岸井ゆきの「“愛”という答えがないものへ向かって監督と一緒に迷子に」『愛がなんだ』第31回東京国際映画祭ワールドプレミア上映 レポート

『空中庭園』『八日目の蝉』『紙の月』など数々の著作が映画化されてきた直木賞作家の角田光代が、2006年に発表した同名恋愛小説の映画化となる『愛がなんだ』が、2019年春に公開となる。このほど、10月28日にTOHO シネマズ六本木ヒルズにて、第31回東京国際映画祭のコンペティション部門に選出された本作のワールドプレミア上映が行われ、キャストの岸井ゆきの、若葉竜也、今泉力也監督が登壇した。

■記者会見(登壇者:岸井ゆきの、今泉力也監督)
Q:主人公・テルコとの共通点は?実生活での片思いの際は、どうされていますか?

岸井:ヒトやモノに対して一直線になるところがあり、そこがテルコと似ていると思います。実際に好きな人ができた時は、もう如何に自分をバカにするというか「好き好き!」みたいな(笑)。ちょっとふざけたくらいの気持ちで向かっていってしまったりするのかな!?って思います。

Q:監督ご自身の片想いの心情などは映画のシーンに入っていますか?

今泉監督:今は結婚していますが、恋人がいなかったり、片思いの時期も結構ありまして。恋人がいる人、結婚している人が50%ずつ想いあっている、ということは未だに無いと思っています、嫉妬も込めてですけど(笑)。ですので、「想いの差」というのにずっと興味があって、片思いはその一つの形だと思います。

Q:原作の中から映画に向いている部分を抽出したのでしょうか?それとも、映画ならではの視点を後から加えていったのでしょうか?

今泉監督:まず、原作の魅力を忠実に映像化していこうと思いました。ただ、映像ならではの表現をする必要があると思っており、そのために付け加えたエピソードや、少し原作のストーリーをアレンジした箇所もあります。あと、原作は1人称なんですが、その魅力を映画でどう表現したら良いか迷いました。ナレーションを入れすぎると説明が多くなりすぎますし、そのバランスを調整するのが難しかったです。あと、映画の魅力は役者・登場人物の魅力が伝わることだと思っているので、そのために、カット割りを少なくしています。カットを長くする分だけ、見る人にとっての「選択の豊かさ」に繋がると思っているので、出来る限り作り手側の手が加わらないように、意識して長回しを多用している部分はありますね。

Q:撮影中の雰囲気作りはどういったことを意識されましたか?

今泉監督:自分の中で決めてしまわずに、一度役者さんに演じてもらって、いろんな可能性やアイデアを閉ざさないように役者さんと相談しながら進めました。あと、よく温度の話をしていましたね。「もうちょっと好き度をあげてほしい」とか。

岸井:最初の頃は監督に「答え」を求めにいってしまっていたんですけど、そうじゃないなと。監督と一緒に悩んで、そして、そういった戸惑いや迷いこそが主人公のテルコなんだなと。「愛」って答えがないものなので、そこに向かって一緒に迷子になっていきながら「テルコ」を作っていけたのはすごく良かったなと、思います。

■舞台挨拶(登壇者:岸井ゆきの、若葉竜也、今泉力也監督)
Q:これまでオリジナル作品を手がけられることが多かったと思いますが、今回、原作がある物語を映画化するにあたって、何かいつもと違う心構えはありましたか?

今泉監督:プロデューサーからこの原作を映画化の話を頂いてから、実際に原作を読んだときに僕がこれまでオリジナルで描いていた「片想い」や「想いの差」の形ととても近いと思いましたし、なぜ僕に話が来たのかも理解できました。ですので、ぜひやりたいとお返事をしました。あと、これまで自分が作っていた作品は恋愛に対して温度が低い人たちが多かったのですが、今回はとても温度が高く、想いが強い人たちが多くて。そこは原作がある作品ならではかと思っていまして、一緒にやれてとても良かったと思います。

Q:岸井さんはなんと4年連続で東京国際映画祭に参加頂いています!本作はとても強い愛を貫く女性を描いた作品なのですが、この役へのアプローチはどのように取り組まれましたか?

岸井:主人公のテルコは自己犠牲をしてまで好きな人に向かっていってしまう女性でして、ほんとすごいなと。でも演じるに当たって自分に重ねてみると「自分にもこういうところあるかもしれない」と。例えば、好きなものに向かっていく強さというか。そういう部分を自分に重ね合わせながら、テルコを作っていった部分があります。

Q:今泉組へは初めての参加ですね。どういった経緯で参加されたのでしょうか?

若葉:ぜひ、前から今泉監督の作品に参加したいと思っていた中、お話を頂いたので本当に光栄でした。

Q:今泉さんは、どんな監督でしたか?

若葉:本編見たら、きっとどんな監督かわかってもらえると思うんですけど。ほんと、今泉さんが作り上げた映画だなと。原作はあるけれども、ちゃんと今泉さんのカラーが出てて素晴らしいです。

Q:最後に一言お願いします。

今泉監督:映画は芸術という側面もありつつ、社会的なことを知れて、あと、世界の映画を見ることでその地域を知ったりできるとも思っています。本作はすごく個人的な、一人の女性の恋愛を軸にしたストーリーではありますが、これも一つの社会や世界を描いているとも思っています。ぜひ楽しんでください。

『愛がなんだ』
2019年春 テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織 今泉力哉
出演:岸井ゆきの 成田凌 深川麻衣 若葉竜也 片岡礼子 筒井真理子 江口のりこ
配給:エレファントハウス

【ストーリー】 28歳のOLテルコは、一目ぼれしたマモルに想いを寄せている。自分の時間のすべてをマモルに捧げ、その結果、仕事を失いかけても、親友に冷たい目で見られても、マモルがいてくれるならテルコはこの上なく幸せだと思っている。けれど、マモルにとって、テルコはただ都合のいい女でしかない。そのことをわかっているテルコは今の関係を保つことに必死で自分からは一切連絡をしないし、決して「好き」とは伝えない。しかし、そんなある日、マモルからの連絡が突然途絶えてしまう…。3ヶ月が経ったころ、マモルから急に電話がかかってきて、会いにいくと、彼の隣には年上の女性、すみれがいた…。

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