【全起こし】東京国際映画祭『キングコング対ゴジラ』4Kリマスター上映 中野昭慶特技監督×町山智浩トークショー

img_9861
(左から)笠井信輔(MC)、中野昭慶、町山智浩

笠井:今回の『キングコング対ゴジラ』[4Kデジタルリマスター版]上映は、日本映画専門チャンネル プレゼンツという冠がついてるんですけれども、この夏の『シン・ゴジラ』の公開を記念しまして、日本映画専門チャンネル主導のもと、関係各社の協力により実現した修復版ということになります。ゴジラ・ファンにとっても本当に長年の悲願とも言えるものでして、改めて今回の4K化に携わった関係者の皆様に感謝したいと思います。それではトークセッションを始めさせていただきます。今日は本当に素敵なゲストをお招きしております。皆さんと一緒に作品を楽しんでいただきました。どうぞ前にいらして下さい。「ゴジラ」シリーズの特技監督としてお馴染み、54年前の『キングコング対ゴジラ』には特撮スタッフとして参加されていました、中野昭慶さん。そして最近、大活躍の映画評論家・町山智浩さんです。どうぞお上がりください。

ひと言ずつご挨拶いただきたいと思います。まずは、もはやレジェンドと言っていいと思います。中野特技監督です。よろしくお願いします。

中野:どうも初めまして。我々映画の作り手っていうのは、たった1回しか素晴らしい映像を見ることができない。つまり完成試写、これを我々は0号と呼ぶんですけれども、そのときにですね、初めて全体の綺麗な映像を見るわけなんですね。その感激というのは、ものすごいものがあるんですけれども、僕は今回このリマスター版を観て、まさにその時の感激を、50年前の感激を味わわせてもらいました。本当に素晴らしい一瞬でした。

笠井:ありがとうございます。そして町山さんお願いします。

町山:僕は1962年生まれでこの映画と同い年なんですね。生まれて初めて劇場で観た怪獣映画が、東宝チャンピオンまつりの短縮版だったんですよ、『キングコング対ゴジラ』の。その時にすでに60分くらいカットされていまして、カットしたフィルムはどこかにずっと行っていたんですね。それが初上映から54年ぶりに、今回初めて修復されて、54年って僕の歳なんですよ。だから非常に感慨深いものがあります。

笠井:ありがとうございます。ではお話を伺いましょう。今回の日本映画クラシックスの上映会は、日本映画の素晴らしさを若い世代に伝えようということで、4K版の修復作業などが行なわれまして上映しているわけなんですけれども、まずは、ご覧いただきました感想をいただきました。場内の方々にも聞いてみましょう。『キングコング対ゴジラ』を劇場で初めてご覧になった方、手を挙げてください。

中野さん、ほとんどですよ。だから感動していると思うんですよ。すごい綺麗でしたよね?

中野:本当にそうですね。つくった時のまんまという。つまり我々は先ほど申し上げたように、つくりたてのホヤホヤをいわゆる0号試写で観るんですけどね、フィルムの世界っていうのは、それから日が経つにつれてどんどん、どんどん劣化していくんですね。汚れが目立ち、皆さんご存知だと思いますけど、“スクリーンに雨が降る”という(フィルムが)傷だらけで。我々の手を離れた途端にただ劣化の一途というかね、もう本当に汚くなってしまって非常に悲しい運命をたどるというのがあるんですね。

笠井:このリマスター版によって、町山さん、すべての劇場で上映できるようになったんですよね。

町山:はい。昔、修復したバージョンというのがレーザーディスクで出たことがありまして、それは16ミリかなんかのポジフィルムを発見してそれを無理矢理つないだもので、すごい画質の悪い傷だらけのやつだったんですよ。こんなに綺麗なものが発見されて、劇場で観られるなんて夢のようですね。

笠井:そうですよね。そこでですね、中野さんは54年前のこの作品に制作スタッフとして参加されていたということなんですが、お立場は?

中野:助監督でして、助監の1年生でね。

笠井:1年生!そうですか。

中野:どういうわけか、その前にいろいろ苦労した結果なのか、円谷(英二)さんに「是非、お前来てくれ」ということで就いた作品ですね。

笠井:そうですか。ゴジラとしては当時『ゴジラの逆襲』から7年ぶりに復活して、キングコングと戦うということでスタッフの皆さんのムードはどうでした?

