世界遺産の国立西洋美術館で開催!『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』トークショー

近代建築の巨匠ル・コルビュジエと、彼が生涯で唯一才能を羨んだと言われる女性建築家アイリーン・グレイの間に隠された波乱万丈のストーリーを美しき映像で描く極上のドラマ『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』が、10月14日(土)よりBunkamuraル・シネマ他にて全国順次公開。このたび、アイリーン故郷であるアイルランドから、世界的なアイリーン・グレイ研究者である、アイルランド国立博物館キュレーターのジェニファー・ゴフさんが来日。今年がアイルランドと日本外交関係樹立60周年であることを記念し、アイルランド大使館のご招待を受けての来日となった。そうして、ル・コルビュジエが手がけ、昨年世界遺産に登録された国立西洋美術館で、ジェニファーさんと建築史・建築批評家の五十嵐太郎さんを招いての特別トークショーを開催した。

▲ジェニファー・ゴフさん
▲ジェニファー・ゴフさん

近代建築の巨匠ル・コルビュジエが手がけ、昨年世界遺産に登録された国立西洋美術館で豪華なトークショーと映画を楽しむために、会場では開場前から多くの人が列を作り、当日券はすぐに配布終了となった。今年が日本とアイルランドの外交関係樹立60周年であることを記念し、世界有数のアイリーン研究者でありアイルランド国立博物館のキュレーターでもあるジェニファー・ゴフ氏が、アイルランド大使館の招待により初来日。本作の字幕監修を務めた建築史・建築批評家の五十嵐太郎氏と共に、トークショーに登壇した。ジェニファー氏は「このような機会をいただけて非常に光栄です。でも、少し緊張しています」と挨拶。五十嵐氏は、挨拶に加え「アイリーン・グレイにはずっと興味を持っていましたが、今回この映画によって、彼女の作った“空間”への理解が深まりました」と映画を絶賛した。

▲五十嵐太郎さん
▲五十嵐太郎さん

アイリーンの故郷でもあるアイルランドからやって来たジェニファー氏は、アドバイザーとして本作に携わっていた。「関わることとなった経緯としては、まず、監督であるメアリー・マクガキアンの誘いを受け、彼女に会いました」とジェニファー氏。「監督は、アイリーン・グレイとル・コルビュジエについて、(アイリーン・グレイが手掛けた建築で、南仏カップ・マルタンにあり、本作の舞台となる)<E.1027>について話を聞きたいと言いました。正直、初めは“事実を過度に脚色した、ハリウッドによくあるタイプの映画を作るのかな”と思ったんです。でも、話を聞いたら、彼女はすごく真摯にアイリーンのことを考えていました。既にたくさんの専門家に話を聞いて詳しく調査していて、“皆に議論してもらえるような映画を撮りたい”と語りました。彼女の強く訴えかける目を見て、“この人は本当に真剣なんだ!”と胸を打たれたんです。とはいっても、アイリーン・グレイの映画を撮りたいと言われただけで、すごく興味を持ってはいたんですけどね(笑)」。この話からは、本作が入念なリサーチに基づいて作られていたことも分かる。どこまで史実に忠実なのかという話になると、「人間ドラマの部分に関しては、観客を彼らの物語に惹きこむためにフィクションを付与した箇所もありますが、基本的にかなり史実に基づいています」と、ジェニファー氏は綿密な調査の積み重ねによって生まれた本作の完成度の高さに唸った。

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さらに五十嵐氏は、「ル・コルビュジエの描き方も非常に印象的でした」と、本作の“新しいル・コルビュジエ像”に言及。「ル・コルビュジエが嫉妬する様子とか、すごく人間くさい側面が描かれている。彼がこういう風に、俳優が演じた生々しいかたちで見せられることってないから、すごくインパクトがありました。映画ならではの、上手い構成でしたね」と楽しそうに語った。神格化された巨匠ではなく、一人の人間として描かれる、本作のル・コルビュジエ。劇中では、彼がアイリーンに無断で<E.1027>に壁画を描き、アイリーンを激怒させたという有名な“壁画事件”のことも描かれる。そんなル・コルビュジエについて、ジェニファー氏は「それでも、この壁画があったからこそ<E.1027>は現在まで生き残ってきたとも言えます。アイリーンの死後、<E.1027>は売りに出されました。“20世紀最大の海運王”と呼ばれる実業家アリストテレス・オナシスが競り落としそうになったところを、ル・コルビュジエは“歴史的に偉大な作品だから”と説得して知り合いの女性に購入させた。彼女は、家の中にあったアイリーンがデザインしたインテリアの数々が気に入らなくて、捨てようとしました。でも、ル・コルビュジエがそれを止めたんです」と、ル・コルビュジエの<E.1027>への貢献についても触れ、「アイリーンのインテリアが<E.1027>に今もあるのは、彼のおかげなんです」と、アイリーンの才能を嫉妬したと言われるル・コルビュジエの、嫉妬ではない、彼女への深い尊敬と愛情が伝わるエピソードを紹介した。

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最後にジェニファー氏は、長年アイリーンを研究し続けてきた彼女ならではの力強いメッセージを伝えた。「アイリーンがデザインした最も有名な家具の一つであるアジャスタブル・テーブルは、第1弾のデザインは、実は大失敗でした。それは私の博物館にあるから、分かるんです(笑)。でも、彼女は常により良い表現を追求しつづけていった。98歳で亡くなるまでずっと、働き続けました。生涯現役です。彼女にはこんなモットーがありました。“何かを創造するためには、全てに疑問を呈し続けなければならない”と。彼女はまさに、自分でそのモットーを一生涯貫き続けたのです」。情熱の炎を燃やし続けたアイリーンの凛とした強さに、場内の誰もが心を震わされる言葉で、トークは幕を閉じた。

E.1027外観画像『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』より

E.1027室内画像『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』より

『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』
10月14(土)よりBunkamuraル・シネマほか、全国順次公開
監督・脚本:メアリー・マクガキアン 
出演:オーラ・ブラディ ヴァンサン・ペレーズ ドミニク・ピノン アラニス・モリセット
配給:トランスフォーマー

STORY モダニズム華やかなりし1920年代、のちの近代建築の巨匠ル・コルビュジエは、気鋭の家具デザイナーとして活躍していたアイリーン・グレイに出会う。彼女は恋人である建築評論家のジャン・バドヴィッチとコンビを組み、建築デビュー作である海辺のヴィラ<E.1027>を手掛けていた。陽光煌めく南フランスのカップ=マルタンに完成したその家はル・コルビュジエが提唱してきた「近代建築の5原則」を具現化し、モダニズムの記念碑といえる完成度の高い傑作として生みだされた。当初はアイリーンに惹かれ絶賛していたル・コルビュジエだが、称賛の想いは徐々に嫉妬へと変化していく。そして1938年、事件は起こる。ル・コルビュジエは、アイリーンの不在時に何の断わりもなく、邸内に卑猥なフレスコ画を描いてしまう。これを知った彼女はル・コルビュジエの行為を「野蛮な行為」として糾弾し、彼らの亀裂は決定的なものになった。その後、大戦とともに、E.1027は人々から忘れられ、打ち捨てられてしまう。戦後、すっかり荒れ果てた物件は、競売にかけられる。海運王アリストテレス・オナシスも参加したこの物件を買い戻すために奔走したのは、他でもない――ル・コルビュジエだった。

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