映画『兄を持ち運べるサイズに』の公開を記念したティーチイン上映会が12月20日、TOHOシネマズ日比谷にて開催され、兄の元妻・加奈子役を演じた満島ひかりと、脚本・監督を務めた中野量太が登壇した。公開4週目にして実現した本イベントは、監督たっての希望で叶った“念願の場”。満席の客席を前に、作品への想いと撮影秘話、そして観客一人一人の声に真摯に耳を傾ける濃密な時間となった。

冒頭、満島は「ティーチインする機会がなかなかないので、今日は色々お話できたらと思います。よろしくお願いいたします」と挨拶。続いて中野監督が「満島さんと二人でティーチインするのは念願でした」と語ると、満島は即座に「好きだと思います! 一人一人とお話したいくらい」と応じ、会場を和ませた。作品と観客をつなぐ“対話の場”への強い想いが、最初の言葉からにじみ出ていた。
ティーチインのトップバッターは、意外にも中野監督自身からの質問。「現場での集中力がすごいが、役づくりのアプローチを教えてほしい」という問いに、満島は自身ならではの脚本読解法を披露する。「まず結末から、登場人物全員の最後のシーンや台詞をさらっと読むんです。そこから頭からじっくり、自分がその場にいるような気持ちで読み直します」。さらに今回は、物語の舞台となる多賀城の街を実際に歩き、風景や空気に身をなじませていったという。その徹底した準備に、監督も驚きの表情を見せていた。
観客からは印象的なシーンについての質問が次々と寄せられた。中でも、良一と骨を拾う場面や「一緒に暮らそう」と語りかける場面について問われると、満島は「どれもとても難しいシーンでした」と率直に振り返る。骨を拾う場面では、日本独特の文化への戸惑いと、母として子どもに教えていいのかという一瞬の葛藤があったことを明かしつつ、「味元くんが良一そのままで立ってくれていたので、一緒に作り上げました」と共演者への信頼を語った。
また「一緒に暮らそう」という場面では、「泣こうと思っていたわけではなかったのですが、彼の顔を見ているだけで涙があふれてきてしまって」と告白。台本を“ゼロ”にして臨む満島の芝居と、子役・味元耀大のまっすぐな感情が交錯した瞬間だったことが伝えられた。
「お芝居をするうえで一番大切にしていることは?」という質問には、満島らしい誠実な言葉が返ってきた。「この仕事は、明日違う仕事になってしまっても仕方ないもの。だからこそ後悔したくない。“昨日まで楽しかったな”と思える役者でいたい」。11歳で初めて映画の現場に立った日の記憶を振り返りながら、「エンタメに触れることで誰かの生活が1ミリでも動く、そのためにかけている人たちがいることに毎回感動する」と語り、「ピュアでいること」を大切にしていると明かした。
本作で印象に残った場面について聞かれると、満島は柴咲コウ、オダギリジョーそれぞれの“映画俳優”としての存在感を称賛。「スクリーンの中で、映画への信頼感が尋常じゃない」と語り、特にオダギリの無防備で優しい表情に強い印象を受けたという。柴咲についても「ありのままで立つ姿が、人生そのものを見せているようだった」と述べ、現場で学んだ大切なものがあったと振り返った。
さらに、オダギリとの撮影エピソードでは、ガウン姿で駅を走るシーンの撮影中、偶然その場に居合わせたという驚きの裏話も披露され、会場は笑いに包まれた。
予定時間を超えるほど盛り上がったティーチインの最後、満島は「もっと皆さんのお話を聞きたかった。本当に良い機会でした」と感謝を述べ、「映画への緊張がほぐれてきた今のタイミングで、この作品と出会えたことが嬉しい」と語った。中野監督も「今までで一番コミュニケーションが取れた現場だった」と自信をにじませ、作品がさらに多くの人の心に届くことへの期待を語り、イベントは大きな拍手の中で幕を閉じた。 



■作品情報
タイトル:『兄を持ち運べるサイズに』
原作:「兄の終い」村井理子(CEメディアハウス刊)
脚本・監督:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大
制作プロダクション:ブリッジヘッド/パイプライン
製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
公開表記:全国公開中
©2025「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

