丸山ゴンザレスが日本では信じられない身近な麻薬事情を明かす! 映画『ローサは密告された』公開記念トークレポート

第69回カンヌ国際映画祭でフィリピン映画界に三大映画祭で初めての主演女優賞を、もたらした『ローサは密告された』が公開。これを記念して、7月29日と7月30日、シアター・イメージフォーラムにて本作のトークイベントが開催され、人気ジャーナリストの丸山ゴンザレスと、映画監督の原一男が登壇。『ローサは密告された』を独自の視点で解説した。

丸山ゴンザレスさん①

【7月29日 丸山ゴンザレス登壇イベント】

初日29日には、本作を「異様なリアリティがある」と指摘、いま日本で最も危険地域を知る男と言っても過言ではない人気ジャーナリストの丸山ゴンザレスが登壇。「スラム街が本当にリアルでした。ちょっと違う点は、スリムな人はもっと少ない。ジャンクフードを食べてるのでみんなデブです。(笑)」と冒頭から会場を笑いの渦に。「フィリピンを訪れる度に思うのは“頭で理解するものじゃない!” ということ。それほどにフィリピンは日本と善悪の価値観が全く違います。良い悪いとか正義とか二の次です。個人や家族のメリット、自分たちの利益が第一なのです」とコメント。

麻薬事情について聞かれると「日本人であってもフィリピンでは麻薬は簡単に手に入れることできます」というゴンザレスさんの発言に会場は騒然!「僕の知り合いにシャブ中がいるのですが、よくフィリピンで仕入れているそうです。英語ができてコミュニケーション能力があれば大丈夫。ローサがいるような“サリサリストア”(雑貨店)の人たちが売人の仲介してくれます。でもフィリピンのシャブは国産なので質が悪いらしいです。なので、「注射はやめとけ!炙りにしろ!」ってよく言われてますね(笑)」と日本では信じられない身近な麻薬事情を明かした。

警察と関わったことありますか?という問いには「もちろん。この前、仲良く散歩しました(笑)」とまたもやオドロキの発言が。「日本人だと分かると、すぐ難癖つけてお金を要求されたりと、警察は全く信用なりません。そもそも途上国の警察は、そんなに頭の良い人が就く職業ではないです。警察になるための試験は簡単で、多くの人が目指すんです。だから日本と比べて警察の質が悪い」と、警察が抱える問題についても言及。「そして一番問題だと思うのは警察が“密告”を捜査の手法に取り込んでいるのです。日本みたいな科学捜査より目撃情報などを重視しています」とシステム自体も警察の腐敗の一要因であることを指摘しました。

観客の質問にお答え!Q&A コーナー
▼衝撃のスラム街の現状を観た直後の観客がゴンザレスに直接質問!

Q 最後にローサが食べていたものはなに?
A“フィッシュボール”というツミレみたいなものです。どこにでもあります。監督になぜ選んだのか聞いてみたんです。その場ですぐに食べられるものだったから、と言っていました。でも、ソースはマズいんで、つけないでくださいね。(笑)

Q 子どもが警察署にいるのは当たり前のことなの?
A 言い方に語弊があるかもしれませんが、フィリピンの子供の命は軽いです。稼げるまで成長しないと意味がない。もちろん、ストリートチルドレンもいますが、親がいても食わせてもらえない子もいます。そういった子どもたちが自分で食べ物を探すために居座ってるんです。意外に快適なんですよ。

Q ローサの家族がかき集める5万ペソって日本円にしてどれぐらい?
A おおよそ11万~12万ぐらい。ひと家族の年収ぐらいです。日本円でいうと2~3万が月給。とんでもない額を請求しているのがわかると思います。

丸山ゴンザレスさん②
丸山ゴンザレス(ジャーナリスト・編集者)
無職、日雇い労働などからの出版社勤務を経て独立。現在は国内外の裏社会や危険地帯の取材を続ける。人気旅番組「クレイジージャーニー」に危険地帯ジャーナリストとして出演中。7/24 に新刊「世界の混沌を歩く ダークツーリスト」に出版。

【7月30日 原一男登壇イベント】

「この映画を観て思ったことをお話ししようと思います」と、席に座らず、前のめりで語り始めた原監督。30分間立ち上がったままで本作の魅力を大いに語った。

原一男さん①

原は「昔、私が助監督していた浦山桐郎さんは『映画は人民のものである』と言いました。人民=市井の人々、つまり映画は貧困層を描くものでした。しかし、世の中が豊かになるにつれて、誰も社会派映画を欲しなくなりました。今の日本は『余命がもうすぐ…』という難病でお涙頂戴な映画ばかり。映画『ローサは密告された』を見て強く感じたのは『日本は変わってしまった!』ということでした。フィリピンに比べて日本は豊かになりました、でも『幸せか?』と言われると『ウーン…』となる世の中です」とコメント。

「映画の中で警察が当たり前のようにワイロを要求していましたが、私も、一回だけ撮影でワイロをつかったことがあるんです。映画『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三さんについてパプアニューギニアで撮影することになったんですが、カメラを持ち込むことができないと事前に言われてました。でもワイロを渡したらいいんだよ、って教えてもらって。案の定、税関で止められて。「これで…」とお金を渡したら、簡単に通してくれました。本当にワイロは当たり前のことなんです。警察たちは、決して私達に憎しみがあるわけじゃありません。給料だけでは生きていけない、だから小銭稼ぎする。そんなシステムが成り立ってしまっているだけなんです」と自身の過去の体験を告白した。

続けて原は「今村昌平監督は『映画は人間を描くもの』と言いました。私は、一言加えて『映画は人間の感情を描くもの』と理解しています。人間は社会に組み込まれて生きていきます。その社会の中には必ず縛りや、矛盾がある。その仕組みを強いられるのは貧困層の人たちです。この映画では主人公の感情をとおして『政治体制の矛盾、闇、社会のもつ歪み』を描き出しています。『クソみたいな社会を生き抜いてやる』という決意を感じられたラストシーンには、思わず共感してもらい泣きをしてしまいました。どれだけ大変なことがあっても腹は減る。食欲というのは人間のエネルギーの根源です。素晴らしかった」と本作を絶賛した。

撮影に関して、原は「3台のカメラで撮っているそうですが、私が観ても分からないくらいに、自然に撮られていました。脚本も渡さない、まさしくドキュメンタリーの撮り方。その結果、貧困層の人たちの息遣いが、リアリティをもって描かれていますよね。デジタルカメラで撮られる意義も感じられます。デジタルカメラは肉眼で感じられるより明るく写るんです。だから本作も「ノーライト」(照明なし)で撮られています。場所がもっている光で表現できるのです。本作は今の映画技術と昔ながらの視線が合わさった映画。まさしく“最先端”の映画だと思います」とコメントした。

最後、新作の話に触れた原は、「長年、『ゆきゆきて、神軍』で奥崎謙三さんみたいな政府に喧嘩を売るような人を探していましたが、どこを探しても見つかりませんでした。今の時代の人々は非常にヌルく生きている!!」と原監督らしい喝が。「でもいま奥崎さんみたいな人が現代にいたら、ネットで炎上して、潰されてしまうのだろうな…」と生きづらい今の世の中を嘆いていた。

原一男さん②
原一男(映画監督)
『ゆきゆきて、神軍』『全身小説家』などの代表作を持つ伝説的な日本を代表するドキュメンタリー作家。今年『ゆきゆきて、神軍』が
公開30 周年を迎え、記念上映を行う。

『ローサは密告された』
2017年7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ジャクリン・ホセ フリオ・ディアス
配給:ビターズ・エンド

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