中野:ゴジラというのはご存知のとおり、第1作の『ゴジラ』というのがあって、そのあと『ゴジラの逆襲』っていうのが出るんですが、これがどういうわけかあまり成績がよくないということで、それ以降ずっとゴジラはつくられずにきたわけです。スタッフにしてみれば一生懸命やった結果なんで、またなんとかやりたいと、皆が思っていた時にこの話が舞い込んだんですね。これはまぁスタッフ全員のやる気というか、その気で頑張ったのがこの作品だと思いますね。

笠井:これ町山さん、そもそもアメリカのほうから企画が流れてきたんですってね?

町山:もともと“キングコング”を最初につくった(特殊効果クリエイター)ウィリス・オブライエンという人が企画していたものなんですよ。それは人造人間とキングコングが戦う、“キングコング対プロメテウス”だったんですが、製作費とか集まらなくて企画だけが流れ流れていって東宝に流れたんですよね。そこから『フランケンシュタイン対地底怪獣(フランケンシュタインタイバラゴン)』とかも同じ企画書から発生してるんですよ。

笠井:うゎーそうなんですか。

町山:『キングコング対ゴジラ』は、最初から全世界公開の予定ですよね?

中野:そうです。これは東宝の森岩雄さんの念願というか、どうしても世界に売れる映画をつくりたいというところに、キングコングという絶好の当時の世界的なスターがね。

笠井:このキングコング戦で“ゴジラ対なんとか”っていう戦いの構図の「ゴジラ」シリーズが確立したと言っていいわけですね?

中野:いいですね。まさにこの(脚)本の関沢(新一)さんの功績だと思いますね。

笠井:なんで“ゴジラ対キングコング”じゃないんでしょうか。日韓戦と韓日戦じゃやっぱり日韓戦なんですよね。

中野:そうですね、、

町山:キングコングのギャラが確かすごく莫大な金額だったんですよね?当時。

中野:という話を聞いていますけど、どうもあまりよく知らないんですけども。

町山:当時は、あれですよね、ベビーフェイスっていうか善玉のほうの名前が頭のほうにくる。『モスラ対ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』となっているんですよ。

笠井:やっぱりそういう感じなんですかね。中野さん、日米決戦ですから、絶対に負けられない戦いというなかで、最初はゴジラが勝つストーリーだったという話を聞いたことあるんですけれども。

中野:はいはい、そうです。

笠井:痛み分けみたいな結果になってますけど。

中野:これはきっとね、製作陣の思い入れがあったんだと思うんですが、このあと続くといいねというね。そういう思いを込めたラストシーンなんですね。だから結末はあえて出さなかったという。それで実は、このパターンがずーっと以降最近のご出演になった作品(笠井は『ゴジラ×メカゴジラ』(’02)など4作に出演)まで続くという結果になるんですけどね。

笠井:日本人としては、きっとゴジラが勝ってくれるんだろうなというような、この時は思ったと思いますよね町山さん。

町山:これゴジラが勝ったら日本壊滅しますから、これはゴジラ負けないとまずいと思います(笑)。

笠井:確かにね(笑)。ゴジラの中に入っていた中島春雄さんは「勝ってる」ってインタビューで答えていて、なぜならば落ちた瞬間俺が上だったからっていう。

町山:あの人いつもそうで、モスラの時もそうですよね。モスラっていうのは電車みたいにして何人もの人が動かしてるんですけど、「モスラでは何人かのうちのひとりでしたね」って言うと、「いやでも先頭だったから俺は」っていう人なんで(笑)。

笠井:スーツアクターとしてのプライドがあるんでしょうね。キングコングのほうには広瀬正一さんという方が初めて入ったと。なかなかお上手でしたけれども。

中野:東宝の大部屋の俳優さんなんですけどね、このとき実はね中島春ちゃんが、実はキングコングやる予定だったんですよ。

笠井:あ、実は中島さんのほうがキングコングをやるはずだったんですか。

中野:で、“中島春雄キングコング”でやろうとしてスタートしたんですけども、どうも動きが基本ゴジラなんですね。それで円谷さん以下スタッフ悩んじゃいましてね、じゃあこの際入れ替わってもらおうっていうんで、ゴジラに入る予定だった広瀬さん、通称ソロモンっていうんですけどね。

町山:ソロモン島からキングコング来ますよね。

中野:その辺が語呂合わせになったかどうかは別にして、ということで入れ替わったという。

笠井:普段から猿っぽい人だったっていう伝説がありましたけども。

中野:そう言われてみたら、それ僕の口から言うとあれだけれども、とにかく朝の挨拶から猿っぽかったですね。言われてみれば。

笠井:町山さんは、“キンゴジ”のどこが好きですか?

