熱海を舞台に、漠然とした将来への不安から未来像を描けない男女を描く、27歳の若手監督・山本英による映画『小さな声で囁いて』が、3月16日から3月29日まで公開されることが決定した。

本作は被写体との対話によって紡いでいくニュードキュメンタリーのようなスタイルで、熱海を舞台に二人のカップルの「愛」と「Ｉ」の交差を描いた物語。結婚を考え始めた遼に対し、乗り気じゃない沙良。互いの溝を埋めようとした3泊4日の熱海旅行に行くが二人の心はすれ違う。

監督を務めた山本英は、広島に住む祖父を撮影した『回転（サイクリング）』が第38回ぴあフィルムフェスティバルに入選し、香港で上映。その後、東京藝術大学大学院映像研究科監督領域に進学し、映画監督の諏訪敦彦と黒沢清に師事、満を持して本作の撮影に臨んだ。修了制作となる本作は、第40回ぴあフィルムフェスティバル正式出品に選出、マルセイユ国際映画祭やブリュブ国際映画祭などフランスの名だたる映画祭でノミネートされたほか、フランス日刊紙リベラシオンにも掲載され、今回初の劇場公開となる。

さらに、3月20日、3月26には、山本英監督作の『グッドアフタヌーン』、『回転（サイクリング）』、『イン・ダ・ホーム』の短編作品3本立てとなる特集上映が開催される。

■映画『小さな声で囁いて』＋特集上映 詳細
3月16日（土）～3月29日（金）レイトショー（20：30～、21：00～）
※3月20日（水）、3月26（火）は特集上映開催につき、山本英監督作『グッドアフタヌーン』『回転（サイクリング）』『イン・ダ・ホーム』の短編作品3本立ての上映
会場：ポレポレ東中野
チケット価格：一律1300円（半券提示で1000円）

著名人 応援コメント

■佐々木敦（批評家）
誰もがよく知っている熱海が、異国の土地に変貌する。台詞にもあるように、そこはイタリアだ。まだ十分に若い、だがもうすごく若いわけでもない恋人同士の男女も、どこか日本人であることから逃れようとしているかに見える。これは『イタリア旅行』のリメイクなのだ、そんな予感が頭をよぎる。もちろん、山本英は1953年のロベルト・ロッセリーニではない。2017年に撮影された日本映画として、この作品は端正な瑞々しさと奥ゆかしい大胆さを身に纏いつつ、ここにある。『イタリア旅行』のあの奇跡のラストシーンとは全く異なった、だが同じくらい唐突で愛すべきラストショットが、あなたを待っている。

■黒沢清（映画監督）
行き当たりばったりに熱海を旅行するカップル。ジャンルとしては観光映画と言っていいこの分野が、ここまでの可能性を秘めているとは思わなかった。おそらく、監督の抜群のセンスのよさがこの映画を驚くべきスリリングなものに仕立て上げているのだろう。そのことは1カットごとに伝わってくる。つまりそれは、山本による熱海の思い出と考察…まるで『フェリーニのローマ』じゃないか！

■諏訪敦彦（映画監督）
観光地は、主人公のカップルたちを彼らの世界から切り離し、互いの存在へと向かいあわせる舞台である。同時に、観光というもう一つのフィクションが働く書き割りであり、彫刻や、山崎の傷や、地元の人々といった映画の外部世界の現実と物語を出会わせる装置となっているという点で、これは超現代版の「イタリア旅行」であると言えるかもしれない。眠りという宙吊りの場所で、危機を回避しつつ、彼女は「なぜ他の人ではなく、この人であるのか？」という深い問いを増殖させ、男はさして何もすることがない無為の時間の中で、必要のない未来の算段で時間を潰してゆく。一見無為な時間がただ過ぎていくかに見えるイメージの背後で、深い溝が広がってゆく演出は見事だ。目の前の不機嫌を取り繕うだけの男の謝罪などもはや届かない。二人が、さまよい込んでゆく森が、いつのまにか詩的な空間にダイナミックにねじれる変換にも、堂々とした映画構成の手さばきを感じる。神のいない世界で「イタリア旅行」の奇跡は起きるのだろうか？

■坂元裕二（脚本家「カルテット」など）
熱海が擬人化されている。山崎陽平は脚本を勉強するために入学してきたのに町を演じる俳優として花ひらいてしまって、わたしは声をあげて泣きました。

『小さな声で囁いて』
3月16日（土）より劇場ポレポレ東中野にて2週間レイトショー
監督・脚本：山本英
脚本：山崎陽平
出演：大場みなみ　飯田芳　山崎陽平　中野目理恵　小倉一郎　レイ・アルフォンソ正田　熱海釜山レイ　正木凪碧　正木碧

【ストーリー】　結婚を考え始めた遼に対し、乗り気じゃない沙良。互いの溝を埋めようとした3泊4日の熱海旅行でも二人の心はすれ違う。漠然とした将来への不安から未来像を描けない男と女。それぞれの「愛」と「I」の行方。

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