松江哲明 × てらさわホーク『コンフィデンシャル/共助』韓国アクション談義 イベントレポート

動員数781万人を記録し、2017年上半期韓国映画動員数ナンバー1となり、第21回ファンタジア国際映画祭で最優秀アクション賞を受賞したメガヒットアクションエンターテインメント『コンフィデンシャル/共助』が2月9日より全国ロードショーされることが決定した。本作の公開を記念し、1月16日、アキバシアターにて、てらさわホークと松江哲明が登壇しトークイベントが行われた。

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『愛してる、愛してない』、『王の涙 イ・サンの決断』を代表作にもち、ドラマ「シークレット・ガーデン」で日本でも圧倒的人気を獲得したヒョンビンが、上司の裏切りにより妻と仲間を殺され、復讐に燃える北朝鮮の最強エリート刑事イム・チョルリョンを演じる。そして、『ベテラン』、『LUCK-KEY ラッキー』など韓国の名優ユ・ヘジンが韓国側の庶民派熱血刑事カン・ジンテを好演する。韓国へと逃亡した北朝鮮の犯罪組織を追うため、誰が見ても相性の悪い二人が国の垣根を越えて事件を追う、史上初の“南北共助捜査”を極秘で契約しタッグを組む。冷酷無慈悲な犯罪組織のリーダーに、『ビューティー・インサイド』のキム・ジュヒョク、最強エリート刑事に恋心を抱く熱血刑事の義妹を少女時代のユナが演じ、劇場映画としては初出演を果たす。

このほど、映画秘宝などを始めライターとして活躍する、アクション映画に造詣の深いてらさわホークと、ドキュメンタリー監督の松江哲明による韓国アクション映画談議が実施された。ハリウッドのアクションに引けを取らないクオリティになってきている韓国のアクションのレベルや、コメディとシリアスのバランス、韓国映画の水準、俳優の魅力やキャラクターの描かれ方など、映画に精通した二人が熱いトークを繰り広げた。

映画を鑑賞し終えた観客の大きな拍手に迎えられ、登場したてらさわと松江。まずは本作の感想について、てらさわが「いいもん観たな!とほっこりした気持ちになる映画でした。(アクションとコメディの)バランスが良いですね!観終えて満足感、充実感がありました」と語ると、続けて松江は「試写で観た時、朝10時だったんです。朝から韓国映画ってこってりかなと思っていて、正直最初は油断していました。最初に北の悪者が出てきて…でも韓国のシーンになると庶民派刑事が追いかけてる時になって流れる音楽がポンチャックだったんですよ(笑)。あ、これ緩い映画だなって。でも緩さで油断していた分カーチェイスだったりアクションがすごくて、普通の娯楽映画と思わせておいて力入れるとことはすごいなと。80点の娯楽映画を期待したら意外と85、90点みたいな。そういう良いもの観たなという感じ」と答えた。これにはてらさわもうんうんと頷き、「最近どんな映画もギャグを入れてくる傾向はあるけれど、この映画はアクションするとことはちゃんと決めて、お茶の間のシーンはお茶の間(のギャグ)。メリハリがあってけじめをちゃんとつけている」と加えた。

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続いて、ヒョンビンが主体となって繰り広げるアクションについての話題に。本作で特徴的なアクション“システマ”について、「ロシア発祥の軍隊の格闘術ですね」とてらさわ。「最近のアクション映画の流行りですね。『ボーン』シリーズや『ジョン・ウィック』など。その辺にあるものを使って戦っていましたね。でも本作のトイレットペーパーを使ったアクションを(ヒョンビンが披露した後に)、ユ・ヘジンが真似しようとするくだりが良かったですよね。アクションの中にも2人を対照的に描いているシーンを入れていて、真剣なアクションだと油断している分笑っちゃうんですよね」と語った。

そしてもう一人の主人公を演じる韓国のベテラン三枚目俳優ユ・ヘジンの話題に。「普通のおっさんとして描かれているのが良いですよね。顔も相まっていい味出してますね」とてらさわ。「“イイ顔”ですよね!ああいうソン・ガンホのような、“イイ顔”の人たちがかっこいいという説得力は演技力だけでなく体を張っていたり動けるので、役者さん自身の魅力も出ていてただのダメな人にならない」と松江。てらさわも「そうなんですよ。最初のほうでだめかと思いきやだんだん出来る人になっていきますからね」と同意。「(娘の為の)アイフォンが買えないくだりとかね!」「最後のほうでちゃんと伏線が回収された時はぐっときた!娯楽映画の勝負どころをわかってますよね、この映画は!」とユ・ヘジンが演じるだめな父親っぷりと本作のコメディの絶妙さについて盛り上がり、会場は笑いに包まれた。