町山:僕はとにかく最初に劇場で観た怪獣映画なんですけれども、コメディっていうところですよね。

笠井:そう!

町山:それと大企業が宣伝のために怪獣に日本で戦争させるってそれ、法律とかどうなってるんだって思いますけど、このアイデアはすごいと思いますね。

笠井:確かにTVが2、3年前に一斉に放送を始めてまだ黎明期の頃にもう視聴率だ広告だってことが、かなりしっかりと織り込まれておりまして、まぁなんといっても有島一郎さんですよね。キングコング対ゴジラ対有島一郎みたいな。そういう映画になってますよね。

中野:やっぱり喜劇ということを理解してる人なんですよね。それが全編に出てたと思います。

笠井:僕は劇場で初めて観たんですよ。僕は(『キングコング対ゴジラ』の)ひとつ年下なんで。1年あとに生まれたんですけど、結構皆笑って観てるんですよね。有島さんもそうですけど、キングコングのところで結構笑いが起きてて、ここで皆と観てて、あ、この映画って笑えるんだっていうのが発見でしたけれども。

中野:それはね、海外でもそうだったらしいですよ。

笠井:そうですか。なんかフラフラしているんですよキングコング。フラフラ、ほにゃ~と。僕すごく疑問があってキングコングが最初にゴジラと戦った時にはすごい手が長いんですよ。でも東京に上陸すると短くなってるんですよ。あれはどういうことなんでしょうか。

中野:これね、あまりその辺、突かないでほしい。

(場内爆笑)

笠井:もう54年経ってるからいいじゃないですか(笑)。大きなスクリーンで観てると余計に気になるんですよ。

中野:ご存知、猿は手が長いんですよ。だからロング(ショット)は長い手でいこうと、それで寄りでクローズアップになった時には、素手のほうが動きやすいと、いうことで人間サイズのあの短さになるわけですね。これを取り換えるタイミングがね、「どこで換えようか」「ここじゃまずいだろ」「そうか」なんて言いながら最後までどれが良かったのか分からずじまいっていうのがスタッフの本音なんですね。

笠井:そうですか。私の本音は、どこで換えてもまずいだろうというね。でも町山さん、あの長い手はいいですよね?

町山:あれマジックハンドみたいになってるんですか?

中野:まぁマジックハンドっていうかそうですね。こう手元でレバーみたいなのを操作して。

町山:あぁワイヤーみたいなのがつながってて。

中野:これね、今、街のなんでも屋さんで売ってる、遠くの物を取る、先が動いて、

町山:はいありますね。

中野:あれのちょっと精密なやつです。あれは(手としては)いいんですけども、持ってる本人が横棒を持ってるんでね、上下の場合は動いちゃうんですよ。殴るアクションの時は手が反っちゃうんですね。失敗だってなって、じゃあどうしようかっていうんで、中島春ちゃんと(広瀬さんの)協議の結果、じゃ殴るのを少し斜めにもっていこうと、じゃあその時俺が受けるから、ひっくり返れみたいなね。そういう打ち合わせをしながら撮影したのをちょっと思い出しました。

笠井:そうですか。あとコングの毛の質感がかなりリアルな感じでしたが。

中野:リアルって言いますと?

笠井:いや本物っぽくて。

町山:生物感がすごくある。

笠井:本物の毛皮みたいな感じがしたんですけれども。

中野:あれは本当の毛皮ではないですけれども、あれ実はサボテンの表面っていうんですかね、そこに付いてる毛を利用して、体に直接生えているのは完全なナイロン製です。

笠井:特撮が長い時間豊富に入っている作品だと思うんですが、中野さんは特撮の何か思い出みたいなのはありますか?

