【全起こし】『FAKE』森達也監督×松江哲明「日本のメディアは世界でいちばんモザイクが好き」「豆乳のシーンで笑いが起こるとは予想していなかった」「次回作はフィクションでしかもホラー」

「ゴーストライター騒動」で世間から非難を浴びた佐村河内守氏を追ったドキュメンタリー『FAKE』のDVD発売記念イベントが行なわれ、森達也監督、ドキュメンタリー監督の松江哲明が登壇。何が本当のことなのか? 本作を通してあの騒動をどう捉えるのか? 見る者にさまざまな疑問を投げかけた本作。DVDには、劇場版にはなかったシーンを追加し再編集したディレクターズカット版本編を収録。監督は今回のDVDに改めてどんな思いを込めたのか、DVDの購入者先着40人限定で行なわれた貴重なトークショーの模様とその後の囲み取材の内容を全文でお届けする。

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MC:本日は、紀伊國屋書店新宿本店にお越しいただきましてありがとうございます。大変長らくお待たせ致しました。本日は監督2名によるトークショーをお楽しみいただければと思います。最初に本日のゲストになります、松江哲明監督にご入場いただきます。皆さま拍手でお迎えください。

松江:今日は。ドキュメンタリー監督の松江と申します。今日は森さんとトークをさせていただきます。『FAKE』は完成前に3時間半ぐらいあるバージョンを見させていただき、それはたぶん2015年の年末でしたね。ドキュメタリーの粗編見るのって実は正直きつい作業でして、はっきり言って面白くないんですよ。ドキュメンタリーの整理整頓されていない映像というのは。だから結構覚悟して途中で見るのやめようかなくらいのつもりで見たんですけど、『FAKE』の3時間半か4時間くらいあるバージョンはとにかくいっきに見てしまいましたね。僕はそのあとすぐ森さんにメールをして、僕の感想を伝えました。でも一切聞いてくれなかったです(笑)。『FAKE』というタイトルも最後まで変えませんでした。というような関係で、僕はエンドロールに名前を乗せていただいています。今回ディレクターズカット版ということで、たぶん皆さんご覧になっていると思いますが、その辺の話も聞きつつ、DVDに出るということは作品にとっても区切りだと思いますので、たぶんこれまでとは違うお話がきけるんじゃないかと思います。短い時間ですがよろしくお願いします。

(森監督が登場)
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MC:では森さんご挨拶をよろしいですか。

:今日は、かなりハードルが高いですよね。ここ(紀伊國屋書店)でDVD買わなきゃいけないわけで、でもほぼ席が埋まって一安心しています。ありがとうございます。

松江:僕は森さんとは、森さんが『A』(オウム真理教の信者を「なぜ事件の後も信者で居続けるのか?」という視点で追ったドキュメンタリー)という映画を作ったときに、日本映画学校の学生でして、まだ18、19歳で、映画の宣伝も手伝わせていただいて、そのときが初めてなんですけど、森さんって、

:ちょっといい、説明させてもらって。

松江:はい、どうぞ。

:『A』はご存知の方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、そのときにプロデューサーが安岡卓治という、日本映画学校の当時は主任教授かなんかだったのかな、ドキュメンタリーの。

松江:担任でしたね。1年生の担任でした。ドキュメンタリーコースじゃなかったですけど。

:TVも映画業界も含めて安岡以外は、オウムのドキュメンタリー作るなんて頭おかしんじゃないかみたいな感じで。僕としては安岡にも巡り会って彼がプロデュサーやるっていうから、よしこれで次の撮影からはロケクルーが来るんだろうと思ったら、撮影日に安岡一人だけ来て、これはやっぱり一人で撮った方がいいよとかわけわかんないこと言われて(笑)。ま、でもカメラだけは買ってもらえてね、そういった展開で『A』を撮ったんですけれど、編集作業とかで映画学校の安岡の教え子たちに協力してもらって、OKカットを出すとかあるいは当時はスプリットといって全部書かなきゃいけないんですね編集する前に。それも全部やってもらったりして。で、たしか松江とはねその前に『あんにょんキムチ』は撮ってたから見てるのかな。

松江:あのときは僕まだ作ってないですよ。『A』の最初のときは。

:最初に会ったのは『下山事件(シモヤマ・ケース)』の映画のときに、新宿で撮影の応援に来てくれて。

松江:やりました。

:あれがたぶん最初じゃないかな。

松江:いやいやいや(笑)。最初はもっと前ですよ。“下山”のときって『A2』の間じゃないですか。

:そう。

松江:『A』のとき、シネカノンの試写室が昔あったじゃないですか。僕はそこに行ったりして、当時ベーカムで上映してたからテープを交換しなきゃいけなかったんですよ試写会で。僕それやってました。

:へー。その頃、僕とはしゃべった?

松江:しゃべりました。“BOX”とかで朝まで飲んだりしましたよ。それで今こういう『あんにょんキムチ』っていう僕の家族の映画を撮っていて見てくださいって言って。

:どんな感じだった? 偉そうだった?

松江:いやいや全然、森さん変わらないですよ。

:見てやるよとか言ってなかった?

松江:そんなことは(笑)。

:はい、ごめん、それで?

松江:僕すごい覚えてるのが、『A』も『A2』のときもソフト化しないということをすごく言ってましたよね? あのときは。

:そう?

