辛酸なめ子とよしろまさみちが登壇!『正しい日 間違えた日』公開記念トークショー レポート

ベルリン、カンヌ国際映画祭など世界で注目を集める名匠ホン・サンスと女優キム・ミニの初タッグ作『正しい日 間違えた日』が、6月30日に公開初日を迎え、同日、ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開記念トークショーが行われ、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子と映画ライターのよしろまさみちが登壇した。

世界的名匠ホン・サンスが、公私共にパートナーの女優、キム・ミニと初めてタッグを組んだ記念碑的作品『正しい日 間違えた日』は、運命的に出逢った男女が、あるタイミングの違いによってまったく違うラストにたどり着くまでを二部構成で描いた新感覚ラブコメディ。

大きな拍手で迎えられた辛酸なめ子とよしひろまさみち。まず、よしひろに、この映画の感想を求められた辛酸は、「美女を落とすには、こうしたらいいんだよという、一言でいうと“恋愛テクニックを教えてくれる映画”」と解説。実は本作、同じ登場人物で同じ物語が【第一部】と【第二部】として2度繰り返されるユニークな設定。登場人物たちは「こうしていたら」の選択やタイミングの違いで、異なる2つの結末にたどりつく。まさに恋愛テクニックが試される、恋愛ロールプレイングゲームのような映画だ。一方のよしひろは「同じ話がまた始まったから、うちのDVDデッキが壊れたのかと思った」といって会場の笑いを誘った。

また辛酸は、キム・ミニ演じるヒロインについて「女性には嫌われるタイプだけど、モテる女というのはこういうものというのが良くわかる。いつも口が半開きです」と辛酸節を炸裂。これに対し、よしひろは「今日驚いたのは男性客の多さ!やはりキム・ミニ目当てなのかしら」と会場を見渡した。この主演女優キム・ミニといえば、ホン・サンス監督とこれまでに5作品でタッグを組み、プライベートでも恋人同士であることを公言して一大スキャンダルとなった。監督は現在離婚訴訟の真っ只中だ。よしひろは「ホン・サンスはこれまでもわりと下がゆるい人だったけど、今度ばかりは本気っぽい。さすがにこれだけ何作品も一緒に撮られたら、奥さんからしたら旦那を奪われている!と思いますよね。キム・ミニは大ヒット作『お嬢さん』の演技をみていると本当にすごい女優さんだと思うけど、特にホン・サンス監督の映画の中ではカメレオンのようで、なんでもやっちゃう。そりゃあ、落ちちゃうよね」と、熱愛に至った経緯を考察。辛酸は「自分色に染まってくれるということですものね」と続けた。

脚本を用意しないことでも有名なホン・サンス監督。そのスタイルについてよしひろは「是枝監督の子役の扱いのようなもの」と、今最も注目を集める『万引き家族』を引き合いに出して解説すると、映画ファンの集まる会場は興味津々に。「以前ホン・サンス映画に出演した加瀬亮さんが、現場がこれ以上ないくらいに楽しいと言っていたが、ホン・サンスのスタイルは役者としたら楽しいのでしょう。自由に演じさせてくれて、良いところで止めてくれる。演じるのが好きな役者にしてみたら最高の現場ですよね」と解説した。

「そんなに楽しい現場だから、イザベル・ユペールみたいな大女優もホン・サンス映画に出たがるのですね」という辛酸。7月14日に公開を控えるホン・サンス監督×キム・ミニ作品『クレアのカメラ』には、『エル ELLE』でアカデミー賞ほか世界の映画賞を席巻し、フランスの至宝と呼ばれる大女優イザベル・ユペールが出演している。この『クレアのカメラ』は、ホン・サンス、キム・ミニ、ユペールがそれぞれ別の作品でカンヌに来ていて、その滞在中に撮影された。そんな撮影背景について、よしひろは「カンヌ映画祭期間中に映画撮っちゃうなんてありえない!今年は是枝監督で注目を集めたカンヌ映画祭は、数ある映画祭の中でも最も世界中からたくさんの映画関係者、お偉いさんが集まる映画祭。小さな街で開催されているし、そんなところでゲリラ撮影なんかしたら、誰が映り込んじゃうかわからないわけです。そんな危険なことでも、ホン・サンスは“まいっか”って撮っちゃう(笑)」。それを聞いた辛酸は驚きながら「それこそお偉い映画関係者と愛人が映り込んでる、なんてこともありそうですよね」と続けた。映画関係者とその愛人…『クレアのカメラ』こそ、そういう話なのだ。