また、本作における北と南の設定、関係性について過去に『JSA』や『シュリ』なども北と南の状況を加味した作品がある中で、松江は「韓国映画だからこそ描けるテーマですね。日本の観客に大きなインパクトを与えた『シュリ』などもですが、今後の映画の中でも永遠に描かれていくテーマだと思います」。それに「そうですよね。」とてらさわ。「いい意味で決定打がなく、でもはっとさせられる描き方ですね。ギャグ的な家庭シーンでの料理の中でも南北の違いがしっかり描かれている」と松江が続ける。そんな南北の刑事が繰り広げるバディムービーの側面もある本作をてらさわは、「往年のバディものの懐かしさがある」と評した。往年の刑事ドラマのような雰囲気の音楽について松江も「あの音楽を待っている自分がいた!すごく燃えるものがあった!」と熱く語った。

さらに、本作のカーアクション、追跡シーンの迫力に関して、「カーアクションすごかったですね。日本だと道路の許可が下りないからね。」とてらさわ。松江は「『チェイサー』『哀しき獣』などの撮影監督ですよね。走るシーンが疾走感あって良かった。本作は画数が多いと感じました。現場でプラスαのミラクルを粘っている感じ。先ほども言った80点かと油断していたら85、90点いくっていうその余裕がアクションシーンの画数の多さにも現れていると思う」と語った。

故キム・ジュヒョクの悪役ぶりについては、「それまでは恋愛ものが主流だったけど、今作での悪役良かったですね。冒頭で、この人は言葉が通じないんじゃないかという恐ろしさが伝わってきましたが、後のシーンで人間味があるところも描かれて」と松江。てらさわも「キム・ジュヒョク良かったですね。僕が面白いと思ったのは、南北の問題がある中で、韓国側で向こうを悪く描くことはいくらでもできるじゃないですか。ただただ恐ろしいという描き方。でも決してそうじゃないんですよね」と続けた。また、娯楽映画によるキャラクターの描き方について、「ご飯のシーンこそ娯楽映画の中でキャラクターを表現するチャンスだと思うんです。本作の食卓シーンも良いですよね」と松江は語った。

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最後に、韓国映画全体のクオリティについて、てらさわは「韓国映画といえばエクストリームなイメージのものばかり観ていたけど、たまに本作のような映画を観ると、ああ韓国の映画館ではこういうのを皆さん観ているんだ。(日常的に観られている韓国映画は)この水準なんだろうな。それは随分すごいところに行ってしまったな、という気持ちです」と、松江は「作家性が強い映画が多いですが、韓流ブーム以降もっと普遍的な恋愛のような映画がヒット作になって。僕はそういう作品でこそ韓国映画の水準がわかると思うんです。最近そういう映画が少ないなと思っていましたが、去年の『トンネル』のような映画だったり、本作のような映画が出てきて、もっとこういうのが観たいなと思いました」と述べた。てらさわは、「僕はそろそろこういう(ユ・ヘジンのような)人たちを集めた『エクスペンダブルズ』みたいな映画が観たいですね」とコメントし、会場の笑いを誘った。

コンフィデンシャル/共助:メイン

『コンフィデンシャル/共助』
2月9日(金)、TOHOシネマズ 新宿ほかにて全国ロードショー
監督:キム・ソンフン
出演:ヒョンビン ユ・ヘジン キム・ジュヒョク ユナ(少女時代)
配給:ツイン

【ストーリー】 北朝鮮の刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)は極秘任務を遂行中、上官チャ・ギソン(キム・ジュヒョク)の裏切りにより仲間と妻を殺されてしまう。組織は世界を揺るがす機密を盗み、韓国へと逃亡。それを秘密裏に取り返さなくてはならない北朝鮮はチョルリョンをソウルに派遣する。国際犯罪者の逮捕要請を受けた韓国側は庶民派熱血刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)を任務にあたらせ、歴史上初の“南北共助捜査”を契約する。しかし、韓国は北朝鮮の真の思惑を探るべく捜査を偽装してジンテにチョルリョンの密着監視を命じていた。かくして出会うはずのなかった刑事コンビはそれぞれの思惑を持ちつつ凶悪な犯罪組織との戦いに身を投じていく―。

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