松江:ええ。だって『A』も『A2』もDVDになるまですごい時間かかったじゃないですか。

:あれはどっちかと言うとDVDにする会社が見つからなかったから。

松江:でも今回すごく早かったなっていうのを思ったんですよね。最初からソフト化って考えてたんですか?

:(スタッフに向って)えーと、そうだよね? 最初からDVDのことは決まってたもんね? はい、そうらしいです。

松江:だけど、僕が思ったのは、ドキュメンタリーをソフト化するときって、これは言っちゃえば覚悟の問題でしかないと思うんですけど、別に揶揄しているわけではなくて、例えば『立候補』っていう映画があったじゃないですか。あれはソフト化するときにすごく修正が入ってたんですよ。僕も自分の作品をDVDにするときにやっぱりメーカーによっては、ボカシ入れてくださいとか、ここ許諾取ってくださいとか、ドキュメンタリーっていろいろ、、何て言いうんですかね、でも結局覚悟しかないと思うんですよ。『FAKE』に関しては、劇場公開版そのままというかディレクターズカット版ではありますけど、途中のTV番組の映像だったりとか、そのまんま入ってるじゃないですか。だから僕はすごいメーカーさんも覚悟あるなって思ったんですよ。

:むしろDVDにはそういうでほかの映像も入れてるから。あの年末の番組。もう入れちゃった。話は少し違うんですけど、例えば盛んに今、森友学園のニュースをやってますよね。子供たちが教育勅語を暗唱したり、安倍首相頑張れって言ったり、モザイクかけてるでしょ? 誰もが当たり前のように見てるし当たり前のようにモザイクかけてますけど、でもちょっと待てよと。モザイクをかけるということは出してはいけないと誰かが判断してるってことですよね。もしかしたら子供たちは、もしくは子供の親は、胸張ってやっている可能性もあるわけですよ。それが良いか悪いかは別にして、それにモザイクをかけるかを勝手に決めていいのかどうか本当は逡巡があっていいと思うんですよ。でも当たり前のようにモザイクかけてるでしょ。ふと思い出したのは『ジーザス・キャンプ ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』っていうドキュメタリーで、あれもやっぱり同じように子供たちが、アメリカのキリスト教のサマーキャンプでどんどん洗脳されていく過程を撮るわけですけれど、モザイクなんか全然入ってないですよね。その辺はね、日本は世界でいちばんメディアがモザイクが好きな国だと思います。モザイクっていうのは要するにその人は顔が出せない人ですよ、この場所っていうのが本来人が行ってはいけない場所ですよっていうサインになっちゃってるんで、もっともっと使い方についてはデリケートでなければいけないのに、とにかくちょっと不都合が出そうだと思うと全部モザイクにしちゃう。だからその辺は不安ですね。

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松江:いや僕ソフト化もないっていうのはすごいと思います。

:『立候補』モザイクありましたっけ?

松江:モザイクというか音の修正を入れたりとかっていうのはありましたね。あとチラシ自体がDVDになるときに顔を隠してましたよね。パッケージはマック赤坂さんの。

:え、顔を隠してたの? 選挙期間だったんだっけ?

松江:いや選挙期間とかではなくて、特定の候補を推しているものではありませんみたいなこう、なんかありましたよね。ごめんなさい、今ちょっとうろ覚えですけど。

:それは変だよね。『FAKE』については、少なくとも配慮はしてないですね。

松江:なんで今僕がそういうことを言っているかと言うと、僕もTVをやっていて、山田孝之はあっちこっち行くわけですよ。そうするとそこは山田孝之のスポンサーだったりとか、許可取れないで撮影しているところもあるので、やっぱりそれは隠さなきゃいけないというか、そういうことを今すごくやってるんですよね。ソフト化ってまた放送のときとは違う、残るものじゃないですか。だからそこはすごいなって思いましたね。

:ドキュメンタリーのソフト化っていうのは特にね、例えば街のシーンがあっていっぱい人が映り込んでますよね。これ全員許諾取ったんですか?っていう人がいてバカじゃないの?って思うんだけど。

松江:絶対言われますもんね。

:うん、真顔で聞く人がいるから、いや取ってませんよって言うと、じゃこれ無理でしょって。いやだってこれ放送してるんですよって。放送の時は許諾を取ってなくてもOKなのに、DVDにするってなった途端に許諾について言う人が出てきて、あれって何だろうって思いますよね。今回はだからそういう意味では、DVDの発売に関わっている方もここにいらっしゃいますが、一切注文がなかったんですよ。

松江:あ、そうですか。スゴイ。『FAKE』という映画を完成前から見たりしていて、さっきもちょっと楽屋で言ったんですけど、特典映像を一切入れてないですよね? そこ森さんのこだわり?

:こだわりっていうかつまり、ほかのドキュメンタリー映画のDVDってなんかこう、名前は出さないけど、Q&Aとか入れてるんだよね。なんかみっともないなって。そういうの必要ないと。

松江:なるほど(笑)。オーディオコメンタリーも必要ないと。

:あぁ絶対オーディオコメンタリーは必要ないですね。だからそういう意味では特典映像ってなんだろうって。NGカットも絶対出したくないし、NGはNo GoodだからNGなんですからね。出す必要もないし理由もないし、色々考えて結局なんか、最初はそれこそ例えば原一男さんとDVD用に2人で対談する映像がどうでしょうかって言われたけど、原さんとじゃ盛り上がらないなって(笑)。

松江:今どき珍しいですよね、メニュー画面で特典っていうのがないっていう。字幕とチャプターもなんかそっけないじゃないですか。何か第1楽章とかで。

:だからねー、それこそ『FAKE』って(公開前の宣伝用に)DVDを出さなかったでしょ?

