東京バレエ団プリンシパルの上野水香が登壇!『ダンシング・ベートーヴェン』舞台挨拶イベント レポート

天才振付家モーリス・ベジャール没後10周年にあたる今年、ベジャールの代表作「第九交響曲」の舞台裏を捉えたドキュメンタリー映画『ダンシング・ベートーヴェン』が、12月23日より公開される。これに先だち、12月19日に試写会が開催され、この奇跡のステージにメインダンサーの一人として出演した東京バレエ団プリンシパルの上野水香が登壇し、舞台挨拶が行われた。日本でただ一人、モーリス・ベジャールに直接指導を受け、かの「ボレロ」を踊ることを許された女性である上野ならではのベジャールとの思い出、そして本作の魅力など貴重な話も次々と語られた。また、本作が今年度のスペイン・ゴヤ賞最優秀ドキュメンタリー部門にノミネートされたことも発表された。

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上野水香はまず本作を観たときの感想を、「(当時)こんなことやったなぁ、とあの時の記憶が蘇りました。本作はモーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団の共同制作という形で公演が実現する過程を追ったドキュメンタリーですが、貫いているのは“大きな愛”だと思いました。現在のベジャールバレエ団の芸術監督をされているジル・ロマンさんも愛情深い方で、ベジャールの作品に対しても、またダンサーやバレエそのものに対する大きく深い気持ちをいつも感じていました」と上野。

また、実際に直接モーリス・ベジャールから指導を受けたことがある上野は、「ベジャールさんの作品『ボレロ』を踊った時に直接指導を受けたことがあります。最初、写真の印象だと怖い方なのかなと緊張していたけど、お会いしたらとても穏やかで、細かい指導をしてくださって。お手本として踊っていらっしゃるのを見ると、どんどん引き込まれていくのがベジャールさんの眼なんです。あのベジャールさんの青い眼、とても奥深くて海や空が広がっていくようで、それがなによりも印象に残っています」と当時を振り返った。
 
さらに、「ベジャールさんのバレエは古典だけでなくコンテンポラリーの要素も入っている、まさしく“ベジャールさん”というジャンルなのではないかと思える独特の振付をされていますが、彼から一番最後に言われたことはクラシックのベースになる基礎の部分を絶対に崩さないで踊ることが大切で、そう踊ってほしい、と言うことでした」と上野ならではの思い出を語った。

続けて、「第九交響曲」については「2つのカンパニーが一緒に舞台にたち、ズービン・ベータ氏率いるイスラエルフィルが一堂に会する壮大なイベントで、話を聞いたときには鳥肌が立つほどでした。普段の公演で生演奏の場合はオーケストラピットで演奏するのですが、それとは異なり、本公演ではオーケストラと合唱団が舞台の上後方の台にのるという形なんですね。踊っていると後ろから音楽が聞こえてきて、まるで音に包まれている、不思議な感覚がありました。ベジャール作品の特徴として音楽と動きが一体化されている、目で見る音楽という感があります。より視覚的に表現されているのが本作だと思います」と観客にその魅力を語った。

最後に、トップダンサーであり続ける秘訣を聞かれると、「踊ることが大好きで、お客さんに喜んでいただくことが幸せで、ただそれだけ、シンプルにそれだけをやってきました。ただ主役としてトップに立ち続けることの大変さは毎日感じていて、いい意味でどんどん変わっていく存在でありたいと思います。またどの世界で生きていても大変なことはあると思うので、好きだということが何よりも力になると思っています。本作から感じたこともその“愛”なんです」と力強くコメントし、トークイベントは終了した。

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『ダンシング・ベートーヴェン』
2017年12月23日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開
振付:モーリス・ベジャール
監督:アランチャ・アギーレ
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲「交響曲第9番 ニ短調 作品125」
出演:マリヤ・ロマン モーリス・ベジャール・バレエ団(エリザベット・ロス ジュリアン・ファヴロー カテリーナ・シャルキナ 那須野圭右 オスカー・シャコン 大貫真幹) 東京バレエ団(上野水香 柄本弾 吉岡美佳) クリスティン・ルイス 藤村実穂子 福井敬 アレクサンダー・ヴィノグラードフ 栗友会合唱団 ジル・ロマン(モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督) ズービン・メータ(イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督)
配給:シンカ

【ストーリー】 スイス、ローザンヌ。「第九交響曲」出演のために過酷な練習に取り組むモーリス・ベジャール・バレエ団のダンサーたち。第二幕のメインをジル・ロマンから任せられた才能豊かなソリスト、カテリーナは踊る喜びに満ち溢れていた。しかしある日、カテリーナは妊娠が発覚し、メインを下ろされてしまう。一方で、お腹の子の父となるオスカーは生まれてくる子のために良き父親になろうとしていた。キャリアが中断されることへの不安と産まれてくる子供への愛情のあいだで揺れ動くカテリーナ。様々な想いを抱えながらダンサーたちは、東京での第九のステージに挑む。

© Fondation Maurice