「脱北の山中は大変すぎて撮影ができないくらいだった」 ユン・ジェホ監督、緊急来日トークイベント開催!

2016年カンヌ国際映画祭ACID部門正式出品、2016年モスクワ国際映画祭、チューリッヒ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞他、各国の映画祭で絶賛されたドキュメンタリー『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』がいよいよ6月10日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて全国順次公開。この度、公開を前にユン・ジェホ監督が緊急来日し、6月6日(火)夜に渋谷・ユーロライブにてトークイベントがを実施された。

監督イベント写真1

十年前、家族のため一年間だけの出稼ぎのはずが騙され、中国の貧しい農村に嫁として売り飛ばされた、北朝鮮女性B(ベー)。最初は憎んでいた中国の夫と義父母との生活を受け入れ、そこで生き抜くために脱北ブローカーとなる。しかし北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じた彼女は、彼らを脱北させ、自らも韓国へと渡る過酷な道を選ぶ。この名もなき北朝鮮女性Bの生き様を記録したのは、フランスと韓国を拠点に映画製作し、これまでに5本の中短編映画がカンヌ国際映画祭に出品され、今最も注目される新鋭ユン・ジェホ。大胆で鋭く、ときに美しい映像で、中国と北朝鮮そして韓国に引き裂かれるBの分断の人生を、韓国人である監督自身のアイデンティティへの疑問と闘いながら記録した。

madameB main

ユン・ジェホ監督の「(日本語で)初めまして、ありがとうございます。この映画を作るのに、すごい長い時間がかかりましたので、このように皆さんに観て頂けるのがすごく嬉しいです」との挨拶から始まったトークは、マダム・ベーら北朝鮮女性たちが中国からラオス、タイを経て韓国への脱北を計る、その過酷な脱北道中に密着したときの裏話や、現在のマダム・ベーの状況、韓国における脱北者の現況など、興味深いトークが次々飛び出す、貴重なトークイベントとなった。以下、主な内容。

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MC:撮影の過程で大変だったことは?

監督:一番大変だったのは、中国からタイに抜ける脱北ルートに同行したときですね。大変すぎて、実際に撮影しようと思っても大変で10分も撮影できなかった。特に中国からラオスに抜ける山中は、とりあえず持っていたカメラはすべてカバンにしまって、暗闇の中、とにかく止まってはいけない、この山を越えなければならない、と考えるだけでした。

MC:現在のマダム・ベーはどんな生活をしているのですか?

監督:マダム・ベーは今、ソウルの郊外に小さなバーを開いていて、中国の家族とも、北朝鮮から脱北した家族とも一緒に住まず、一人で独立して暮らしています。そこで細々と儲けたお金を二つの家族に分けて送っているそうです。

MC:現在、脱北した人が韓国では3万人以上越えたといわれています。その中でも70%以上が女性だそうですが、監督からみて脱北者の印象は?

監督:ケースバイケースだと思いますが、マダム・ベーのように強い女性もいれば、脱北者だということを隠している人もいる。中には、韓国と中国で活躍しはじめた映画俳優(女優)さんもいます。ちなみに、マダム・ベーの次男の夢は“映画俳優”だそうで、実際僕の知り合いの監督がキャスティングするときに紹介したりしています。

MC:日本では、北朝鮮というとミサイルの問題などネガティブな情報も多いため、ある意味イメージも画一化しているところもあります。韓国ではどうですか?

監督:韓国社会で脱北者に対しては、厳しい視線というか偏見がありますね。一方、政治的に利用されてしまうこともある。韓国のメディアはその時にどういう政権が握っているかによって変わっていきますね。文在寅(ムン・ジェイン)政権になってどうなるかわかりませんが、僕は政治家ではないけれど、前よりは良くなるんではないかという淡い期待を持っています。
ただ世界を変えるには、一日二日寝れば変わるわけではないですし、大きく変えるには、小さいことから変えていくしかないと思っています。ただ小さいことも変えるのには意外と時間はかかるのですが、それでもやっていくことが重要ではないでしょうか。
僕の場合は映画という文化を通して、観客の皆さんに提案をして、話をしていくことを続けていく。例えば僕の小さい頃は日本文化が禁止されていましたが、日本のアニメなど少しずつ接することによって、木の皮がむけるように日本を知っていくことができました。僕も文化を通して少しずつ相手のことを知り、核心に迫っていくことが提案できればと思っています。

このほか、観客からの質疑応答では、マダム・ベーの北朝鮮での生活の様子を聞かれ、「マダム・ベーの北朝鮮での生活は田舎ではあったが、アパート暮らしで、独身時代は鉄工場で働いていたと聞いた。でも売られた中国の農村のほうがはるかに田舎で、お手洗いが外だったりする状況にマダム・ベー自身も“北朝鮮より貧しい生活があるんだ”と思ったそうです」という驚きの答えも。

最後にユン・ジェホ監督より「本作は小さな作品ではありますが、僕が人間として尊敬する、大切に思う女性の物語です。どうか一人でも多くの方に観て頂けるようにご協力よろしくお願い致します」とのメッセージがあり、本作同様、貴重な話が続くトークイベントとなりました。

監督イベント写真2

ユン・ジェホ (Jero YUN)
1980年、韓国・釜山生まれ。13歳から絵画を学び、2001年に渡仏、ナンシーのエコール・デ・ボザール、パリのアール・デコ、ル・フレノワで、美術、写真、映画を学ぶ。2008年「The Fall」から始まり、「赤い道」(2010)、「約束」(2011)、「豚」(2013)、「ヒッチハイク」(2016)、5本の短編がカンヌ国際映画祭に出品。2011年「約束」が韓国アシアナ国際短編映画祭で大賞を受賞。2012年に中編「北朝鮮人を探して」がメキシコ、シネマプレンタにて審査員スペシャルメンション賞を受賞。2016年カンヌに出品された本作はこれまで25の映画祭に招待された。現在は韓国とフランスを拠点に長編劇映画の制作に取り掛かっている。

公開中トークイベント実施決定!

渋谷・イメージフォーラムにて、本作公開中の6月17日(土)、18日(日)それぞれ10:50~の回上映後に、ゲストを招いて、本作をより知るためのトークイベント実施いたします!
★6月17日(土) ゲスト(予定):ヤン・ヨンヒさん(映画監督)
★6月18日(日) ゲスト(予定):礒崎敦仁さん(慶應義塾大学准教授/北朝鮮研究者)         
詳細は、公式サイトをご確認ください。 www.mrsb-movie.com 

『マダム・べー ある脱北ブローカーの告白』
6月10日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:ユン・ジェホ 撮影:ユン・ジェホ タワン・アルン
プロデューサー:ギョーム・デ・ラ・ブライユ チャ・ジェクン
音楽:マシュー・レグノー
編集:ナディア・ベン・ラキド ポーリーン・カサリス ソフィ・プロー ジャン=マリー・ランジェル
配給:33 BLOCKS
www.mrsb-movie.com
(C)Zorba Production, Su:m