松江:そうですね。

:あれもやっぱり僕の真意なんですね。映画って映画館で見るもので家で見てほしくないって思ったんでね。その結果として全然ベスト・テンにランクインしないわけですよ。いろんなキネ旬とかね。

松江:僕1位にしましたよ!

:週刊文春では『FAKE』がベスト1になったけど、気ねキネ旬ではベスト・テンにも入らない。文化映画部門にも入らない。

松江:映画秘宝でも僕1位にしました。あの文化映画って変ですよねあのくくり。

:だから僕ね、こだわりすぎですね。だから毎回半生してるんですけど、今回も特典映像くらい入れればよかったかなって。

松江:予告編くらいは入れてほしかったなって思いましたけど。

:すいません。

松江:いやいや、でもその潔さがすごく森さんらしいなって思ったんですけど。

:だからそれもあってディレクターズカットにしようと思ったんですけど。

松江:ディレクターズカットっていう言い方って、それこそ『A2』も、もう1回作ったじゃないですか。あれはまさに公開の時には出せなかったけど今だから出せるという意味のディレクターズカットというか、本来のものに戻したというものですけど、今回の『FAKE』のディレクターズカットはどういう意味合いなんですか?

:近いです。大きくは3つのシーンが変わってますね、加えられているけれども、特に1つは公開時には入れることにちょっとためらいがあった、というかいろいろ諸事情があって間に合わなかったシーンですね。

松江:皆さん見てますよね?

:一番大きなところは佐村河内さんととても仲の良かった目の見えない女の子ですけれど、あれはまだ公開時には彼女の環境がね、整ってなくて、ただ公開後に評判を聞いたりして少し環境も変わったので、いいですと言ってもらえたので出しました。

松江:でもカメラの前でも彼女が言ってますもんね。撮影のときに佐村河内さんに自分が体験したこととか自分の思いというものを語るという、僕はあの言葉、見ていてすごく泣きそうになっちゃったんですけど、語るっていうのは言葉だけを出すだけではなくて、顔を見て表情でも伝えるっていうことなんだっていう言葉が。

:目の見えない彼女が言うと、いろんな意味で感無量なシーンですね。

松江:最初の編集でもあれは入れてたんですか?

:松江は最初の段階から見てるでしょ?

松江:でも僕が見たときには入ってなかったと思います。

:じゃその段階で落としてたんだ。

松江:4時間ぐらいあるやつにも入ってなかったです。

:結構彼女のシーンっていうのは強力だからね。飛び道具的な部分もあったし、何より彼女の環境があの段階では整っていなかったんで。要するに彼女も言ってるけど施設とかご両親が猛反対して、あんなやつと交流があったことを口にしちゃいけない、こんな映画に出たらメディアがいっぱい来て大変なことになるって。そう思ってらっしゃったらしくて、でもまぁ、それも解けたんで今回。

松江:皆さん見てるからあえて聞くんですけど、あの後に彼女を見送った後に佐村河内さん居間に戻るじゃないですか。あそこちょっとカットアウトしてますよね。あのあとってまだあったんですか?

:もちろんあったんでしょうけど。

松江:実際はどういうリアクションだったのかって思ったんですけど。

:大体彼は見送った後に振り向いて何か言いますけど、あのときは何もなかったんですよ。だまって戻ってきて猫が待っていて、猫をぼーっと見ているような感じだったと思いますけど。
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松江:あともう1つ、弁護士さんに会うところも前が増えてますよね。あれもたぶん最初に見た粗編には入ってなかったですね。今回増えた箇所って前に見たやつに全部入ってなかったんでよね。

:弁護士のシーンは単純に、以前は2ショットのインタビューオンリーなんですよ。本当はあそこはね、のりしろと言うか弁護士事務所に2人で行っているわけだから入れたかったんです。つまりそこでいきなり僕が神山さんや新垣さんにインタビューするインタビューカットがあったら変でしょ? ただ2時間きれって言うのは橋本プロデューサーの至上命令で。

松江:あ、最初からそれはあったんですか?

:ありましたね。僕も『A』と『A2』は2時間きらないとミニシアターでは上映きついんだよって安岡に何度も言われたけれども、我を通して2時間10分とかにしちゃってね。やっぱりそうすると回数も当然減るし、レイトショーだときついっていうことも出てきましたよね。2時間きるべきだったなって後で後悔したり。だから今回はそういう意味では2時間きろうと思ってたんできりました。だたDVDは尺は気にしなくていいで。2人の街歩きのシーンが好きなんですよ。

松江:あぁ、いいですよね。僕、今の話聞いて安岡さんも橋本さんも、最初から90分って言えばいいのにって。90分って言ったら森さん絶対2時間以内になるんじゃないですか? 2時間きれって言ってきれないのは『A』も『A2』も見て分かるじゃないですか(笑)。リズムがもう2時間超えるリズムだから、90分って言えば100分くらいになるんじゃないかって思いましたけど。

