『リュミエール!』黒沢清監督 × ティエリー・フレモー監督 特別対談イベント オフィシャルレポート!

“映画の父”と称されるリュミエール兄弟が発明した“シネマトグラフ”による秘蔵作品1422本の中から選ばれた108本が4Kデジタルで蘇る珠玉のドキュメンタリー映画『リュミエール!』の公開に先駆け、10月27日(金)、アテネ・フランセ文化センターにて、「現代映画としてのリュミエール」と題し、本作の監督であり、カンヌ国際映画祭総代表・リュミエール研究所所長を務めるティエリー・ フレモーと映画監督の黒沢清が特別講義を実施した。

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本作は、リュミエール兄弟が、1895年から1905年の間に世界各国にカメラマンを派遣して撮影した1422本もの作品の中から、フレモーが厳選した108本で構成されている。その中から、黒沢監督と本講義で司会を務めた古賀太氏(日本大学芸術学部教授)がセレクトした14本をイベントで上映し、その作品の魅力について語った。

黒沢清監督は、登壇するなり、「もし今回はじめてリュミエールの作品について触れた人がいるなら、まさに今日こそ、その人にとって映画が誕生した日となるでしょう。映画がこうして誕生したということが、これほど強烈に伝わる作品はありません。こんな素晴らしい映画をつくってくれたフレモー氏に感謝します」と、122年前の時を経て、リュミエール兄弟の作品を観られる喜びをあらわにした。

まず、世界最初の映画といわれ、3バージョン存在する『リュミエール工場の出口』を連続して上映。黒沢監督は「この作品が演出なのか、偶然なのかということが今でもまことしやかに議論されているが、もはやそんなことはどうでもいいのです。50秒しか撮れないというシネマトグラフの制約の中で、犬、少女、自転車、そして可能ならば馬車を全員登場させたいという意図がはっきりとわかります。しかし、犬や人がどう動くかは全く分からないという偶然性に身をゆだねないといけない部分もある。つまり、演出と偶然があわさったものが、映画だということです。試行錯誤してこうなったのではなく、いきなりこういうのを作ってしまったのは本当に驚異的なこと!」と、今も変わらない映画の真理を最初から発見していたことに驚きを隠せない様子だ。

それに対してフレモーは、「まさにその通りで、彼らは50秒しかないということがわかっていた。だから完璧な場所にカメラを設置し、最も美しい構図を作りだす必要がありました。つまり、演出をしていたわけです。そして、大事なのは最初の被写体が庶民であるということ。映画の歴史は、開く扉とともに始まったということです。まるで、未来の観客に対して“これが映画です”とあいさつしているかのようです」とリュミエール兄弟の演出力を強調した。

続く『橋の広場』について、「人や馬、列車の動き、カメラの位置、そして構図。撮れたのが偶然であれ演出であれ、凄すぎる。映画史上のファーストカットと呼んでもいいのではないか」 と語る黒沢監督。フレモーも強く同意し、「資料が残っていないので、どうやって撮影したのかわからないが、奇跡というほかない」と付け加えた。

また、黒沢監督は『川の洗濯女たち』を「全く日常の風景を切り取ったようでありながら、これから何かとんでもないことが始まってしまうのではないかという期待感が充満した完璧なショット」と同じ映画作家として最大限の賛辞を贈った。

さらに、サプライズゲストとして、『淵に立つ』でカンヌ映画祭「ある視点部門」審査員賞を受賞した深田晃司監督も登場。「先日300人の中学生たちにリュミエールの『工場の出口』を上映する機会がありました。普段色々な映像を見慣れているはずの彼らが、この映像を観て驚いたり、出てくる犬に歓声をあげたり、とても喜んでいた。リュミエールの作品の普遍性に改めて気づいた」と語った。

最後にフレモーは、「友人である黒沢清監督とこのような機会が持てて、とても幸せです。リュミエールの作品はまだまだたくさんあります。かつて世界中に派遣されたカメラマンのような気持ちで、いわばリュミエールの伝道師として、世界中を回っています。この作品が成功すれば、第二弾、第三弾も作りたい」と続編への意欲をのぞかせ、締めくくった。

『リュミエール!』
10月28日(土)東京都写真美術館ホール他全国順次公開
監督・脚本・編集・プロデューサー・ナレーション:ティエリー・フレモー
配給:ギャガ

作品概要 スピルバーグもルーカスもジェームズ・キャメロンもクロサワも小津も、映画はここから始まった。1895年12月28日パリ、ルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が発明した“シネマトグラフ”で撮影された映画『工場の出口』等が世界で初めて有料上映された。全長17m、幅35mmのフィルム、1本約50秒。現在の映画の原点ともなる演出、移動撮影、トリック撮影、リメイクなど多くの撮影技術を駆使した作品は、当時の人々の心を動かした。1895年から1905年の10年間にリュミエール兄弟によって製作された1422本より、カンヌ国際映画祭総代表であり、リヨンのリュミエール研究所のディレクターを務めるティエリー・フレモーが選んだ108本から構成され、リュミエール兄弟にオマージュを捧げた珠玉の90分。4Kデジタルで修復され、フレモーが自ら解説ナレーションを担当、ひとつの時代、そこに生きる様々な人や場所、伝統の証人である映像とともに、20世紀を目前とした世界への旅に誘う。

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