『ビジランテ』入江悠監督「キラキラした学園青春映画を観ている人に観てほしい」外国特派員協会記者会見レポート

『22年目の告白 -私が殺人犯です-』『SR サイタマノラッパー』シリーズの入江悠が監督し、トリプル主演となる大森尚朋、鈴木浩介、桐谷健太が演じる別々の世界を生きてきた三兄弟が30年ぶりに再会し、逃れられない家族や土地、血によって狂い出す運命を描いた『ビジランテ』が12月9日に公開されるのに先だち、11月14日、日本外国特派員協会で入江監督の記者会見が行われた。

IMG_2796

記者会見のレポートは以下。

Q:崔洋一監督の『血と骨』を彷彿とさせるものがあると感じました。暴力的な父、嫌いだけど断ち切れない家族とのつながりを描いているという共通点があると思います。監督にとって家族の繋がりとはどのようなものですか?

入江監督:家族という問題を描くのを避けていましたが、2年前に江戸時代を舞台にした時代劇を制作したときに自分の家族を遡って調べて、家系、家、血について考えることがあり、本作制作のきっかけになりました。

Q:どういった考えがあって『ビジランテ』というタイトルをつけたのですか?

入江監督:もともと自警団という存在にとても興味がありました。それと個人的な問題なのですが、私は、集団生活が苦手で“集団”にとても恐怖を感じる人間なんです。『ビジランテ』は三兄弟が主人公になっていますが、個人を飲み込んでいくようなコミュニティだったり、力を描こうと思ったときにこのタイトルを思いつきました。それともうひとつ言うと、関東大震災のときに日本の自警団が自発的に発生して私の地元の方でも事件を起こしたという歴史があって、それを20代のときに知りました。タイトルを決める際にこのことも意識にありました。

Q:かつて映画監督の憂いを吐露していましたが、今の映画界について思うところはありますか?

入江監督:『ビジランテ』を作った東映ビデオは日本では珍しいオリジナル脚本を受け入れてくれる会社です。オリジナルの脚本で勝負したい作家には門が開かれている会社だと思います。メジャーの映画会社がオリジナルでチャレンジングな企画にもっとチャンスを与えてくれたらいいなと思います。私は今38歳ですが、自分たち世代がオリジナル脚本を映画にしにくい流れを断ち切っていく必要があると思うので、どんどんオリジナルの企画をプロデューサーに投げていきたいと思います。

Q:若い世代の人に『ビジランテ』をどう見てほしいですか?

入江監督:僕が10代のころに衝撃を受けた監督がいて、すごく痛いバイオレンスが描かれているのですが、その監督は北野武さんです。人を傷つけることはこんなに痛いことなんだとか、人を追い詰める暴力はこうやって派生するんだとか、そういうものを学びました。暴力とは何なのか、人を傷つけるとはどういうことかを自分の中で追求したい気持ちがありました。肉体的な痛みだけではなく精神的な痛みもあると思うのですが、今まで避けてきたそういうものを『ビジランテ』に込めました。キラキラした学園青春映画を観ている人に『ビジランテ』を観てほしいです。

Q:『ビジランテ』では逃げようのない負の連鎖を描いていますが、この映画の希望的なメッセージは何ですか?

入江監督:個人を飲み込んでいく集団のメカニズム、経済の合理性のメカニズムという“暴力”を映画で捉えられないかと思いました。この映画を観て、自分だったらどう行動するか、映画館を出た後に少しでも考えてもらえたらうれしいです。マリオ・バルガス・リョサという作家がボヴァリー夫人を論じた本があって、そこで「ボヴァリー夫人が死ぬことは私たちの希望だ」と書いていて、それを読んで自分の中で腑に落ちるところがありました。「作中の人物が読者である私の代わりに死んでいった。私に訪れるかもしれなかった未来を先取りしている」という意味で、リョサは救いだと言っています。そのように『ビジランテ』を観てくれる人がいたらうれしいです。

main_R

『ビジランテ』
2017年12月9日(土)より テアトル新宿ほか全国ロードショー
監督・脚本:入江悠
音楽:海田庄吾
出演:大森南朋 鈴木浩介 桐谷健太 篠田麻里子 嶋田久作 間宮夕貴 吉村界人 菅田俊

【ストーリー】 幼い頃に失踪した長男・一郎(大森)。市議会議員の次男・二郎(鈴木)。デリヘル業雇われ店長の三男・三郎(桐谷)。別々の道、世界を生きてきた三兄弟。父親の死をきっかけに、失踪していた一郎が、30年振りに突然帰ってくる。再会した3兄弟の運命は再び交錯し、欲望、野心、プライドがぶつかり合い、事態は凄惨な方向へ向かっていく。

(C)2017「ビジランテ」製作委員会