:2人は今頃ちきしょーって思ってるかもしれない(笑)。でも『FAKE』はちゃんとね、言われた通り2時間に収めましたで。

松江:確か僕ディレクターズカット版を見て、盲目の少女が出てくるシーンは、彼女がそういう事情があったというのは分からなかったですけど、京都のブログを書いてらっしゃる方がいるじゃないですか。内容がちょっと重複しているっていうか。で、たぶん感情がすごく強いから彼女のところは切ったのかなって。2時間超えるんだったらありだと思うんですけど、2時間以内にするんだったらどちらか選ばないとなって。

:そうね。それはありましたね。京都のシーンのところは山崎カメラマンのシーンだから、そこ使うんだったら彼女のシーンはなしかなって。だから今回、彼女のシーンを入れたんで、少し京都のシーンは削ってます。心情的に重複する部分。

松江:だから両方見るとドキュメンタリー編集でどこを残すか、切るかとかというのがすごく分かるなって思いました。あとこれは本当に森さんらしいなっておもったんですけど、またマイク忘れてるんですよね。『A』のときも確か「グッド・ナイト・ベイビー
」が流れるところ。

:はいはい、不当逮捕のシーンね。

松江:はい。あれ音楽入ってきて素晴らしいなって思ったら単にマイクの音切ってたから無理矢理、使えるようにあのシーン作ったって言っていて。

:『A』のときはさっき言ったように安岡が、VX1000という当時はもうね垂涎の機種を持ってきてくれて大喜びで使って、マイクのスイッチを、まぁその日もらったんだからしょうがないよ。

松江:『A』を撮ってから20年近く経ってますよね(笑)?

:なんで音が入ってないのか不思議でしょうがないんだけど、いいシーンなんですよ。どう考えても使えないって思ってたんだけど、じーっと見ていて別のこれ音無しでもいいじゃんって。考えたら音のない世界っていうのを拝見しましょうみたいな大義名分もあるんじゃないかなって。

松江:いや、それは(笑)。そうですよね、でも音無いってあそこは、最初見たときは入ってませんでしたけど、なんであれ入れたんですか?

:いいシンーンなんですよ。彼が薬飲んでいて、猫が途中で手を出して。全然、理論的には必要なシーンじゃないんですけど、何か捨てがたくて実験的にこれやっちゃったらどうかなって思ったんですよね。橋本プロデューサーはなんか怒ってたけどね。

松江:怒りますよね。

:怒るというか、何よこれってあきれてましたね。あと週刊文春の表彰式のときに、僕が賞状の文章を頭書(とうしょ)のところを「ずしょ」と、あそこを足したんです。

松江:あ、そうなんですか。

:あれは最初なかったんです。それで橋本さんやっぱり怒ってた。これ監督が馬鹿だってバレるじゃないって(笑)

松江:(笑)

:しばらく考えてからそれよっぽどだなって思ったけど、でもいいじゃないその方が。

松江:森さんは本当に隠さないというか、むしろ出しますよね。なんか裸になっちゃってる部分っていうか。

:いやだからちゃんと理論武装しているからこそできることで。

松江:何を言ってるんですか(笑)

:ボケの振りをしてるだけです。

松江:ツンデレの萌えポイントってことですね(笑)。そういうところにキュンとくるわけですね。

:今日来てくれた松江さんのまさしく今放送している、タイトル何だっけ?

松江:『山田孝之のカンヌ映画祭』です。

:ご覧になっている方、たくさんいらっしゃると思いますけど、さっき控室でちょっと話をしていて、あと2回放送なんです。で、詳細を教えてくれないんだけど、何かとんでもないことに最終回はなるらしくて。

松江:いや、いいですよ、その話は(笑)。でも、僕は無理やり絡めるわけじゃないですけど、最近すごくTVをやるようになっていてさっきのボカシとかモザイクの件もそうなんですけど、TVってたぶんすごく窮屈っていうかすごく厳しいじゃないですか。森さんはずっとやってこられてて、どんどん窮屈になってきたのを感じてたぶん少し距離を取ったりとか直接作るということではなくなったと思うんですけど、僕は逆に窮屈さを利用するというか、ルールにあえて入ってみるという。映画の場合すごく自由じゃないですか。だから今、窮屈さとの戦い方っていうか表現の仕方が段々分かってきて。今日話したかったことでもあるんですけど、『FAKE』見たときに思ったんですよ、これもしTVでやったらどうなんだろうなって。同じものには絶対ならないんですけど、同じテーマを森さんがTVでやったらどうだったんだろうなって思ったりして。ちょっとTVの話っていうか、TVの表現の話をしたいなって思ったんですけど。それが僕が今やっていることとつながるかなっていうのがあって。

:TV時代の僕の友人、同僚に長嶋甲兵というテレコムスタッフという会社の、ま、メインプロデューサーじゃないかな彼は。
是枝裕和さんと仲いいんですよね。3人でたまにご飯食べたりするんだけど、1回何で長嶋さん映画撮らないの?って僕と是枝さんが聞いたら彼が、君たちは映画でいいけど、俺はTVという制約があるからこそ、その制約をいかに裏をかくか、いかにその制約を逆手に取るかということで作品を作っているだと言われてね。そっちの方が楽しいよって言っていて確かにそれはあるかなって思いました。それに近いことを今、松江さんが。

