玄理&映画解説者の中井圭が登壇!『寝ても覚めても』一般試写会トークショー レポート

東出昌大と濱口竜介監督がタッグを組み、芥川賞作家の柴崎友香による同名恋愛小説を映画化した『寝ても覚めても』が9月1日に公開となる。このほど、8月27日にアンスティチュ・フランセ東京にて一般試写会トークショーが行われ、濱口監督の『天国はまだ遠い』(2016)に出演した女優の玄理、映画解説者の中井圭が登壇した。

イベントの冒頭、午後6時半からの試写会上映中に、漫画家のさくらももこの訃報が報じられたことに中井が言及。「とても驚き、悲しいこと。人の人生は色々なことが突然起こるもの」と哀悼の意を示した。その上で、「『寝ても覚めても』もまた、そういうお話しの一つなのでは」と話し始めた。

本作は、同じ顔をした二人の男性とその間で揺れ動く一人の女性の約8年にわたる恋と人生の物語。中井は、「好きだった人に瓜二つの人に出会う、“何を持って人を好きになるのか”というのがこの作品の一つのテーマになっているが、深層には別のテーマがあるんじゃないかと思うんですよ。朝子は朴訥とした普通の女の子だけれど、日常が崩れる瞬間がある。それは麦に会ったことと、さらにその後に麦にそっくりな亮平という男性に会ったこと。もうそれだけで日常が非日常になるんですよ。日常の中の非日常性を描くことで、濱口監督は“いつもと変わらない明日が来る、それって普通なことだと思いますか?”と作品を通して見る人に問うていると思うんですよね」と、恋だけではない、人生についても描かれていることをアピールした。

トークゲストとして、濱口監督を知るスペシャルなゲスト、女優の玄理も登壇。玄理は濱口監督の過去作『天国はまだ遠い』に出演し、過去に姉を殺傷事件で亡くし、姉の関係者を訪ねドキュメンタリーを撮ろうとする才女を繊細に演じている。「通常の撮影だと、現場に入るまでに家で一人でセリフを頭に入れてくるんですね。その上で現場に行く。だけど、濱口監督のやり方は、事前に出演者で頭を寄せ合って、出演者同士対面してインタビュー形式のやり取りをするんですよ。それを全部録音していて、また聞き直す。何度かそれを繰り返して、自分とも役柄とも思えるような言葉を組み立てていくんです。『このセリフ、私自身でも言いそうだな』と思う場面があって、それがキャラクターの深みになっているというか」と話した。中井が「インタビューを通して役を深掘りしていく方法なんだね。他の監督はどうなの?」と問いかけると、玄理は「濱口監督の現場は今まで経験したことのない現場でした。今もまだ、影響を受けている部分があります。『寝ても覚めても』のインタビューを見ると東出くんはそれを“濱口メソッド”って言ってますね。他にない演出法でした」と、他のどの監督とも違う、濱口監督の独特な演出法について解説した。

どのようにその演出法は生み出されたのか。「濱口監督って実は東大卒なんですよ!東大出て、藝大出て、実はその後ハーバード大学にも留学してて!一体どこに向かってるのか!ビックリしちゃいますよね」と玄理。中井もそれに合わせるように「そうそう、藝大の時は黒沢清門下で、画面に非常にこだわるんですよね。そして、画面にこだわると同時に、人間を撮ることにこだわってるんですよね。右脳と左脳両方使って映画を作っている人なんです。東出さんのインタビューを読んで、『演じ分けようとする必要はない』と濱口監督に言われたそうなんです。人間を表面的に演じるのではなく、カメラをもって、真に人間の内側を撮ることに長けているんだと思いました」と濱口監督こだわりの映画作りについて、身をもって体験した玄理と分析した中井、それぞれが濱口監督の魅力を語った。

ヒロイン朝子の取った衝撃的な行動について話は及び、「唐田さん可愛かった!!さっき中井さん、朴訥としてるって言ったけど、そんな見た目の彼女からは想像つかない行動に出る。こういうギャップに男の人は惚れちゃうんじゃないかな、朝子って男の人にモテると思う!」と玄理。それに対し、中井も「いやぁ~かわいかった…。でも正直朝子はエキセントリックだとも思う。もし同じことを自分がされらたらもう!そりゃ傷つきますよ!でも傷つきながらも許してしまうのかなー。いやぁ、これどうなんだろ?」と述べ、試写に参加した人も巻き込み、朝子の行動を許すか許さないか、東出演じる二役の亮平派か麦派か、と議論が勃発。この日会場に来た方々の中で、男性は朝子を許す派が意外にも多かった。そして、誠実な亮平か、自由人な麦どちらがいいかという質問に対しては、亮平を選ぶ女性が圧倒的に多かった。「この作品、まだ公開されてないから、観ている人も少ないんですけど、観終わった直後から、もう誰かと話したくて仕方なかったんですよ!」と興奮気味に玄理。中井はというと、意外にも朝子を許す男性が多かったことに「心が広い!」と称賛。「『寝ても覚めても』は、今までにどんな恋愛や人生を送ってきたかで、観る人それぞれに感想が違ってくると思う。正しいことをすることが、正しい行いなのか。偽りが、全て悪いことに繋がるのか、それも人それぞれ。この映画の中でイプセン原作の『野鴨』が出てくるんですけど、この演劇のテーマって“真実の探求とは人を幸せにすることなのか”ということなんですが、まさにこの舞台が始まろうとする時にあることが起きる。その後の亮平の行動や、瀬戸康史さんと山下リオさん演じる串橋とマヤのケンカシーンとか、その行動が意味するものにも注目して観てほしいです」と語った。

最後に中井は「今『カメラを止めるな!』が流行っていて、万人が面白いと言っている。それもまたいいことだけど、本当に強い作品は賛否分かれて摩擦を起こすんです。『寝ても覚めても』はそんな映画」と締めくくった。

『寝ても覚めても』
9月1日(土) テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督:濱口竜介
原作:柴崎友香「寝ても覚めても」(河出書房新社刊)
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「River」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
出演:東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知 仲本工事 田中美佐子
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス

【ストーリー】 東京。カフェで働く朝子は、コーヒーを届けに行った先の会社で亮平と出会う。真っ直ぐに想いを伝えてくれる亮平に戸惑いながらも朝子は惹かれていき、ふたりは仲を深めていく。しかし、朝子には亮平には告げていない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦(バク)に顔がそっくりだったのだー。

©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS