【ご当地映画】福岡県の“光と闇”をとらえた映画5選

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宮崎出身で福岡の大学に通っていた平川です。九州出身の方はお分かりかと思いますが、とりあえず「行けばなんとかなる!」と思わせてくれる街、それが福岡です。
福岡と言えば、博多。とんこつラーメンやもつ鍋、屋台などの食文化が有名で、全国魅力度ランキングでも毎年トップ10に入るほど、とても活気に満ちた街ですね。
そんな博多の華やかなイメージが取り上げられることの多い福岡ですが、まだまだ知られていない側面もあるんです。
そこで福岡に約6年間住んでいた私が、福岡の“光と闇”を描いた5作品を選んでみました。

『悪人』

2016年に公開された『怒り』でも豪華役者陣の演技が話題となった李相日監督が2010年に手がけた作品。主役の祐一を演じた妻夫木聡はこれまでの爽やか青年のイメージから脱却し、心の奥底に闇を抱えた繊細な青年を演じたことで俳優としての地位を確立させ、日本アカデミー賞主演男優賞を受賞しました。
『悪人』の主なロケ地となったのは、福岡と佐賀です。深津絵里が佐賀のちょっと地味な紳士服店員、光代を演じています。私は佐賀にも少し住んでいたことがあるんですが、ああいう素朴な人が多いんですよね、佐賀って。今の生活に不満はないけど何か物足りなさを感じている光代ですが、祐一と出会うことで、今まで抱いたことがない感情を祐一に抱きます。そんなある日、ある事件が原因でその感情が揺れ動く光代の心情描写を深津絵里がリアルに演じています。
祐一と光代が初めて出会うシーンが撮影されたのは全佐賀県民に馴染みがあるであろう、佐賀駅のロータリーです。駅の周りには何もないので、そこに人気俳優の2人が来ていたと想像するだけで興奮した佐賀県民は多いでしょう。そして回想シーンの前に挿入されるのが、佐賀名物・呼子のイカの目のズームアップ。あのシーンが撮影されたのは、ゲソの踊り食いが名物の「いか本家」です。呼子のイカは身が透き通るほど新鮮で口に入れた瞬間吸盤が吸い付くほど。佐賀に立ち寄った際には是非行かれることをオススメします!
そして、佐賀のシーンとは変わって、福岡のシーンではおしゃれなカフェや町並みが多く出てきます。岡田将生扮する圭吾のようなチャラついた大学生が多いのも福岡のイメージ通り。この作品の肝は、誰が“悪人”なのかということ。地味で素朴な地方=佐賀と華やかな都市=福岡との対比に注目しながら観るとより楽しめると思います。

『おっぱいバレー』

“おっぱいが見たい”―――そう、それだけなんです。この映画のテーマって。ちょっと言いすぎかもしれませんが、男子中学生の頭の中なんてほんとにそんなもんでして。そんな弱小男子バレーボール部が一念発起して優勝を目指す青春コメディです。
原作の舞台は静岡ですが、映画版は福岡県北九州市でほぼ撮影されています。北九州は“門司港レトロ”などの古い歴史が残る街として有名。映画の時代設定が1979年ということもあり、ロケ地に選ばれたそうです。私も福岡にいた頃に門司港で焼きカレーをよく食べた思い出があります。
本作の一番の肝となる“おっぱい”という神聖なシンボルを綾瀬はるかが演じています。多感な男子中学生がおっぱいを拝みたくなるようなエロスをもちつつ、健康的で女性からも好かれるヒロインを演じられる希有な女優さん。あんなにおっぱいを連呼しても全くいやらしく感じないのも彼女のコメディエンヌとしての才能のおかげかも。
ちなみに私が福岡の映画館でアルバイトをしていた時にちょうどこの映画が公開されていました。チケットを購入するお客さんとのタイトル確認作業が恥ずかしすぎて地獄だったのも今ではいい思い出です。

『ロッカーズ ROCKERS』

福岡出身の俳優、陣内孝則が1998年に書いた自伝的小説「アメイジング・グレイス」をもとに映画化。今の若い人たちは、陣内孝則が1970年代にロックバンドのボーカルだったことを知らない人も多いのでは。当時はバンドブームだったこともあり、めんたいロックバンドとして伝説的な人気を誇っていたそうです。
見どころはなんといっても、豪華キャスト陣による迫力のライブシーン! 中村俊介、玉木宏、岡田義徳、佐藤隆太、塚本隆史が実際に楽器を演奏しています。特に玉木宏のギター演奏は未経験者とは思えないほどクールです。彼は本作をきっかけにミュージシャン活動も始めたとか。
そして、この映画は主人公が走るシーンが多く、福岡の名所がたびたび登場します。例えば、私も学生時代近くに住んでいた西新商店街や、毎年7月に行われる博多祇園山笠で有名な櫛田神社など。ふんどしをつけた屈強な男たちが、「オイサ!オイサ!」と掛け声を発しながら神輿をぶつけ合う山笠はまさに圧巻です。ちなみに、神輿に興味がないという人も、梅ヶ枝餅というお団子が絶品なので福岡に行く機会があれば是非!

『サッド ヴァケイション』

青山真治監督による“北九州サーガ三部作”の最終章。中国からの密航者を手引きする男、健次を中心に、過去に“なにか”を抱える人々が北九州という地で生きる様を描いています。
突然ですが、みなさん、北九州にはどんなイメージをもっていますでしょうか? 私はこの映画を観るまで、正直、あまりいいイメージをもっていませんでした。成人式は毎年荒れるし、口調が強い人が多いし。『サッド ヴァケイション』には、北九州独特の鬱屈とした空気や、運命に翻弄されるアウトローたちの息遣いが色濃く反映されていますが、同時に、そんなアウトローたちを優しく包み込む女性たちのドラマも綴られていきます。まさに本作は、“闇”を通して、“光”の尊さを浮き彫りにした映画。行き場を求めてもがき続ける登場人物たちに自然と愛着や親しみが沸き、“なにか”を感じられる作品です。
そして、北九州出身なだけあって光石研の北九州弁のリアリティもさすがです。間違っても現実で光石研のような人に怒鳴られたくないですね。しかし北九州には独特の哀愁があり、愛情深さゆえの照れ隠しで自分を必要以上に大きく見せようとしたり、自分を守るための口調の強さなのかなと思わせてくれた映画でもあります。

『僕達急行 A列車で行こう』

今は亡き森田芳光監督の遺作となった本作。森田監督のことを恩師として慕っていた北川景子が告別式で号泣していた光景には胸を打たれた思い出があります。
自身も鉄道オタクの森田監督が30年以上温めていた企画なだけあり、20路線80モデルの車両が登場する本作は、鉄道オタクにはたまらない映画となっています。私が思う本作の魅力は、松山ケンイチと瑛太の醸し出すゆる~い雰囲気です。二人とも“鉄道オタクで恋に奥手”という共通点があり、とあるきっかけで意気投合します。とにかく二人の距離感が絶妙で、互いに尊重し合う関係が微笑ましくてたまりません。失恋した瑛太に松山ケンイチがイチゴミルクを作って慰めてあげるシーンでは、二人とも付き合えばいいのに!とさえ思ってしまいました。
そして九州各地の車窓から見える田舎風景も見どころの一つです。今まで電車から見える風景を気にしていなかった私ですが、今度宮崎に帰郷する時は、列車でのんびり景色を見ながら帰ろうかなと思わせてくれました。本作をきっかけに、青春18きっぷで九州一周の旅、なんていかがでしょうか?(平川智一)