松江:僕もそうかもしれないですね。

:だから制約があるからできないじゃなくて、制約があった方がそれをどう乗り越えるかとモチベーションが問われるから面白いねという言い方されていて。

松江:僕は逆に映画が段々制約を感じてきたというか、映画って一番自由なものだと思っていたんですよ。『山田孝之のカンヌ映画祭』にも通じるんですけど、当たり前のルールっていうか、例えば主題歌これ使えとか、こないだやった回ですけど女優さんがヌードに対して自分はやりたいと思っていても、事務所だったり、今やっているCMだったりとか、または脱いだことだけが取り沙汰されている今の状況だったりとか、すごく映画って自由なものなのに、すごく窮屈だなっていうか。あと原作ものしか企画が通らないとか。映画がどんどん窮屈になっているのは間違いないなって思うんですけどね。
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:資本の論理にどんどん映画が回収されてしまっているということかな。

松江:あとは映画を知らない人がどんどん関わってきているということですね。人がどんどん関われば関わるほどその人のルールでやろうとするじゃないですか。僕が今テレビ東京さんでやっていて自由なのは、話をする人が1人とか2人なんですよね。就いているプロデューサーっていうか。その人を説得すればこの表現できますよってやるので。映画でいろんな製作会社や製作委員会で全然違う人がくると、今そういう話じゃないっていうことが。

:むしろ映画よりも自由にできちゃうってこと?

松江:僕が今やっている場ですけどね。あとは去年NHKでもやりましたけど、やっぱりプロデューサーが少ない方が自由だなっていうふうには思いました。それは間違いないですね。ひとくくりにNHKだからどうだとか、テレ東だからどうとかでなくて。逆にこういう企画をやりたいんだけどって言っても、ほかの局ではそれ通らないよって言われたりはしますけどね。

:テレビ東京は田原総一朗さんがね、かつて数々のドキュメンタリーをテレ東で撮っていてね、すさまじいのいっぱいあるじゃないですか。

松江:はい。

:なんであんなの撮れたんですか?って聞くと彼の答えは「テレ東だから」なんだけど。

松江:はい無法地帯みたいな。

:でもそれから20年、30年経ってテレ東も上場しちゃってね、会社もすっかり綺麗になって。

松江:今、六本木ですからね。

:変わってしまったって言う人はたくさんいますけどね。

松江:だって打ち合わせしてると窓の外にビルが見えるんですよ。すごいですよね、普通なんですけど(笑)。すごい高いところにあるなみたいな。テレ東っぽくないですねって。

(MCからそろそろという声が)

:あ、もう終わり。なんか台本みたいなのもらったけど全然無視しちゃった。

松江:あ、これちょっと聞こう。森さんにとって『FAKE』ってどうでした? 僕、すごく覚えているのが皆で試写会やったじゃないですか、映画関係者とかTVの人とか。そのあと森さんと一緒に打ち上げいって、そのあとトイレに行ったら森さんがなんか“映画って楽しいな”だったか“作って皆で見られるって楽しいな”みたいなことを森さんが言ったのをすごく覚えているんです。

:おしっこしながら?

松江:はい。僕すごく感動したんですよ。

:まぁでもTVだって別にね作って皆で見せるってことは、っていうか遥かに映画よりも桁が違うわけで。ただやっぱりなんでしょうね、映画の場合は手作り感がより強いというか、あのときって初号の前だよね。身内の試写でしたけど、やっぱりワクワクしたね。それはきっと高揚したから思わず口走っちゃったんでしょうね。

松江:どうですか上映やってみて。楽しかったですか?

:楽しかったです。『311』という作品を別にすれば、本当に『A2』以来16年ぶりで。そういう意味合いでは劇場回りも楽しかったし。最初はね劇場回りしないって言ってたんですよ。舞台挨拶もしないと。初日だけはお願いだから、初日に舞台挨拶しなかったら記事にもならないんですって言われてじゃあ初日だけやるよって言って偉そうに。でも結局全部やっちゃってけど。

松江:トークショーとかあんまりやらなかったですよね? 多い方ではないんじゃないですか?

:多い方ではないです。ただ、地方の劇場でやるときに是非、監督来てくださいって言われたら、確かにそういうのがあるのとないのとでは全然動員が違いますから、弾みが違うんで。あと地元の新聞に載るかどうかとか、それは無下にできないですよね。結局はなんか、最初は渋々だったけど途中からもう歯止めが利かなくなって。でも本音を言うとやっぱり楽しかったんでしょうね。そうやっていろんなところに行って、やっぱりTVと違うのはその場で皆が見終えたあとに、こうだった、ああだったって感想を聞いたりね、じゃあ飲みに行きましょうって飲みに行ったり、それを久しぶりに体験できたので楽しい1年でした。

松江:また是非作ってください。『A2』のときって“9.11”の直後で、当時BOX(東中野)でしたけど、動員があまりよくなかったり、一方でマイケル・ムーアの『ボーリング・フォー・コロンバイン』がすごく入ったり、ドキュメンタリーが盛り上がってきた時期だけど見る側がまだ情報とかも少なかった時代じゃないですか、ぴあとかしかなくて。今回『FAKE』が成功したのって絶対SNSの力とか口コミの力とか、ちゃんと森さんの表現が20年前の頃とは全然違ったんだなって思ったので、今回そういう楽しさを森さんがまた続けていってほしいなと。

:はい続けます。また遊びに来て下さい。最後ですけどスタッフが、撮影の山崎裕が来てるんでちょっとだけ、ご挨拶してください。松江さんのドラマにも出てるんだよね。

松江:そうです。
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山崎:ほんのわずかな部分しか撮影してないですけど。

