【全起こし】『メッセージ』監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ来日! 「モデルにしたのは『ジョーズ』」「ゆっくり脱いでいくストリップのような映画」『ブレードランナー 2049』の現状報告も

テッド・チャンによる短編小説「あなたの人生の物語」を基にしたSF映画『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が来日! 本作に魅せられた『シン・ゴシラ』の樋口真嗣監督と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前田真宏監督とともに本作について語った。さらにヴィルヌーヴ監督の次回作『ブレードランナー 2049』のことも語る!? 以下はその全文。(ネタバレ注意!!)

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MC:皆さま本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。ただいまより5月19日より全国ロードショーとなります『メッセージ』のスペシャル会見を始めさせていただきます。それでは早速ドゥニ監督にご登場いただきます。よろしくお願い致します。日本の皆さんにひと言いただけますでしょうか。

ヴィルヌーヴ:来てくださいまして本当にありがとうございます。こういう形で『メッセージ』のお話をできることは僕にとってとても特別なことです。

MC:本日はドゥニ監督と、スペシャルゲストと致しまして、樋口真嗣監督、前田真宏監督もお呼びしております。よろしくお願い致します。樋口監督と前田監督はもうすでに『メッセージ』を見られていると思いますけど、まず監督にひと言感想を述べていただけますでしょうか。

前田:非常に詩的なSF映画でありまして、一見とても難しい作品に見えると思うんですけど、本当にハートにくる、頭をたたかれたと同時にハートにぐさっとくる非常に素晴らしい作品でした。

ヴィルヌーヴ:アリガトウ。

MC:樋口監督お願いします。

樋口:ポスターの印象からすると侵略者ものだったり、そういう誤解からスタートして、見た映画というのは本当なんていうか、SF映画って大きく分けて2つの流れがあるというか、ひつとは争って勝利するタイプと、探して見つけるタイプの映画の2つがあると思いますが、だいたい「スター・ウォーズ」と『未知との遭遇』という我々が中学生のときに見て影響を受けた映画はまさにその両極端だったんですけど、そのなかで言うとあきらかに『未知との遭遇』の流れに沿った映画だと思うんです。それがまた新しい21世紀という今の時代で、映画の文法を含めてすべてアップデートしている感じが本当に素晴らしいなと思いました。

MC:ありがとうございます。前田監督、樋口監督が準備されているという。

前田:そうなんです。真ちゃんがこの日のために素敵な映像を。

樋口:あ、ブルーレイ? 『ボーダーライン』のブルーレイが部屋にあるんですけど(笑)。

MC:樋口監督は、サインをもらおうと思ってブルーレイを持ってきていらっしゃるんですが、そうではなくて、特別映像のほうを見たいと思います。

MC:今、日本を代表する3監督が絶賛していたところを見ていただきましたが、私も拝見させていただいたんですが、前田監督のコメントにもありましたように現代を表わすようなというところと、SFなんですけども本当にヒューマンドラマとして訴えかけてくるところがあって、SFなのかそれともドラマなのか全部がですね飽和されているような素晴らしい作品だったと思っております。ここからはドゥニ監督、樋口監督、前田監督のお三方に、ではどこが大変だったのか?や実際にこだわったところを掘り下げていきたいと思っております。背景の文字の意味なども聞いていきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。
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MC:樋口監督、読めますか?
(代わりにヴィルヌーヴが)
ヴィルヌーヴ:地球。もうひとつは分かりません。

MC:まず、ドゥニ監督に今の映像を見られた感想を伺いたいんですが。

ヴィルヌーヴ:とても深く感動しました。非常に心を動かされたのは、2人を含めお三方が映像作家であること、そして映画が持っている強みというのは、国境や文化を超えて何か伝えられるということを分かってくださっていることです。そして自分とは違う国の方がこうやって自分の思いを伝えてくださったことにとても心を動かされました。とても素敵なお言葉ありがとうございます。映画作家が映画作家にとっていちばんタフな観客ですからね。

前田:これお話を説明してというタイプではなく、本当に(映像を)見ていただきたいですよね。

樋口:ひとりでも多くの人に見てもらいたいし、理解してもらいたいですね。特にものすごいタイミングで今回来日されていると思うんですけど。

前田:そうですね。

樋口:映画のなかと同じ場面が今。

前田:去年よりもむしろ今の方が。

樋口:そう、すごく今ですよね。戦争が起きようとしているこの時代に見てもらいたいですね。

ヴィルヌーヴ:そうですよね。対話、そして文化が持つ力についての映画でもありますので。そして謙虚さについての映画でもあると思っているんですね。もともとこの物語に惹かれた理由というのは、主人公たちは今の人類には残念ながら欠けていると思われる謙虚さを持ち合わせたうえでエイリアンと交流していくので。