中野:実は円谷さんは、ここに登場するタコへの思いが強いんですよ。皆さんここではタコのほうは忘れた感じでお話が進んでたんですけど、円谷さんの頭の中にはこのタコがあったんですよ。

笠井:つまり本物のタコを使って撮影すると。

中野:本物のタコというよりも、タコへのこだわりですね。

笠井:あ、タコへのこだわり。

中野:それはどういうことかというと、(タコは)円谷さんが映画の主人公にとずーっと考えていて、プロデューサーの森さんがそれを聞きつけまして、じゃあそれいきましょう!と。その映画はゴジラでもなんでもなくてタコだったんですけど。

町山:海外では非常にあのタコが人気だったんですよね。

笠井:本物を使ってミニチュアを壊させるっていのは、なかなかこれ大変な技だと思うんですけど。

中野:だからその辺がね、円谷さんの執念というかね、昔からやりたいのをやっとできるようになったという、だから円谷さんにしてみればねキングコングよりもゴジラよりもむしろタコなんですよ。だからあのタコを撮影するのは大変だったんだけれども、伊豆の岬で漁師さんからタコを生け簀ごと買いまして。

笠井:何匹くらい?

中野:おそらく4、50匹。

笠井:そんなに?

中野:それをですね、東京まで持ってくると弱ってしまうので、とにかく円谷さんとしては生きているうちにやりたいんだ! ということで、生け簀のそばにセットをつくりまして。タコがフワ~って動いているカットがあるでしょ。あれ実は生け簀のそばに2畳ぐらいのセットをつくりまして、そこにタコを引っ張り出してきて置くわけです。ところがですね、タコっていうのは大変なんですよ。

笠井:そうですよね。

中野:これが動かない。どうやっても動かない。棒の先に針を付けて突いても何しても動かないんですよ。これ1日やったんだったかな。もう円谷さんも、「もうダメか、タコは」って言ってた時にスタッフのひとりが最後の手段をやってみようっていうんでピンライトを目に当てたんですよ。そしたら途端にぶわーってきちゃって。タコを動かすには叩いても、引っぱたいても、驚かしてもダメと。

町山:光を目に当てると。

中野:もう光でいい。それでやっとの思いで撮ったのがここに出てきた3カットか4カットなんです。

笠井:タコは終わったあとに何か生きづくりで食べたとか?

中野:そうなんですよ。

笠井:やっぱり!

中野:制作部という大変ケチなセクションがありましてね、せっかくだからもったいないって言うんでね、残りを全部泊まっていた旅館の板前さんに渡したんですね。そしたら板前さんが凝りに凝って、いわゆるタコづくしです。ナマから、焼きから、何から全部つくって、これを2日間食わされたんですよ。

(場内爆笑)

笠井:預ければそうなりますよね(笑)。生け簀ごと買ってるから。

中野:だから僕、いまだにタコ嫌いです。

笠井:それで有島さん“タコ部長”なんですかね?

中野:さぁその辺はどうなんですかね。ただ円谷さんはタコというこだわりをずーっと打ち合わせのときからやってましたから。

笠井:町山さんは、“キンゴジ”でどの特撮が好きですか?

町山:僕はですね原住民の女性の非常に美しい特撮が、子供の頃にショックを受けまして、根岸明美さんというダンサー出身の女優さんですね。『獣人雪男』とかジョセフ・フォン・スタンバーグ監督の『アナタハン』でもヒロインをやっている人ですけど。

笠井:『獣人雪男』は観られないじゃないですか、今。

町山:観られないですよ!

笠井:封印されているから。まぁそんな綺麗な方いますね。

町山:ひとりだけもう綺麗な方がいて、あれが僕は結構ドキっときましたけど。

笠井:全然特撮じゃないじゃないですか!

中野:でも原住民のモブシーンというのはいわゆる特撮なんです。

笠井:え?人がたくさんいるじゃないんですか?

中野:たくさんいるやつもそうですし。

町山:えっ!?

笠井:あ、増やしてるんですか?合成で。

中野:増やしてもいるし、背景のあるカットですね。

町山:あれマットですか?

笠井:マットペイントで人を増やしてるんですか?

中野:いや当時はそんなことできないんです。ダブルエクスポージャーといって

町山:二重露光ですね。

中野:二重露光を5回くらい繰り返して。

町山:えー、じゃ実は少ししか(人が)いないんですか?

中野:いやそんなこともないけど基本はね。ある人から後ろっていうのは合成で足してるんです。

町山:それスゴイ。わからないですよね。

笠井:今、ちょっと指示がきたんですけども、大変なことにそろそろ終わってくださいと。

町山:えっ!? 今始まったような

笠井:終われないですよね。(観客に向って)もうちょっと続けてもいいですか?