:キーパーソンです。

山崎:森さんは随分昔から知っているけど一緒に仕事するのは初めてで、そういう意味ではなかなかある意味面白かったです。ありがとうございます。

:ドキュメンタリージャパンに今回製作をお願いしたのは、山崎さんに撮ってほしいっていうのがあったからね、やっと組めて僕もすごく嬉しいです。よくネットでは“佐村河内はケーキが大好き”って書いている人いるけど、彼は食べないですから。あれはあくまでお客様用なんだけど、大体皆さん残しますケーキは。真っ先に来て真っ先にがぶって食べちゃうのは山崎さんぐらいで。毎回、全部、綺麗に一瞬で食べてたからね。やっぱり名カメラマンは違うなって思いました。っていうことでいいかな。

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MC:ここで松江監督最後になりますので、ひと言だけよろしいでしょうか。

松江:僕は去年、自分がいろいろものを作っている時期でバタバタしていたんですけど、去年見た映画の中で僕は『FAKE』をベストに選ばせていただいたのは、やっぱり僕はこういうドキュメンタリーが好きだし、あと何より、佐村河内さんご夫妻の関係性だったりとか、この国に対してすごくモヤモヤするものをカメラ1台で、ドキュメンタリーで現実を撮るというそのことだけで、突きつけられたっていう。それはやっぱり森さんが監督したっていうことと、自分が作っていて僕はこういうものが好きだなって強く思った作品でした。昨日DVDでディレクターズカット版を見てやっぱりこの映画好きだなって思ったし、何度も見返すことは間違いないし、『A』、『A2』のときは森さんは、ソフト化をすごい渋ってたけど『FAKE』はすぐ出て良かったなと思いました。逆に上映もこれから増えてほしいなと思います。あ、僕の映画、今、シネマート新宿で『俺たち文化系プロレスDDT』というのが昨日からまた再上映してもらっていて、明日僕夜トーク出ます。3月17日(金)までやっていますので、よろしかったら見てください。あと“カンヌ”は、あと2回で一応終わりますけど、あんまり終わるような構成に見えないと思いますが、一応終わる予定です。是非お楽しみに。僕は森さんをビックリさせるためにいろいろ考えました。

:とんでもない最終回になるらしいんで、是非。

松江:今日はありがとうございました。

(サイン会を経て囲み取材へ)

Q:ディレクターズカット版ということで取捨選択はあったと思うんで、単純に増えたわけではないと思うんですけど、具体的に監督から見た印象だったり、劇場版とディレクターズカット版はこう違うよというのがあれば、セールスポイントと言いますか、その辺はいかがでしょうか。

:さっきのトークとダブりますけど、劇場版は特にねシネコンでかけるような作品だったらともかく、僕みたいにミニシアターがほとんどの場合は、尺についてわがままを言っているとなかなか上映できる小屋もなくなっちゃうので、2時間きるというのが至上命題だったので、DVDってことで尺はそんなに気にしなくていいということで、なくなく落としたところはいくつかありましたから、そこは復活させようというのが第1にあって、今回2つ大きなシーンが加わってますけどそこは諸事情あって公開時には入れられなかったところも、いろいろクリアできたので入れました。細かいところはちょこちょこ直してますけれど。

Q:森さんなりには、こちらの方がベストバージョンと言いますか、気に入っているんですか。

:うーん、難しいですね。ちょっと別物ですね、もう。やっぱり以前のかたちは劇場版ってやっぱり自分の中ではすごく思いが強くて、やっぱり映画館で見てほしいです基本はね。ただ、DVDはDVDでね、もちろんやっぱりいろんな人に見てほしいし、気持ちを切り替えたんですよ。そういう意味では、僕の中で同じジャンルじゃないんですよね、変な言い方だけど。だから、劇場版があってDVD版があって、まったく違う位置にあるので、どっちが良い悪いじゃないですね。だからもしこれから劇場で上映の話がきたら、たぶん僕、劇場版を選ぶと思います。でももしモニターで見たいっていうならDVD版を薦めるし。

Q:ディレクターズカット版を上映したいですっていう話があってもやっぱり。

:あぁどうかな(笑)。上映したいって言われれば、そうですかって渋々OKするかもしれないけど、まったく条件なしだったら劇場版を見てほしいかな。やっぱりあれは劇場でっていう思いで作っていたので。実はでも、これは僕の中の違いだけでね、ほかの人にはあまり意味はないのかもしれないけど、僕の中ではそういうふうに線を引いちゃったので。

Q:やっぱりお客さんがたくさん来たからという思い入れみたいな、そういう気持ちがあったりはしますか。

:お客さん来たからというのは関係ない。別に来なくても劇場版は劇場版でこだわりましたから。

Q:公開後、さまざまな反響があったと思いますが、先ほどの話のなかで、実際、佐村河内さんはケーキを食べていないけれど見ている人には別の印象で伝わっているということがありましたが、ほかにそういった誤って伝わっていると感じたシーンはありましたでしょうか。

:それはたくさんありますよ。それはもう常にあるし、『A』でも『A2』でもあるし、それは僕の作品だけじゃなくていろんな作品全部。映像って要するにモンタージュですから、このカットとこのカットを組み合わせて解釈するわけで、それは人によって個人差がありますからね。当然あれを見て佐村河内さんはケーキが大好きなんだって思う人がいて当然ですよ。だから別にいちいち是正する理由も必要性も感じていないです。ただ、もちろん大きな曲解をする人もいるけれど、でもそれも含めて映画ですから、いちいちそれに対して反抗する気はないですね。自由に解釈してもらっていいんです。

Q:それも捉え方のひとつということですね。

:そうです、そうです。

Q:特に意図していなかったのにすごく反響があったシーンというのはありましたか?