樋口:こういう映画というのは大勢のお金を出す人たちがいると、ああしろ、こうしろって言われると思いますが。

ヴィルヌーヴ:配給はスタジオではあるんですが、製作、企画自体はかなりインディーズ系のやり方をしているんです。唯一言われたのが、中国が武力行使をしようと準備している段階で、基地の数であったり、飛行機の数であったり具体的な数字をいったん入れていましたが、それに対して中国はあまり具体的な数字を出すのは良しとしないので変えてくれないかというぐらいでしたね。正直なところエイリアンの造形については、ワイルドでグロテスクで何か言われるんじゃないかなと危惧していましたが、そうではなくて中国の軍基地のことでしたね(笑)。
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ヴィルヌーヴ:この作品をつくり上げることができたのは、この企画を心から愛して自分を守ってくれたプロデュサーたちがいたからだと思っています。そしてソニーさんもパラマウントさんも非常にオープンにほとんど干渉することなく作らせてくれました。ただスタジオの重役に最初に見せたとき反応が2つに分かれまして、大好きだ!という方とUFOみたいにまったく未知のものを見るように分からないとおっしゃる方もいました。

樋口:直せって言われなかったんですか?

ヴィルヌーヴ:なかったです。中国の基地の数以外は。物語が変わるわけではないので、どこかの誰かにとってそこまで重要な問題であるならば4という数字を変えようと数字をなくしました。

樋口:すごくストイックに作ってると思うんですよ、演出とか。その言い方で伝わりますかね。すごく我慢したこととかあったんじゃないかなって。そぎ落として捨てたり。

ヴィルヌーヴ:この作品は没入して見られるような作品にしたかったのと、(原作の)短編小説がそうであるように、ルイーズという女性の体験として彼女の視点から描くということを意識していました。個人的にいいなと思っていたのが、人類の歴史上最大の出来事を描いていながらもひとりの女性と親密な、私的な物語として描かれているところだったんです。ストイックということの答えになっているか分からないけれど、テンションを保つというのは心を砕いたところで、カメラマンと編集者とともに間をわざと引き延ばしたりだとか、いろんなことを工夫してみました。うまくいかなかったこともあるんですけど。

樋口:冒頭の、彼らがやって来るところのカットの選び方とか編集のタイミングとか、本当だったらもっと欲張っていろいろ見せちゃえってところを、ものすごくそこに詩的なものを感じました。

ヴィルヌーヴ:見えない方が怖いからそういう映像にしたんです。観客の想像力とはとてもパワフルなものですから。見えないものほど恐ろしいものはない。そして冒頭から何かを教える先生と何かを学ぶ者、師弟という構造を出すことを意識していました。皆さんきっと学校でつまらない授業を受けた経験があると思いますが、反復が多いです。“先生”と“生徒”という構造を先に出して、エイリアンとルイーズたちの間でも同じ構造が引き継がれる。けれども特に言語の学習は反復するものなのでテンションを作りにくいんですよね。そのなかでそれをどうやって作り出すか、モデルにしたのは『JAWS/ジョーズ』でした。『~ジョーズ』も始まってから2/3くらいまで進んでやっとサメが姿を現わすんですよね。でもその恐怖感はあるわけで、なのでこの『メッセージ』はとってもゆっくり脱いでいくストリップのような映画と見ていただいてもいいかもしれません。エイリアンのことを一枚一枚はがして、少しずつ明かしていく構造ですから、彼らがエイリアンと対話する部屋もそういった部分から影響を受けてデザインをしています。そして少しずつ明かしていくために思いついたのが、白いプラズマのような霧のようなエイリアンと人類の間にある壁みたいなものを通して、少しずつエイリアンを明かしていくというのが監督として今回必要とした手法したトリックでした。

MC:ここで前田監督に伺いたいんですが、プラズマ的な表現というのがありましたが、ビジュアルデザインという点で、前田監督が感動したところ、これはやられた!と思ったところを教えていただけますか?
前田:ミニマムなデザインだということに非常に感動しましたね。先ほどの映像のなかでも言いましたが、僕らが何か知らない物に接するとき、主人公たちは最初、高みに向って神に向って上昇するような動きをするんですけど、それがいつの間にか重力が変わって僕らの過去へというか穴倉の中で、洞窟の中で住んでいたいた世界の中に入っていくみたいな。で、その洞窟の中で手形を付けて歩いたりとか、そういう非常に考え抜かれた、しかもシンプルなデザインで素晴らしいと思いました。