(場内拍手)

笠井:お2人とも時間大丈夫ですか? そうしたらですね最初にフォトセッションを行ないます。カメラマンの皆さんは都合がありますので、フォトセッションを行なった後に延長戦に入りたいと思います。

(フォトセッション中)

町山:すごく気になったのが東北本線のシーンでわざわざミニチュアを使ってますよね? 本物を撮ればいいのに。円谷さんの映画ではわざわざミニチュアで撮るのが多いですよね。

中野:そうですね。

町山:あれ製作のほうは本物で撮れよとか言わないんですか?

中野:それは一切ないですね。

町山:そうですか。

笠井:では、いったんマイクをお預かりします。
img_9864
(フォトセッション終了)

笠井:それでは延長戦に入ります。

町山:(当時)27歳くらいってことですよね?

中野:逆算するとそういうことかな。僕はね、大学を出て昭和34年に東宝に入ってるんですね。

笠井:監督、今おいくつですか?

中野: あのー、どのくらいだと思います? 計算の得意な方はわかってらっしゃるかと思いますが。

笠井:私は70代だと思っておりましたけれども。

中野:エヘヘ、またまたまた、アナウンサーのお世辞。81です。

笠井:すごいことですよ。

(場内拍手)

笠井:拍手が出ますよね。だからもう生き字引でいらっしゃいますし、お言葉お言葉が貴重ですよね。昔のことをご存知だということで。

中野:そうですね。だから当時のことを知っている人が段々少なくなってきましたよね。「何か聞きたいことがあったら今のうちですよ」って会う方には言っています。

町山:質問したいことがあるんですけど、『キングコング対ゴジラ』で一番すごいと思ったのは、キングコングをファロ島からイカダで連れていくシーンなんですよね。あれ元々の『キングコング』にはないんですよ。どうやって連れてきたかまったくわからないんですよ、NYまでキングコングを。この前のピーター・ジャクソン版にもないんですよ。どうやってNYまでキングコングを連れてきたのか。だってちっちゃい船しかないんですよ。ごまかしてるんですよ。それはまぁいろんな方法があるよみたいな。円谷英二監督がすごいのは、ちゃんと見せようっていって見せてるんですよね。あれはアイデアとかはどの辺で。イカダでっていうのは。

中野:あれはね、たぶん円谷さんだと思いますよ。この脚本を書いた関沢さんというシナリオライターもライターにしては物好きな人でね、この手の物が大好きおじさんなんですよ。それでああしろ、こうしろと。最初、関沢さんは「転がしてもってこようよ」って言ってたんです。

笠井:転がして?

中野:「海はどうするんだ?」って言ったら「南極に持って行って転がせばいいじゃねぇか」って。「辛うじて転がして来たぞっていうところに面白みがあるんじゃない?」ということで、そんなふうな話が出たところで、円谷さんが「バカ言うな。そんなことやったら5、6年撮影にかかるよ」と。そうやっていろんなアイデアを丁々発止とやった作品なんですね。

笠井:そういう意味では、イカダから落ちて水中から出るシーンがありましたけれども、ああいうのも撮影としては危険じゃないかなと思うんですよ。ゴジラ以上に水中に潜るコングって危険な感じがするんですよね。

中野:コングもそうだしゴジラもそうです。ゴジラに入った中島さんはかつて海軍の軍人だったんです。水の中は得意中の得意で、水は俺に任せろと。普通の人じゃできないだろっていうのをボンベなしで。

町山:あのシーン、ボンベなしなんですか?

中野:なしでもやるんですね。もちろん撮影の長いやつはボンベ付けますけど、だからそういう特技があったんです。

笠井:先ほど町山さんから特急つがるでしたっけ?

町山:そう、東北本線をわざわざミニチュアで走らせて、そういうのって何で円谷監督はやるんですかね? 結構ほかの映画でもこれ普通に実写で撮ればいいのにって。

笠井:それは穴掘るところの、あそこは普通に石切り場でダンプ走らせればいいところを。

町山:クレーンとかミニチュアでやってるんですよね、「サンダーバード」みたいに。すごいですよね。

中野:あれはやっぱり特撮マンというかトリックマンというか、どうしてもミニチュアをつくってやるという、こだわりなんですよね。

笠井:円谷さん「サンダーバード」大好きでしたから、やっぱりそういうことをやろうというのはあったのかもしれませんよね。ああいうところ、実は僕好きなんですよ。“はたらくくるま”のシーンって。結構好きで。もう一方でドラマ部分の話にいきますと、浜美枝さんと若林映子さんという大変魅力的な女優さんが。で、中野さんはドラマ班と特撮班、どちらのほうの仕事だったんですか?

