前野健太「詩の魅力が詰まった、太い幹のような言葉と映像の強さと詩情を感じる作品」映画『パターソン』トークイベント試写会レポート

8月26日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開する 映画『パターソン』のトークイベント試写会が、8月17日(木)に渋谷・ユーロライブにて開催され、ジャームッシュ作品の世界観に感銘を受けた、「ライブテープ」「トーキョードリフター」で映画出演経験もある、シンガーソングライターの前野健太が登壇した。

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映画の感想について

前野:詩の魅力を言葉とか映像がまとっていて、それがスクリーンに詰まっていて、詩を題材にしてこんな映画を作れる人がいるんだ! と、うれしかったです。自分も詩を書いているので。

詩の創作について

前野:映画の主人公と一緒で、街の中ですね。喫茶店に入って、窓越しから見える景色を見て詩を書いてました。そこに、すごくシンパシーを感じました。それに、映画の中でマッチが出てきますが、実は僕も好きで集めているんです。街にこそ詩があると思います。映画の中でも、主人公がバスの運転をしながら、乗客が話していた言葉が彼の中に流れ込んで、詩を作っていきますよね。(この映画は)詩の書き方を教えてくれていると思います。また、主人公には奥さんや犬がいて、家庭がありますが、詩の作業というのはどういう状況でも一人になれるもので、僕自身もそうだと思います。僕が図書館でバイトしていた時代も同僚の会話から詩を創作していました。詩どろぼうですね(笑)。バイト仲間の男女の会話とか 雰囲気をこっそりメモして詩にしていたんですが、それがありきたりであればあるほど、丁寧に描くと、社会とか政治とか言わなくても、しっかりと時代性が出ますよね。だから詩を書くことは大事だと思います。そして、人を見るということは、僕にとって、詩を書いていることと同じだと感じます。

登場人物や印象に残ったシーンについて

前野:コインランドリーでラップをしている人や、街中で出会う少女のシーンなどですね。こういった詩人と詩の交換をする場面が、なんだかこの世で一番美しい気がするぐらい、映画を見た時に、グッときて涙が出ました。あと、主人公の奥さんですが、こんな人います?(笑)家中を白黒で塗ったり、不思議な人ですよね。こんな人がいたら、つきあっ てみたいです。(笑)永瀬さんのセリフの「アーハー」も音楽的な響きを持っていて、すごく色っぽいと感じました。

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ジャームッシュ作品について、

前野:ジャームッシュは好きだと思っていたのですが、見た気になっていただけだったようで(笑)、『パターソン』を見てジャームッシュ監督はすごい詩人だと思い、初期の作品を見ました。初期の作品には、ジョン・ルーリーとか、トム・ウェイツとか出てきて、本作でも通称「ハリケーン」と呼ばれるボクサー、ルービン・カーターの話が出てきますが、あれはボブ・ディランが歌った「ハリケーン」のオマージュですよね。ミュージシャンの起用や音楽の要素を大事にしつつ、言葉を大事にしている監督で、初期から変わっていないけど、むしろその部分は強くなっていると思います。本作も一見、スローライフっぽく見える作品ですけど、僕は言葉に太い幹のような強さを感じました。マッチを擦って、人生が燃え上がるような。

映像について

前野:イスやコーンフレークを少し長めに撮っていますが、それによってモノが人格や意味を持つように見えてきますね。バスもいろんな角度から撮っていますが、丁寧で上手いですし、映像から詩情を感じます。光の撮り方も。映画にしかできない魔法ですね。初期 の作品と比べると、街や光を信じるようになっていると思います。

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映画『パターソン』は、 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(’15)や、『沈黙-サイレンス-』(’16)に出演し、今やハリウッドの次世代を代表する俳優となったアダム・ドライバーが主演。「君の事を思いながらこのシーンを書いた」という監督たっての希望で、永瀬正敏が『ミステリー・トレイン』(’89)以来27年ぶりにジャームッシュ作品に再出演を果たした。本作でもジャームッシュの独特でオフビートな作風は健在、カンヌでも絶賛を受け、まさにこ れまでの彼のフィルモグラフィーの一つの到達点と呼べる傑作となっている。

『パターソン』
8月26日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町/ヒューマントラストシネマ渋谷 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ 出演:アダム・ドライバー ゴルシフテ・ファラハニ 永瀬正敏
配給:ロングライド

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