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ヴィルヌーヴ:ドウモ、アリガトウ。言ってしまうと誤解を招くかもしれないからちょっと危険かもしれないんですが、傲慢に聞こえなければいいとおもいつつ言いますと、僕を含めた今作のチームは非常に日本のデザインに影響を受けて、宇宙船の造形であったり、ごくシンプルな線であったり、日本のカリグラフィ、筆、あるいは禅的なデザインに影響を受けてデザインをしていったんです。というのはエイリアンに何か強い存在感、何か強い感覚というものを持たせたかった。僕自身は日本的な、禅的なものにそれを感じるのでインスピレーションとさせていただいたんです。

前田:すごく感じました。

ヴィルヌーヴ:全然、禅に詳しいわけじゃないから日本でこの話をするのはちょっと恐縮なんですが(笑)。

前田:すごく伝わりました。僕らはヘプタポッド側だなって(笑)。

ヴィルヌーヴ:皆さんはラッキーですね(笑)。

前田:言葉がこの映画のなかでは重要なモチーフですが、ある人とネット上で話をしていて、言葉の誤解、今、世の中に蔓延している言葉がどんどん誤解を生んでいくという状況のなかで本当に言葉ってコミュニケーションのツールなんだろうか、本当にそうなのかって。その人と話していたのは、ある文化において思考を深めることに言葉はすごく有用であるけれども、文化と文化の敷居をまたぐときには非常に危険なものではないかって。文化と文化に橋を掛けるものではなくて、実は深い底なしの井戸のようなものではないかという話をして、その話をしていたときにこの映画の穴倉に降りていくっていうヴィジョンを提示されたので、ものすごくそれがショックだったんです。ひょっとしてそれを意識されたのかという質問なんですけど。

ヴィルヌーヴ:言語の限界というものはこの作品で触れているという意識はあります。知識の限界と言ってもいいのかもしれません。そしてそれを経験した主人公のルイーズは、自分の直感についていかなければならなくなる。日本では分かりませんが北米では自分の直感を信じるという部分が少し失われていると思うんですね。

MC:とても名残惜しいんですが、そろそろ時間になってしまうので最後に今後の予定についておひとりずつ伺っていきたいんですが。

樋口:いや僕らはドゥニ監督の次の作品(『ブレードランナー 2049』)の話がめっちゃ聞きたい。次とか次の次とか。

ヴィルヌーヴ:『ブレードランナー 2049』は今、絶賛ポストプロダクション中です。(全米)公開が10月3日(10月27日日本公開)予定なんですけれども、そこに向って今、一生懸命、皆で仕上げようとしているところです。スタッフが本当に毎日頑張ってくれているので、今回の来日もお願いして、時間をなんとか割いてまいりました。ちょうど音楽をつけたりVFX付けたりしている段階です。アーティスティックな視点から自分がこれまで手掛けた中で最もチャレンジングな作品になりました。なんと言っても自分が大好きな“ブレードランナー”という世界観を、自分なりに咀しゃくして、自分のものとして映画を作らなければいけなかったからです。ワクワクもするし、とても怖いそんな体験でもあります。

前田:音楽はまたヨハン・ヨハンソンさんなんですか?

ヴィルヌーヴ:そうです。

前田:本当にこの『メッセージ』のサントラは素晴らしかったんで、お伝えください。

ヴィルヌーヴ:『メッセージ』のときは先にスコアを書いてもらってそれを聞きながら撮影したんです。そこからテンションを保ちました。

樋口:その話をもっと聞きたい!

前田:ね、なんでサントラにヘプトタポッドのしゃべる言葉が入ってないんですか? リビングルームで聞きたかったんです。

ヴィルヌーヴ:僕の担当じゃないので(笑)。

MC:それではドゥニ監督にこれから『メッセージ』を見る日本のファンの方々にコメントをいただきたいと思います。

ヴィルヌーヴ:原作を読んだときに、“生きる”ということを祝福する物語だと感じました。また文化というものが持つ力、それを掘り下げている物語でもあると感じたんですね。そのように感じていただけたら嬉しいです。そして、皆さまと樋口監督、前田監督にも本当に美しい時間を共有できて感謝しております。ありがとうございました。

MC:ドゥニ監督、樋口監督、前田監督ありがとうございました。

▼無事『ボーダーライン』のブルーレイにサインをもらう樋口監督。ただの映画少年のような笑顔で「友達って書いてくれた」と大喜び。
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2017年4月14日(金) ソニー・ピクチャーズ試写室

『メッセージ』
2017年5月19日公開
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:エイミー・アダムス ジェレミー・レナー フォレスト・ウィテカー マイケル・スタールバーグ マーク・オブライエン

『メッセージ』のサントラは発売中!