【全起こし】黒沢清、夏帆と染谷将太のハイレベルな鬼気迫る演技を絶賛!ドラマ「予兆 散歩する侵略者」完成披露イベント全文掲載

八雲:夏帆さんはどうでした? 最初のセットに足を踏み入れて。

夏帆:すごい気持ちのいい場所だなって。春の時期に撮ってたんですが、家の真ん中にベランダがあって、窓が開いててちょうど気持ちいい風が入るんですよね。カーテンが揺れてそのカーテンが揺れる感じもすごく素敵で光もきれいで、その中でお芝居をするということが印象深かったですね。

松崎:揺れるカーテンって黒沢清作品にいっぱい出てくるんですけど、今回黒沢さんカーテンで気を使ったこととか、ミラクルなこととかあったんですか?

黒沢:今、夏帆さんが仰った通りで、窓がたくさんあったということもあったんですけど、当たり前ですよね。普通の家ですから当然カーテンはあるんですが、うまく風が吹いてくれるんです。ですからこの後2話3話と観ていただいたら結構出てくると思うんですが、カーテンが本当にうまく揺れてくれて、ほぼすべて自然の風です。第5話くらい、最後のほうには奇跡的なカーテンの芝居もあるんですが、偶然そうなったんです。それは楽しいですね。スタジオの中のセットですと、こうはいかない。風を吹かすとなったら扇風機で決めたように吹かせることはできるんですけど、こっちが決めたようにしかならない。今回は自然な形で誰も予想できない。時には芝居を邪魔したり、芝居を助けてくれたり、カメラと俳優の間に割り込んだり、カーテンが即興的に参加してくれて、これが映画を撮っている実感を持つ瞬間なんですよね。

松崎:画面の中のノイズっていうんですかね。本来は動いているものはなくていいのに動いていることによって映像が芳醇になるっていうことは黒沢さんの映画の特徴の一つだと思うんですけど、例えば染谷さんと夏帆さんから見て、今回のセットで変だったんじゃないかなってこととかって。僕はね、観た中で洗濯の竿が部屋の中になかったでしたっけ。

染谷:あれはあれなんですよね。ベランダが特徴的で、ベランダであるようで、なんていうんですかね。

八雲:サンルームのような。

染谷:それです。

松崎:屋内?

染谷:屋内なんです。なんで一応そこは表とされるので竿は置いてあるんですけど、中といえば中っていう。

八雲:ちょっと違和感のある作りというか。

染谷:変といえば、いろいろな場所が出てきますけど、いい意味で変なところはたくさん出てきますよね。

八雲:それはお芝居をしていても。

染谷:自分は大好物。現場につくとニヤニヤしちゃったんですけど。

八雲:夏帆さん何かありました?

夏帆:不思議と現場に行くと気にならないっていうのはありますよね。確かに変だったなって今、あのベランダっていうかサンルームっていうか変だったなって。部屋も区切られているわけじゃなくて、棚で区切られていたり、基本ワンルームでキッチンがあってみたいな独特な作りだなとは思っていたんですけど、実際現場に行くと気にならないですね。

八雲:こういうところなんだって感じなんですかね?

夏帆:そうですね。

松崎:僕がこのドラマの中で一番変だなって感じたシーンがですね、夏帆さんが待っている時に後ろで自動ドアが勝手に開くんですよ。あのシーンって何秒開いて入ってこなかったら変って監督は考えているのかなって、3秒なのか4秒なのか、あのタイミングって誰が決めているんですか?

黒沢:あれは多分東出さんが決めていると思うんですが、よく覚えているのは東出さんに「10秒待って出てきてください」って。だから東出さんは奥で10秒数えているんですよ。だから東出さんにとっての10秒。これほぼぴったりだった。これ俳優によってものすごく10秒が長い人と3秒ぐらいで10秒って数えちゃう人、いろいろいるんですが東出さんの10秒で来てると思います。

八雲:それは監督が思う10秒と同じでした?

黒沢:ええ。ほぼ同じでしたね。まず10秒って言ってやったら大体僕の思う10秒くらいだったので、あまり長いなって思ったら7秒くらいにしたり15秒くらいにして変えるんですけど、多分10秒って言ってそのままやってもらったと思います。10秒です。