを標榜、意識する二人の作家と中村高寛監督によって、映画と科学/化学の類似点や、ドキ ュメンタリー作品の中での“記憶と時間”の捉え方、そして“骨”とは?と非常に重層的な議論が展開され、観客の皆さんの満足度が非常に高いシンポジウムとなった。

『禅と骨』8.24オフィシャル_low

8月24日(木)に、都内にて公開を9月3日(土)に控えた『禅と骨』カウントダウン上映会が開催され、生物学者・福岡伸一さんと映画監督、作家・森達也さんがゲストとして登壇した。東京での本作の上映は今回が初となり、待ち望んでいた多くの人が会場に詰め掛けた。

本作は2006年に公開され大ヒットを記録したドキュメンタリー『ヨコハマメリー』の中村高寛監督が11年ぶりに放つ最新作で、横浜生まれの“青い目の禅僧”ヘンリ・ミトワを追ったドキュメンタリーである。様々な専門ジャンルの人に『禅と骨』を多角的に語って欲しいという配給側の願いから、今回のゲストが実現した。

感想を求められた福岡は「この映画を見て、科学の営みは映画の営みと、“世界”をどういうふうに記述すべきか、という問題に常に向き合っているという点で良く似ていると思った」と述べ、さらには“細胞”を用いた独自の視点で映画と科学の共通点を語った。

『禅と骨』8.24福岡伸一さん_low

森も「ドキュメンタリーをよく化学の実験に例える」と告白。「被写体をフラスコに入れて、熱したり冷やしたり、何かを入れたりして反応をみる。時には自分もフラスコの中に入ってしまって、刺激しているつもりが刺激されていることもある。そういうことをしてドキュメンタリーはできあがる」と語った。そして今回、観客と共に二度目となる鑑賞を終えた森は、「2回見て分かったけど、編集苦労したでしょう」と監督を労った。

『禅と骨』8.24森達也さん_low

また 福岡から、小刻みにカット割りをしているはなぜかと問われた監督は、「ミトワさんの全人生をこの映画におさめるためには“テンポ”が不可欠だった。また映像を素材としてではなくて、映画として見せていきたい、一つのカットに力があれば、それを重ねることによって、またより強みがでるのではという確信があった」と語った。また「この映画に10年分の“映画/ドキュメンタリーって何だ”といった自分の考え、想いを全て入れている。一回自分のスタイルを壊し、そこからどう再構築していくかが、この作品の僕のテーマだった」と明かした。

『禅と骨』8.24中村高寛監督_low

そして最後に監督からこの映画には度々“骨”が登場するが、生物学者からみた“骨”とは何なのか、を聞かれた福岡さんは「生きている人間の骨は常に壊され再形成されていく、流れるもの。ただ骨となった人の最も大事な“記憶”は、ミトワさんがそうであるように残された者たちの中に 残っていくものであると思います」と語った。普段は聞くことのできない映画と科学の重層的な話に、観客の皆さんも 大満足の様子であった。
40bcf462229db6ddf5dbfcc815400a20-1280x720

『禅と骨』
2017年9月2日(土)より、ポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトルほか全国順次
監督・構成・プロデューサー:中村高寛
出演:ウエンツ瑛士 余貴美子 利重剛 伊藤梨沙子 チャド・マレーン 飯島洋一 山崎潤 松浦祐也 けーすけ  千大佑 小田島渚 TAMAYO 清水節子 ロバート・ハリス 緒川たまき 永瀬正敏 佐野史郎
ナレーション:仲村トオル

©大丈夫・人人 FILMS