「映像化、絶対不可能!」とまで言われた衝撃作が、ついに映画として世に放たれる。『廃用身』は、現役医師でもある作家・久坂部羊が自身の医療現場での経験をもとに描いた同名小説を原作とするヒューマンサスペンスだ。超高齢社会を迎えた日本の“半歩先の未来”を舞台に、医療と倫理、幸福と合理性の境界線を鋭く問いかける。

物語の舞台は、ある町のデイケア施設「異人坂クリニック」。院長・漆原糾(演:染谷将太)が考案したのは、“究極にコスパの良い介護”を目指す画期的な治療法だった。それは、麻痺などにより回復の見込みがない手足――すなわち「廃用身」を切断するという、常識を覆す選択。治療を受けた高齢者たちは「身体も心も軽くなった」「性格が穏やかになった」と語り、施設には穏やかな笑顔が広がっていく。
しかし、その“幸福”は本物なのか。老齢期医療に革命を起こす可能性を感じた編集者・矢倉が、漆原に書籍化を持ちかけたことをきっかけに、事態は思わぬ方向へと転がり始める。内部告発の流出、そして患者宅で起きた衝撃的な事件。合理性の名のもとに進められてきた治療は、やがて狂気と紙一重の領域へと踏み込んでいく。
主演の染谷将太は、理想を追い求めるあまり危うい選択を重ねていく医師・漆原糾を怪演。正義と悪の境界が曖昧になる過程を、観る者の心に静かに、しかし確実に刻み込む。監督・脚本を務める𠮷田光希は、原作と出会って以来20年にわたり温め続けてきた構想を映像化。穏やかな日常の風景の奥に潜む“説明のつかない不気味さ”を、淡々と、そして容赦なく描き出す。
解禁されたティザービジュアルでは、森に囲まれた芝生の上で、車椅子の高齢者たちが輪になって風船遊びをする光景が俯瞰で捉えられている。一見すると楽園のようなその場には、手足を欠いた人物の姿や、意図的に画数を欠いたタイトルロゴなど、違和感を覚えるディテールが散りばめられている。「この楽園は異常ですか?」というコピーが示す通り、本作は観る者自身の価値観を静かに揺さぶり続ける。
“残酷な禁断療法”なのか、それとも“究極に合理的な介護”なのか。『廃用身』は、避けては通れない老いと死の問題を真正面から突きつける、悪夢のようなヒューマンサスペンスとして幕を開ける。 
■作品情報
タイトル:廃用身(はいようしん)
公開:2026年5月 TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
原作:久坂部羊『廃用身』(幻冬舎文庫)
監督・脚本:𠮷田光希
主演:染谷将太
配給:アークエンタテインメント
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