中野:その時の状況でどっちもやってますね。浜君が電車に乗ってずり落ちるシーンがありますが、あの辺は全部特撮で。

笠井:あの叫び声は、あれ浜さん?

中野:そうです。

笠井:ずーっと叫んでますけども、ちょっと頭がおかしくなったかなーっていうぐらいギャーギャーって言ってるんですけども。

中野:あれはね、現場で叫んでもらって“オンリー” (セリフや効果音など音のみを録音する事)という言い方をするんですけども、「『助けて』って私はなんで『助けて』と言ってるの?」って、「それはようわからんけど、怪物の手に捕まってるから、そこに捕まってるのがイヤだわーイヤだわーって怒鳴ってくれ」みたいな。

笠井:ただコングの手は実物大があったと聞きましたが。

中野:実物大をつくりました。

町山:スチールが残ってますよね。巨大なコングの手に浜美枝さんが乗ってる。

笠井:結局、浜さんも若林さんもそのあと「007」(『007は二度死ぬ』)のボンドガールになりましたよね。

町山:『キングコング対ゴジラ』は海外で当たったんで、これを見てあの女の子2人使いたいってことで「007」でボンドガールに。

笠井:それはお二方とも喜んだんじゃありません?

中野:そうですね。それも喜んだし、浜美枝っていう女優は根性のある女優なんですよね。実は簡単なように見えるけれども、電車からズルズルとずり落ちるところ、あの時ね、もう1回ってなって「うん、わかった」ってやっと撮れてOKってなったんですが、スカート少しめくったところから血が出てたんですね。

町山&笠井:えー。

中野:ドアの角で体を擦りつけてギューって落ちてるから。

町山:切っちゃったんですね。

中野:それをね本番中は痛いって言わないんですよね。普通だったら「痛い!やめて」って話になるのに。だからこれはすごい女優になるぞと思ったら案の定という。それとね、これは後で向こうのプロデューサーに聞いたら、やっぱりあのカットでのあの芝居を観てどうしても出てもらいたいと思ったっていうことを言ってましたね。

笠井:そうなんですか。町山さんね、特撮の現場では、ドラマ班と特撮班があってなかなか相容れないという話もよく聞くじゃないですか? 実際にこの現場はどうでした? 実写班と特撮班でつばぜり合いがあったもんなんですか?

中野:いや、それやったら映画はできないですよ。東宝の場合は。幸か不幸か、特撮をやっているスタッフっていうのは特撮そのものが大好きなんですね。だから夢中になってやってる。

笠井:寝ずにやってるって聞きますもんね。

中野:本編を撮ってる本多(猪四郎)監督っていうのは、円谷さんのカットを見て僕もこういうのを撮ろうというつくり方をする人なんですよ。つまり特撮を生かした演出もうまい人なんですよね。

笠井:この映画で本多監督ケガしませんでした?

中野:はい、あれは何の撮影かな。断崖の撮影の時に被写体が落ちればいいのに監督が落ちちゃったんです。

笠井:ダーっと。キングコングがダーンと当たったみたいに滑落したわけですね。

中野:撮影中にね。足を滑らして。1週間くらい車いすで来てましたよ。娘さんに押されてね。それともうひとつ、本多さんっていうのは山が大好きなんですよ。だから谷口千吉という人が撮った『銀嶺の果て』っていうのがあって、全部、彼に指図したのは本多さんなんです。山男として。

町山:山岳アクション映画ですね『銀嶺の果て』は。本多監督っていつも登山帽を被ってらっしゃいましたよね?

中野:帽子の印象はあんまりないんだけど、登山帽というのは昔の活動屋のスタイルなんですよ。登山帽は多かったし、キャップでもツバの短いキャップがあるんですね。ある種、監督のお洒落なんですけどね。

町山:昔、ニッカボッカ履いてましたよね。登山用の服をなんで映画監督が着てるんだろうと思いましたけど。スタイルだったんですね昔の。

img_9847

笠井:特撮となりますと一発ドンで失敗が許されない、たださっきも言ったように手の操舵が難しいとかいろいろあると、結構うまくいかなくてどうするんだってこともあったんじゃありません?この撮影では。

中野:そりゃも現場ではしょっちゅうですよ。特に最後の熱海城のところで決闘するシーンがあるでしょ。こっちのアクションがお城を壊すっていう設定になってるんで、このアクションがマッチしないと。

町山:壊れる城のカットとつながらないわけですね。

中野:美術が苦労して殴られたら壊れるという設定にするんだけどもこれがタイミングが合わなくてドーンっていってから少し間があって壊れるとかね、そういうこがあってね。

笠井:つくり直すわけにいきませんよね。

中野:いきませんよ。だからその部分だけを補修して。だから1カット撮るのに3日くらいかかってるんです。

町山:そうなんですか!?