:そういう意味では豆乳のシーンとか。あそこって各劇場で皆笑うんですよね。「なんで豆乳を1パック飲むんですか?」「大好きだから、絶対飲みます」って何か意味がわからないじゃん(笑)。でもあのとき何かね、この人のこだわりの強さを感じたんですよ。それは香さんのケーキも含めてあの2人っていったん決めたら絶対それをやるみたいなところがあって、そういうところが垣間見えたので、そういうシーンのつもりだったんですけど、毎回爆笑されるらしいんで。ま、でも笑いは笑いで大事ですからね。それはそれでいいかなって思ってます。たぶん笑いながらも佐村河内さんのこだわりの強さみたいなものがどこかで感じ取ってくれているはずなので、きっとそれでいいんだと思います。

Q:ディレクターズカット版を作るに当たって問題が解決したから入れたということでしたが、劇場公開してお客さんからの反響を受けてちょっと変えたりしたというところはありますか?

:それはないですね。

Q:監督のなかで、これを入れたかったけどというシーンが入れられるようになったからということですか?

:そうですね。お客さんの反応で変わったところは少なくともないな。ないですね。

Q:大きく増えたシーンについて、少女のシーンのほかはどこでしょうか。

:僕がマイクのスイッチを入れ忘れたシーンと、シーン全体じゃないんですけど、弁護士のシーンですね。本編の方では2ショットのインタビューだけでしたけど、その前の道行きは入れていなかったのでそこは全部入れました。

Q:2ショットのインタビューのところで壁を映していたのは先方から顔を出さないでくれとか言われたんでしょうか。

:いいえ、全然。一切ないです。

Q:あとこれは種明かしになるかもしれないですけど、佐村河内さんに最後に森さんが「私に何か黙っていることや、嘘をついていることはありませんか」と聞いて黙ってますよね。なんか言ったんですか?

:何か言ったでしょうね。教えたいけど忘れちゃったんです。ただ切った限りは大したこと言っていないんですよ。

Q:皆そこ知りたいんですけどね。

:うん、それもね、あそこで黙り込んでいるからあいつはやっぱり嘘を付いているんだってネットで書く人いますけど、でも逆でしょ。彼が嘘つきだったらあそこで「いや嘘なんてついてません」って言えばいいだけの話で、あそこでなぜ彼が黙り込んだのかってことを考えるのが大事なんですよね。あの十何秒あるのかな。そこでいろんなことを考えましたっていう感想を聞くのが好きで、自分はこれまでの人生で嘘をついてなかったかとか考えましたっていうそういう感想もあったりして、とても嬉しいですね。そのためのシーンですから。彼がどう答えたかなんてどうでもいいんです。さらに言えばもう、映画を自分のものにしてもらうために、見てもらった人のね。だからあのカットがあるので。佐村河内さんには申し訳ないけどねあそこはね。

Q:どのシーンを入れようかということは、相当時間をかけて悩んだんでしょうか。どのくらいの期間でしたか?

:編集はね半年くらい、一番最初に始めてから終わるまでは半年ぐらいかかりましたね。

Q:DVDのですか?

:あ、DVDの? 2カ月ぐらいかかったかな。

Q:やっぱり結構時間をかけて。

:2カ月は嘘か、1カ月ぐらいかな。まぁ大体のプランは頭にあったので。

Q:靴が映るシーンも追加されてますけど。

:あぁ僕は言われて気づいたけど、足フェチらしいんですよ。『A』とか『A2』も足下を撮ってるんですよね。それはまったく無意識だったんだけど、でも足って結構、無防備な部分が表われたりたりするので、確かに言われてみれば足を撮ったりしてますね。その延長でもしかしたらあのシーンがあるのかもしれない。

Q:佐村河内さんと最近連絡は撮られていますか?

:ありますよ。

Q:『FAKE』の反響とかって何かおっしゃってたりしますか?

:気にされてはいると思うけど、なるべくそういう評価とかはあまり見ないようにする、彼も葛藤してるみたいですけどね。

Q:DVDを送られてますか?

:送ってます。

Q:DVDに関してはまだ何も?

:でも基本的に僕にはあまり言ってこないですよ。それは映画の時もそうだけど、撮影中から彼はドキュメンタリーとして撮られたらもう撮った人のものだからどうのこうの言いませんって言ってくれていたんですよ。彼はやっぱりNスペとか出てますから。覚悟してくれてたみたい。だからそれはあんまり出来上がったものを見てどうだっていうのはないですね。

Q:普段連絡取るときって世間話とかされるんですか?

:いや世間話は僕はしないかな。僕あんまりメールやるほうじゃないので。でも佐村河内さん電話ができないからメールしかないじゃないですか。だから結構くるけど僕は返事書かないから、プロデューサーが代わりにいろいろ連絡を取ってくれてますけど。連絡っていうかまぁ元気ですか?みたいな感じで。僕もたまに連絡取ります。

Q:撮影の際に佐村河内さんから何か要望はあったんでしょうか。こうは撮られたくないみたいな、気にされていたことはありましたか?

