【映画愛】モノづくりとは初期衝動! カメラを持って外に出たくなる映画5選

映画には「観る」という行為のほかに、「撮る」というもうひとつの楽しみ方があります。そこで、冬休みを使って映画を撮りたくなる作品を5本選んでみました。

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『僕らのミライへ逆回転』

ミシェル・ゴンドリー監督がジャック・ブラックを主演に迎えたハートフル・コメディ。舞台は、とあるレンタルビデオ店。磁気が原因でビデオの中身が消えてしまい慌てた店員と幼なじみが、映画を自分たちで撮り直すという奇想天外なアイデアを思いつきます。
鍋をかぶった『ロボコップ』や本物のマシュマロを登場させる『ゴーストバスターズ』、黒塗り冷蔵庫でモノリスを再現した『2001年宇宙の旅』など、名作旧作を“ハンドメイド”していく2人。好きな映画をリメイクするのは映画好きにとっての憧れですが、彼らはCGも使えなければスターも用意できず、なにしろお金がありません。そんな悪条件の中でも、身の回りのもので創意工夫を楽しむ2人の姿には、大人のコドモ心がくすぐられます。
モノ作りの快感を描くと共に、デジタル技術に頼り切る昨今の映画業界への皮肉など社会的なメッセージも込められた本作。そして、この映画の特筆すべき点は、たった2人で始まった映画作りが、周囲をどんどん巻き込み、街のみんなが映画を撮ることの喜びに目覚めるという町おこしにつながっていくところ。映画に関わるすべての人にとっての「希望」を描いたクライマックスも必見です。

『シング・ストリート 未来へのうた』

『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』に続く、ジョン・カーニー監督の半自伝的作品。物語は、年上のモデル、ラフィナに一目惚れした14歳の少年コナーが、彼女と仲良くなるために「僕のバンドのミュージックビデオに出ない?」とウソをつくところから始まります。慌てて同級生たちとバンドを結成した彼が、ラフィナを迎えて初めて作ったミュージックビデオが「The Riddle of the Model(モデルの謎)」。メンバーの衣装は家から有り合わせのものを持ち寄ってきているため統一感ゼロだし、撮影も家庭用のビデオカメラでピントもずれまくり。でもその絶妙なダサさが図らずも80年代のMVをリアルに再現していて、劇場ではあちこちから笑いが起きていました。とはいえ、自己流ながらも奮闘する彼らを見ていると、「自分のやりたいことって何だっただろう?」と忘れかけていた初期衝動を思い出します。
そして、最初は年上のラフィナに振り向いてもらうために背伸びしていたコナーが、“等身大の歌”を身につけていく成長過程や彼を取り巻く人たちのドラマも必見。詳しくはネタバレになりますが、後半、ラフィナの“輝いていた頃の私にもう一度戻って♪”な竹内まりや的展開もたまりません! そしてコナーの年の離れた兄で音楽オタクのブレンダンは、もう一人の主人公だと言っても過言ではないほどの存在感。どこか飄々としていた彼が、ためていた思いを爆発させるシーンは、長男長女のみなさんは特に心を揺さぶられるはず。

『ぼくとアールと彼女のさよなら』

2015年サンダンス映画祭でグランプリと観客賞をW受賞した青春ドラマ。気の合う同級生アールとパロディ映画製作を楽しむ高校生グレッグ。そんなある日、幼なじみで今は疎遠になっていたレイチェルが白血病になったことを知ったグレッグはアールを誘い、彼女を励ますべく映画作りに乗り出します。
難病を扱いながらも決してお涙頂戴ではない明るさは、2015年のヒット作『きっと、星のせいじゃない』を連想させますが、本作はさらにコミカル。グレッグの心情をストップモーションアニメで表現した映像的な仕掛けもあり、“泣ける難病映画”の常識を覆す作品です。
そして、グレッグとアールは『桐島、部活やめるってよ』の神木隆之介&前野朋哉を思い出さずにはいられない、冴えない映画オタク。2人がこれまでリメイクしてきたのは、『めまい』や『羅生門』、『勝手にしやがれ』、『時計じかけのオレンジ』『ブルー・ベルベット』など、これまたシブい名作映画の数々です。
そんなパロディ映画を作り続けてきたグレッグたちが、レイチェルのために完成させた映画とはどんなものなのかは観てのお楽しみ。そして、こんなにも映画愛の詰まった作品が日本未公開だったことには驚かされるばかりです。

『映画に愛をこめて アメリカの夜』

監督や俳優、撮影、照明、録音、美術などなど、たくさんのプロフェッショナルが携わる映画の撮影現場。仕事柄、何度か現場見学をしたことがありますが、それぞれプライドを持ちながらひとつのシーンを作り上げていく姿は、それだけで一本の映画になるような感動があります。ただ一方で、予期せぬアクシデントやトラブルも撮影にはつきもの。フランソワ・トリュフォー監督の『映画に愛をこめて アメリカの夜』で描かれる映画の現場は、とにかく問題が山積みです。ノイローゼ気味の主演女優や神経質すぎる男優など俳優陣はクセモノだらけだし、現像前のフィルムが使えなくなるなど、撮影は一向に終わりません。舞台裏は手持ちカメラで撮られている上、トリュフォー自身が監督役を演じているため、観ている側はまるでドキュメンタリーを観ているかのような錯覚に陥ります。
「映画の撮影は、いわば西部の駅馬車の旅に似ている。美しい夢にあふれた旅を期待して出発するが、すぐ期待は失せ、目的地に到達できるかどうかさえ心配になってくる」というセリフが象徴するように、映画作りは前途多難。それでも映画の魅力に取り憑かれ“旅”を続ける俳優やスタッフたちの思いを焼き付けた、映画愛あふれる作品です。

『キツツキと雨』

日本にも撮影現場で繰り広げられる騒動を描いた映画があります。沖田修一監督がメガホンをとり、役所広司、小栗旬が共演した『キツツキと雨』。静かな山村を舞台に、武骨な60歳の木こり・克彦と新人の映画監督・幸一が、映画撮影を通して絆を深めていく姿をコミカルに描きます。
ゾンビ映画『UTOPIA〜ゾンビ大戦争〜』を何とか完成させようとする幸一ですが、自分より経験のあるスタッフをまとめきれずにオロオロしたり、ラッシュ(撮影した状態そのままの映像のこと)を見て出来の悪さに自信をなくしたりと、映画作りの洗礼を受けます。一方、克彦はひょんなことからゾンビ役でエキストラ出演したことをきっかけに、映画にのめり込んでいきます。特に、克彦が超脇役ながらも自分の映ったシーンを観てニヤニヤする場面には思わずほっこり。映画でもホームビデオでも、“映像に映った経験のある人”なら誰しも共感するシーンなのではないでしょうか。
そうして年齢も境遇も経験も違う人たちが一緒になってモノを作る幸せな時間が描かれ、村人たち総出で挑む撮影最終日の現場は、観ているこちらも思わず手伝いたくなるほどの一体感!(平井万里子)