笠井:結構大変なんですねー。

中野:さっき落ちた時(中野が)「俺が上だ」っていう話がありましたよね? あれもね、2人でとっ組んでもらって落ちるんだけど、ゴジラのほうは尻尾があるんで、尻尾が先にいっちゃうもんだからどうしてもキングのほうが上になるんですね。

町山:あ、重いから回転しちゃうんですね。

中野:もうひとつ、今度はキングコングは手を人間の手でやってるから、ゴジラを捕まえて組み合ったらいかにも人間同士がやってるかたちになっちゃうんですよ。だからなかなかうまくいかないっていう。最後はゴジラの尻尾を後ろで持ち上げてそれであれになったわけです。

町山:あ、その時は中野監督が持ち上げたんですか?

中野:そうです。それでゴジラが上でドーンと。

町山:ゴジラが出てくるシーンは東宝プロで撮られたんですか?

中野:そうです。

町山:でもあれすごく上からヘリコプターの視線で撮ってるような動きをしますよね。

中野:あれはしょっちゅうやります。

町山:あれはかなり高いですよね。ゴジラは着ぐるみですもんね。

笠井:クレーンかなんかで撮ったんですか?

中野:あれはね、どう言えばいいんだろう。プールがあって、高い壁があるんですね。(逆側に)柱をつくって壁の上から線を張るんです。ピアノ線を張って吊ってるんです。

町山:だから浮遊感があるんですね。

笠井:オリンピックの時と一緒だ。

中野:あの頃に、今有名なドローンですか? があってくれればあんな苦労しなくて済んだんですね。

町山:クレーンにしてはふわふわしてるからカメラが。吊ってるんですねカメラを。

中野:あれはですね、飛行機のカットには必ず使うんです。

町山:あ、ふわふわ感を出すために。

中野:そうそう。だから特撮にしてみればそう珍しいことではない。

町山:そうなんですか。

笠井:そこでね、町山さん、これからの話なんですけども、ハリウッドでキングコングVSゴジラの製作が決定したという一報が届きました。すごいですね。

(場内拍手)

町山:すごいですよ。もうすぐキングコングの映画(『キングコング:髑髏島の巨神』)が公開されるんですけど、キングコングが100mくらいになるらしいですよ。

笠井:だってゴジラに合わせないといけないですからね。どんどん巨大化してますよね。建物も大きくなってるんで、大きくなるんでしょうけれども。そうしたら、モスラもラドンもキングギドラも(ワーナーが)版権買ってるんですってね。これ何か匂いませんか? これ私ね、ワーナーは怪獣アベンジャーズをやろうとしているんではないかと思うんですよ。

町山:永遠とつくり続けるんですね?

笠井:(新しい)キングコングVSゴジラはこないだの『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』と同じ位置づけなんじゃないかなと。そうすると今度はタッグを組む方向に行くんじゃないかなと。そこにひとつひとつまた入ってきてっていう、チャンピオンまつりの再来をハリウッドはやろうとしてるんじゃないかなと。

中野:なるほどね。考えられますね。ただねそれが考えられるのは、デジタル時代、実物にこだわらなくても、どうでもできるから。今度の『シン・ゴジラ』なんかもね。

笠井:お聞きしたかったんですけど、『シン・ゴジラ』いかがでした?