:ないですね。撮るまでは、特に香さんは抵抗されていたけれど、いったんもう撮り始めたらここはNGとか今思い返してますけどないですね。なかったと思います。

Q:言える範囲で構いませんが、次回作の構想は何かありますか?

:次回作は、ドラマを撮りたいです。ドキュメンタリーはもう十分やったので。

Q:本当ですか?

:本当ですよ。ちょっといろいろ企んでます。大体失敗するんですよね。ドキュメンタリーを撮った人がドラマを撮るとね。

Q:ドラマというのは人間ドラマということですか?

:いやーホラーとかいろいろ考えてるんですけど、とりあえずホラー映画ということにしてください。ホラー映画を撮りたいとほざいていたと書いていただければ。まだ公表できないんですよ。もしかしたら1、2カ月中になんらかの目処が付くかもしれない。そしたら公表します。是非取材してください。

Q:最近、世の中の出来事で森さんが気になっていることがあれば教えてください。題材になりそうだなということなどあれば。

:メディアっていうところに自分はいたし、今もいるし、メディアがどんどん脆弱的になってきているのは確かなので、ある意味でメディア批判だしある意味でメディア頑張れ的なね、そういったような内容にできればって思います。メディア批判のホラー映画ってなんだ(笑)

Q:『FAKE』の続編はありますか?

:それはない。

Q:今、著作権の訴訟とかもやってますが。

:そういうのには興味ないです。まぁそう言いながら『A2』撮りましたけど、でも『FAKE2』はないと思う。

Q:普通のメディアの“フェイク”という言葉を使っていますがそういった風潮はどう思われますか?

:メディアが真実だけじゃないってことを知るうえでは、そういうリテラシーを持つうえでは僕はいいと思うんですけど、フェイクという言葉の逆にトゥルースがあるわけでしょ。だからフェイクVSトゥルースになっちゃうわけで、それはおかしいですよ。トゥルースなんかないわけだから。本来、フェイクとトゥルースの間にあるものが情報なのに、フェイクということを取り立てて言うことで、より真実と虚偽の二元論的なものが強くなるっていうことが逆なんだけどなって内心思ってますけどね。フェイクは当たり前なんですよね。

Q:前作から16年経って本作を撮られましたが、ご自身の中で創作意欲がふつふつと沸いているんでしょうか?

:はい、ふつふつと沸き上がっています。ホラーは半分ウケ狙いですけど、でもホラーもひとつの要素で純愛ものでもいいし、要は映画が撮りたいんです。映画をまたやりたいです。

Q:それはフィクションですか、ノンフィクションですか?

:ドキュメンタリーとドラマってそんなに大きな違いはないんですよね。それはずっと示してきたつもりなんですけど、ただ台本のあるものをちゃんと1回ぐらいやってもいいかなっていう気分にはなってます。

Q:本気なんですね?

:もちろん(笑)。結構本気です。

Q:新作は映画ということでしたがTVでは。

:TVも実はね、ひとつ話が来てまして、あるシリーズのスピンオフ的な企画をやらないかって話が来てるんでやるかもしれないです。これもちゃんと決定はしていないで今は言えないですけど。

Q:今日お話に出ていた長嶋さんの言葉とか。

:あ、僕はだから全然今でも肩書きTVディレクターって入れてもいいぐらいで、長いから入れないだけで。TVでもし何か仕事えきればやりますよ。

Q:『FAKE』でまた映像の方にシフトしたというか、作家のほうはちょっとお休みですか?

:書かなきゃいけないけど。映画ではまず食えないですからね。『311』は別として映像はもうやらないかなって考えた時期もあるけど、今はもうやっぱりやりたいですね。とりあえず並行しないことには食えないんで。

Q:今日の松江監督や山下敦弘監督が“ドキュメンタリードラマ”という非常に境界が曖昧な作品を作っていますが、森監督がそういうものを撮られることはありますか?

:そもそもは僕なんですよ。テレビ東京でやっていた「ドキュメンタリーは嘘をつく」っていうドキュメンタリーなんだけどドキュメンタリーじゃないというわけの分からないものを作って。あれ見て松江さんとか、山下さんはもっと前からああいうことをやってたけど、TVでできるようになって。TVはなかなかね、そんな視聴者を騙してみたいなレベルで、でも騙していいじゃんみたいになってきたって感じですよね。

Q:制約が多いいことをやはり逆手に取るということですかね?

:そうそう、逆手に取ればいいし、規制の多い国ほど面白いドキュメンタリーが撮れたりするじゃないですか。中国とか、ちょっと前のミャンマーとかね。僕は表現ってそういうものだと思うし、逆に全然自由にやっていいよって言われたら皆何すればいいかわからなくなってるし。それは日本のひとつの現象だから、だったら規制のあるところから、違うベクトルを持つ作品を作っちゃえばいいんだと思います。

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2017年3月12日 紀伊國屋書店新宿本店

『FAKE ディレクターズ・カット版』
発売中 DVD/4,800円(税抜)
【封入特典】劇場用パンフレット縮尺再編集版
【初回仕様】初回生産分のみアウタースリーブケース入り(なくなり次第終了)
発売元:ディメンション 発売協力:ピカンテサーカス 販売元:ハピネット
©「FAKE」製作委員会