学生からRBSSメンバーへインタビュー『ラッカは静かに虐殺されている』先行上映トークイベント in 早稲田大学 レポート

シリア内戦で秘密裡に結成された市民ジャーナリスト集団「RBSS」(Raqqa is being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)と「イスラム国」(IS)とのSNSを駆使した情報戦を、壮絶な緊迫感で捉えたドキュメンタリー映画『ラッカは静かに虐殺されている』が4月14日より公開となる。それに先だち、4月6日に早稲田大学 早稲田キャンパスにて本作の上映とトークイベントが行われ、早稲田大学政治経済学術院・ジャーナリズム大学院教授の野中章弘、シリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュが登壇し、RBSSメンバーのハッサン(Hussam Eesa)がSkype中継で登場した。

上映とトークイベントは、早稲田大学の「ドキュメンタリー論」授業内で行われ、上映後は、本作の主人公でRBSSメンバーのハッサンがSkype中継でインタビューに応じ、学生たちからの質問に答えた。また、インタビューを終えた後、本作の監修にも参加したシリア人ジャーナリストのナジーブ・エルカシュがシリアの現状を解説した。

学生とハッサンによるQ&A

Q:RBSSのメンバーは映画の中でISから殺害予告などの脅迫を受け、トルコやドイツなどの国外にいても常に命を狙われています。そういったリスクを背負いながら実名と顔を公表して活動をされていますが、メンバーの中から顔と名前を公表することについて反対する意見はありましたか?

ハッサン:RBSSの中から特に大きな反対意見はあがりませんでした。活動当初はアラビア語で情報を発信していたのですが、国際社会・世界にIS支配下のラッカの悲惨な状況を伝えるためには何が必要かと議論する中で、英語で情報を発信することや、フェイクニュースではないか?ISの活動の一つではないか?という外から聞こえる声を打開するためにシリアから出て活動をするメンバーが顔と実名を公表するという結論に至ったのです。ただ、顔と実名を明らかにすることは、公表したメンバーの命だけではなく、ラッカの中に残っている家族の命が狙われるという大きなリスクを伴うものです。実際に映画の中でも映像が出ていますが、ISはRBSSのメンバーのハムードの父親を拘束・殺害し、後にその映像を公開しています。更に彼の兄弟の一人も殺害され、もう一人は行方不明になっています。これが、実名と顔を公表しての活動をするうえでの一番のたいへん大きな悩みです。

Q:RBSSの活動をやめればISから命を狙われる危険性はなくなると思われますが、活動をやめない理由を教えてください。

ハッサン:活動をやめれば命が狙われないという事はありません。ISはRBSSがISについての報道を始めた2014年の春、メンバーの一人を誘拐・殺害しました。そこから現在に至るまでわたしたちRBSSのメンバーの命を狙いつづけています。そして、米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落し、いわば彼らに敗北したISの復讐の矛先は、わたしたち(RBSS)のような弱い集団に向かっているのです。

Q:SNSの発信に対する反応で印象に残っているものがあったら教えてください。

ハッサン:印象に残っている反応のひとつは、ISに入った兵士のお母さんとのやり取りです。「家庭の中にISに通じるような背景が全くないのに、自分の息子がなぜISに洗脳されてしまったのか分からないけれども、おそらく息子が人を殺してしまったかもしれない」と泣きながら感情的に謝罪してきました。彼女とのやり取りが非常に印象に残っています。

Q:RBSSの情報を受け取った日本人に何を望みますか?

ハッサン:とても簡単なことです。ISの思想との闘いに参加してほしいと思っています。ISの思想との闘いは私たちシリア人だけの問題ではなく、全人類の問題です。シリア人もあなたたち日本人も同じ人間なのです。私たちは、見ていただいたように、ひどく残酷な状況の中で活動することができました。あなたたちには私達よりもっとたくさん行動する手段があると思います。例えば私たちのようなジャーナリスト団体と交流するなど、日本社会の中でも、一人一人の人間を大切にしない思想と戦うことが大事だと思います。

Q:RBSSの目指すゴール、何が終焉なのか教えてください。

ハッサン:私たちの活動の目的はシリアという国家の民主化です。RBSSの活動の原点はシリア革命にあります。2011年の春、ラッカではアサド政権の退陣を求める市民デモがはじまり、アサド政権は軍・治安部隊を出動させてデモ隊を弾圧したのです。わたしたちはアサド政権及びシリア政府による弾圧に抵抗し「自由と民主主義」のために活動をはじめたのです。現在も「自由と民主主義」という目的に変わりはありません。ISがラッカに入ったときも、たしかにISのやり方は宗教に忠誠的であるなど手段は独特でしたが、アクターが独裁政権からISに変わっただけで、町が破壊されているという事に変わりはありませんでした。私たちにとってラッカは家族がいる町ですから、その町を守るという事については何も違いがないのです。

Q:シリアの現状と展望を教えてください。

ハッサン:皆さんご存知の通り、たくさんの国が介入しているため、第三次世界大戦のような状況です。シリアの内戦は代理戦争であるため、たくさんの国家が参加しており、複雑な状況です。そのため、すぐに解決するとは思いません。現在の段階では希望が見えません。2017年10月に米軍・有志連合の空爆援護を受けたクルド人主導のシリア民主軍(SDF)がラッカを陥落させISが撤退しましたが、現在のラッカは市民に主食のパンが潤沢にいきわたらなかったり、ISが残した地雷による二次被害が多発、また瓦礫の中に埋まっている死体が腐敗し感染症が蔓延するなど衛生状況は劣悪な環境にあります。また暗殺も続いていて、この暗殺が誰による暗殺なのか分からず、人々は誰に監視されているのか不安な状況で生活しています。また、教育も大きな問題です。ISに占拠されていた間、彼らはまともな教育を受けていないのです。ですから、私たちは現在、若手講師の教育プロジェクトなどの形でラッカのコミュニティを支援する手段を考えています。

『ラッカは静かに虐殺されている』
4月14日(土)、アップリンク渋谷、ポレポレ東中野ほか全国順次公開
監督・製作・撮影・編集:マシュー・ハイネマン
製作総指揮:アレックス・ギブニー
配給:アップリンク

【ストーリー】 戦後史上最悪の人道危機と言われるシリア内戦。2014年6月、その内戦において過激思想と武力で勢力を拡大する「イスラム国(IS)」がシリア北部の街ラッカを制圧した。かつて「ユーフラテス川の花嫁」と呼ばれるほど美しかった街は、ISの首都とされ一変する。爆撃で廃墟と化した街では残忍な公開処刑が繰り返され、市民は常に死の恐怖と隣り合わせの生活を強いられていた。海外メディアも報じることができない惨状を国際社会に伝えるため、市民ジャーナリスト集団“RBSS”(Raqqa is Being Slaughtered Silently/ラッカは静かに虐殺されている)は秘密に結成された。彼らはスマホを武器に「街の真実」を次々とSNSに投稿、そのショッキングな映像に世界が騒然となるも、RBSSの発信力に脅威を感じたISは直ぐにメンバーの暗殺計画に乗り出す―。

©2017 A&E Television Networks, LLC | Our Time Projects, LLC