『正しい日 間違えた日』に話は戻り、「これはタラレバについての映画」とよしひろ。辛酸に自身のタラレバについて尋ねると、「この映画を観て、自分の人生のタラレバを考えたんですが、恋愛のタラレバは全く思いつかず、思い出されたのは『あの時なんで銀行の外貨預金に契約しちゃったんだろう』ってことでした」と再び辛酸節を炸裂させ、会場は爆笑。一方よしひろは「自分の恋愛のタラレバではなく、『ラブ・アクチュアリー』という恋愛映画を思い出してしまいました。恋って結局タイミングでしかなく、タイミングさえ合ってしまえばタイプじゃなくても好きになって、結果その人が運命の人となってしまう。逆に、運命の人でもタイミングを逸してしまうと結ばれることはないですよね」と映画ライターならではの視点で語った。これに辛酸は頷きながら「あとは自分の体調も影響しますよね。体調が良いと相手が素敵に見えて、体調が悪いと相手が気持ち悪く見えることもあります」と続けると、よしひろは「その通りですね。この映画の中でも、第一部、第二部それぞれ同じ設定でお酒を飲むシーンがあるんですが、酔っぱらい方が全然違う。是非そこに注目してください」と、映画の見所を語った。

主人公が映画監督であることの多いホン・サンス作品。これをよしひろは、「登場人物に監督自身を投影するウディ・アレン方式」と例える。また「ホン・サンス映画には脚本がなく、いつも3行くらいのプロットだけを見せて出資を募るそうなのですが、それではなかなか集まらない。なのでどこかで腹をくくってある種自主映画的に撮っているからなんとか作れている」とホン・サンス映画の製作裏話を披露した。これを聞いた辛酸は、「でも本人が投影されている監督がすごく褒められるじゃないですか。有名というだけでは言い足りないですね…みたいなことを言われたりして。それってどういうことですか」と疑問を投げると、「自己顕示欲ですよ~」とよしひろ。一方で、「これまで数々のイケメン俳優と付き合ってきたキム・ミニが、なんでホン・サンスと?と思うんですが、俳優を立てて立てて、俳優の才能に頼って頼ってという監督なので、キム・ミニに『私がいないきゃ!』って思わせたんでしょうね」とも語った。辛酸は「キム・ミニは、ホン・サンスのミューズとして生きたいと思ったんでしょうね…」とホン・サンスとキム・ミニの運命の出逢いに感慨深い表情を浮かべていた。

最後によしひろは「『正しい日 間違えた日』を観ると、ホン・サンスとキム・ミニがどう惹かれ合っていったかが良く分かります。キム・ミニがすごく可愛く撮れているんです。それから、これまでのホン・サンス作品には起承転結がなく、オチもあまりないというものが多かったのですが、『正しい日 間違えた日』はしっかり物語になっているんです。これまでのホン・サンスっぽくない。それもキム・ミニがいかに特別かを物語ってますよね」と締めくくった。辛酸はこれから映画を観るお客さんに向けて、「この映画、雪が降っているシーンが出てくるんですけど、今日はとても暑いので、映画で体感を冷やしてください」という独特すぎるコメントで再び笑いを誘いトークは終了した。

『正しい日 間違えた日』
6月30日よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
監督・脚本:ホン・サンス
出演:チョン・ジェヨン キム・ミニ コ・アソン チェ・ファジョン ソ・ヨンファ ユン・ヨジョン
配給:クレストインターナショナル

【ストーリー】 予定より一日早く水原(スヲン)に到着してしまった映画監督のチュンス(チョン・ジェヨン)は、時間をつぶすために立ち寄った観光名所で、魅力的な女性ヒジョン(キム・ミニ)に出会う。二人はコーヒーを飲み、人生について語らい、お酒も入ってほろ酔い加減でいい雰囲気になるのだが…。

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