中野:あれはやっぱりデジタル時代のゴジラですね。あの『キングコング対ゴジラ』の時代は終わったなという。

笠井:変形に関しては、焦りませんでした? ゴジラの形が変わっていくじゃないですか。

中野:焦るというかあれは今だからできるんですね。

町山:でも中野(特技)監督の『ゴジラ対ヘドラ』のヘドラは第1形態、第2形態、第3形態になりますからね。たぶんあれが基なんですよ。

笠井:あぁそこから着想を得て。

中野:昔やりましたね。

町山:僕、本当に『ゴジラ対ヘドラ』大好きなんですよ。

笠井:多いですよ。めざましテレビの軽部アナウンサーも『ゴジラ対ヘドラ』一番好きなんですよ。

町山:あ、高校同じなんですよ。学年も同じなんです(笑)。

中野:『ゴジラ対ヘドラ』はですね、日本で封切った時はボロクソに言われたんですよ。いわゆる有識者って言われる人にね。

笠井:グロテスクすぎると。

中野:ボロッボロに言われたんですけど、それがどういうわけだか、NYタイムズが「世界映画ワースト10」っていうのをやったんですね。過去に登場した映画からワースト10を選んだんです。そのうちの1本に入ってます。そしたらその辺から火が付いたみたいで。

町山:今、カルトムービーですよアメリカでは。

笠井:そういう意味では、4Kで復活してこうやってやるなかで、ハリウッドでももっとつくりたいという気持ちがあって、ゴジラは続いていきますね監督。

町山:坂野(義光)監督がどんどんお金持ちになっちゃう気がして怖いんですけど(笑)。

中野:これ残念ながらね、監督側にまったく入らないんですね。

町山:いや坂野さんはエグゼクティブ・プロデューサーなんですよ『GODZILLA ゴジラ』の。

中野:それができればね。でも彼がプロデュースしなくてもゴジラは簡単にCGでつくれる時代ですから。中身もいらないし、セットも、何もいらないっていうなかでつくれる時代ですからね。これから次の人がどういうかたちでどういうものをつくるのかこれはやっぱり楽しみですね。

町山:本物の火薬を爆発させて、どういうふうに爆発するか分からない面白さっていうのはあるでしょやっぱり。

笠井:“爆破の中野”としては。

中野:えぇ、それはいかに誤魔化すかなんですけどね。あれは編集しだいでどうにでもなるんですけど。

町山:『日本沈没』とか『東京湾炎上』とかの爆破が大好きで!

笠井:『東京湾炎上』観に行きましたもんね。まちえいローズという地元の映画館に。

町山:そんな具体的な(笑)。

笠井:いろいろとお話しいただきまして、時間のほうも一杯いっぱいで次の上映が始まってしまいますんで、こないだ木村監督は「映画を飛ばせ!」って言ってましたけども、さすがにそういうわけにはいきませんので、ではお立ちいただけますか。では町山さんひと言お願いします。

町山:本当に、これ54年ぶりのスクリーンでの復活で歴史的な瞬間なんで、皆さんおいでいただきありがとうございます。生き証人である中野監督に、皆さん盛大な拍手を!

笠井:中野さん最後にひと言お願いします。

中野:先ほど申し上げましたけど、アナログ時代は終わったのかなというのもあるんですが、我々が取り組んでたかつてのアナログ映画でも、映画を面白くする極意は“粘り”と“頑張り”だと思うんですね。それは“こだわり”と“粘り”と言い換えますけども、どこまでこだわって、どこまで粘って撮れるかっていうのが僕は映画だと思うんですね。だからこれからの若い人もこれからデジタル時代に入るわけですけど、デジタル時代でも作り手の基礎はこの“粘り”と“こだわり”じゃないかなと。その辺をもっと粘って、こだわって、それで今の感性でおじさんを喜ばす映画をつくってもらいたいと思います。

笠井:ありがとうございました! 大きな拍手でお見送りください。

2016年11月1日 EX THEATER ROPPONGI(第29回東京国際映画祭)

上映前には主演の高島忠夫からのコメントも紹介された。

「ご来場の皆様、こんばんは! 高島忠夫です。本日は『キングコング対ゴジラ』の4Kデジタルリマスター版の上映おめでとうございます。1962年に公開されたこの作品。当時、私は32歳でした。もう50年以上前のことですが昨日のことのように思い出されます。

撮影で特に印象に残っているのは、ゴジラを見る目線を合わせるのが大変だった事です。本多監督から“この辺を見て下さい”と指示されるのですが、具体的にどこを見たらいいのかわからず苦労しましたね。見上げても、実際にゴジラは居ない訳ですから(笑)

では、そろそろ時間ですね。鮮やかに蘇った『キングコング対ゴジラ』を皆様お楽しみ下さい」

12月に、日本映画専門チャンネルで放送予定(2Kダウンコンバート版)
www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10006490_0001.html