第27回上海国際映画祭にて日本映画として23年ぶりに審査員特別賞を受賞した話題作『夏の砂の上』のティーチインイベントが、7月14日(月)にTOHOシネマズ日比谷で開催された。登壇したのは主演・共同プロデューサーのオダギリジョー、共演の髙石あかり、そして本作の監督・脚本を務めた玉田真也。作品の細部に迫る鋭い質問の数々に対し、3人が真摯に応じた本イベントは、映画の魅力をさらに深めるひとときとなった。
最初の質問は、公式X(旧Twitter)に寄せられた「ロケ地巡りのおすすめスポット」。オダギリは「稲佐山の展望台からの夜景が本当に美しい」と語り、髙石も「治の家は実際に存在するので、探してみるのも楽しいかも」と提案。玉田監督は「長崎のあの路地の雰囲気は独特で、観光地ではない普通の住宅街なのに、異世界のような景色が広がっている」と振り返った。
続いて話題となったのは、治の家に置かれた本棚の中身について。玉田監督は「小説や造船に関する技術書を並べていて、画面には映らないけれど、俳優の演技に影響を与えるような背景を作り込んだ」と明かし、作品に込められた細やかな演出が垣間見えた。
観客の印象に残るシーンとして話題に挙がったのは、治と陣野が会話を交わす場面。治の姿はガラス越しにぼんやりと映り、カメラは終始陣野の顔だけを追う。これについて玉田監督は「陣野が感じる“この人何を考えているのか?”という不安を一つのショットに込めたかった」と語る。オダギリも「メジャー作品なら“わかりやすさ”を求められてカットバックにされてしまうが、想像を促すのがミニシアター作品の面白さ」と共鳴した。
観客からの「治と優子はこの先また会うか?」という問いには、客席で挙手による多数決が実施され、「再会する」が6~7割で多数派に。一方で、登壇者3人はいずれも「もう会うことはない」と挙手。髙石は「スタッフの中でも意見が分かれていて、それが“映画の醍醐味”だと感じた」と話し、玉田監督は「あえて言葉を削り、観客に想像を委ねる構成にした」と演出意図を明かした。
治と優子の別れのシーンについて、オダギリは「引きのショットしか撮っておらず、カットバックなしで客観的に描いていたのがすごい」と玉田監督の判断を称賛。髙石は「目線を交わすだけのその瞬間が、いまでも強く心に残っている」と感極まった様子で語った。
髙石はイベントの最後に「SNSでは様々な感想が飛び交っていて、直接観客と話せる機会は貴重」と感謝を述べた。玉田監督も「すぐに言葉にできなくても、何かが残る映画であってほしい。断片的でもいいので、感じたことを共有してほしい」と締めくくり、温かな拍手の中、舞台挨拶は幕を閉じた。
■映画情報
『夏の砂の上』
全国公開中
出演:オダギリジョー、髙石あかり、松たか子、森山直太朗、高橋文哉、篠原ゆき子、満島ひかり ほか
監督・脚本:玉田真也
原作:松田正隆(戯曲『夏の砂の上』)
配給:アスミック・エース
ストーリー:
雨が降らない夏の長崎。幼い息子を亡くした喪失感から妻・恵子(松たか子)と別居中の小浦治(オダギリジョー)のもとに、妹(満島ひかり)の娘・優子(髙石あかり)が預けられる。高校へ行かずバイトを始めた優子と、父親代わりを務める治。だがある日、恵子と治の争いを目の当たりにした優子の心は――。
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