坂本龍一 × 爆音映画祭・樋口泰人 『Ryuichi Sakamoto: CODA』トークイベント オフィシャルレポート!

世界的音楽家である坂本龍一を2012年から5年にわたり追ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』(全国順次公開中)のトークイベントが12月11日に角川シネマ有楽町にて行われ、坂本龍一と、“爆音映画祭”の仕掛人として知られる映画評論家の樋口泰人が登壇した。

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<音を聴く人>坂本龍一を語る――をテーマに、映画が様々な<音>を集めその音が坂本を通して新たな<音楽>になっていく様子を捉えていることにちなんで、坂本が自身で行っている様々な音の録音方法、音の楽しみ方についてなど、現在の音楽活動の神髄に迫るトークショーとなった。

坂本と樋口は、最新アルバム「async」発売を記念して4月に行ったアンドレイ・タルコフスキー作品極上音響上映イベントに続いての対談で、その際に坂本が語った<雨の音を録音すること>が樋口の印象に残っていたといい、本作でもその姿が収められている<雨の音を聴く>ことについてからトークはスタートした。坂本は「難しいんですよ」とポツリ。ポスタービジュアルで使われている庭でバケツを被り雨の音を聴いているカットの時の様子について、「雨の音自体は僕らには聴こえないんです。僕らがザーザーとか雨音といっているのは、この場所でいうと土や塀や木に水滴が当たる音なんです。それでどういう音がするんだろうと頭にバケツを被って聴いているんです。いい音がしたら録ろうと思って」と説明。さらに、「傘を差すことで傘が風に揺れたりするからマイクで音を拾おうとしても自然のものとは違う音になってしまうんです。録音機材で直接録ろうとしても水で壊れるかもしれない。だから本当に難しいんですよ。録音のプロの人がどうやってるのか聞いてみたいぐらいです」とその難しさを語った。続けて風の音についても、「風の場合は空気が勢いよく移動してるから。これも僕らが聴いてる風の音とは随分違う」と言いながら、マイクに息を吹きかけて分かりやすく説明した。

坂本が録音という行為に興味を持ち始めたのは高校入学前後のことで、オープンリールのテープレコーダーをどうにか購入し、当時流行っていたザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」の真似をしようと研究したそうで、「一番最初に録音に興味を持ったのは彼らのおかげかもしれない」と振り返る。映画でもその姿が捉えられているフィールドレコーディングについても話が及び、今まで一番印象的だった音は、その取材の様子や音も実際に映画で聴くことができる、グリーンランドの氷河で録った氷河の中をかすかに流れる水の音だという。レコーダーの電池が余りの低温ですぐ止まってしまうアクシデントに見舞われながら少しずつ録り進めたといい、「数百年前にできた氷河の中でほんの少し溶け出して流れる水の音は、時間の重みという観念的なものもあって本当に感動的でした。その当時の地球環境の音でもあって、今思い出してもグッとくるものがあります」と熱っぽく語った。

爆音映画祭の仕掛け人として数々の個性的な上映イベントを行っている樋口は、「映画を爆音で聴くとひとつひとつの音の違いがよく分かるんです。逆にいうと失敗した音も拾ってしまうことがあるから、この映画を本当に爆音でやっていいのか迷うこともあります。でも、<聴く>という意味でいうと、いい音悪い音を超えて、観る方が面白ければそれでいいという言い方もできますよね。制作者にとっては聞かれたくない“録音に失敗した”音はすごく面白いんです。それが面白いと思って爆音上映をやってるんです」と爆音上映へのこだわりを明かす。さらに、「ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』はフィルムで上映すると音にノイズが入ってるんです。フィルムが切れていたりして。通常の爆音上映ではそういう音は消して映画元々の音に近づけようとしますが、『ゾンビ』についてはノイズがあった方が面白く感じられるんです。時を経てノイズがどこかで乗ることも想定に入れて作られているかのように思えてきて」と独自の見解を披露した。2人はそれぞれ、ノイズがあえて盛り込まれた映画や音楽について具体例を出しつつその魅力を語った。その他、映画の冒頭シーンで映し出される、東日本大震災の際に津波を被った宮城県農業高等学校のピアノの現在や、引き方を学んでいない楽器を鳴らすことの魅力、それぞれが仕事をしたことのある作家の音にまつわるユニークなエピソードなど、40分という限られた時間で語り尽くし、トークイベントは終了した。

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『Ryuichi Sakamoto: CODA』
角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開中
監督:スティーブン・ノムラ・シブル
出演:坂本龍一
配給:KADOKAWA 

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