映画『ローサは密告された』美術担当から45歳で監督デビュー! 世界の映画人が異色の経歴監督の才能を絶賛!

第69回カンヌ国際映画祭でフィリピン映画界に三大映画祭で初めての主演女優賞をもたらした『ローサは密告された』が7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開。ここ数年、世界各地で勢いをみせるフィリピン映画。第3黄金期と呼ばれるフィリピン映画界の最先鋭とも言える鬼才ブリランテ・メンドーサ監督の魅力に迫る。

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2017年、日本はフィリピン映画の公開ラッシュだ。今年だけでも、すでに公開された『壊れた心』(フランス=フィリピン合作/浅野忠信主演作)、7月22日公開『ダイ・ビューティフル』(ジュン・ ロブレス・ラナ監督)、7月公開『ブランカとギター弾き』(長谷井宏紀監督)、10月公開『立ち去った女』(ラヴ・ディアス監督)といったフィリピン映画が同時期に公開する。中でも、『立ち去った女』が去年のヴェネチア国際映画祭で最高賞である金獅子賞を獲得し、『ローサは密告された』のカンヌ主演女優賞受賞など、フィリピン映画の「第3黄金期」は今まさに全盛期だ。アメリカに影響を受けた娯楽映画が撮影所で大量生産された 1950年代の「第1黄金期」、マルコス独裁政権下にも関わらず強烈なプロテスト精神を詰め込んだ作品が世に出された1970年代を「第2黄金期」と呼ぶ。そして2005年に「第3黄金期」が始まった。

2005年からフィリピン映画界の第3黄金期が始まったと言われている。第3黄金期開始と言われる所以のひとつに、現在のフィリピン映画界を牽引しているメンドーサ監督が「マニラ・デイドリーム」でデビューした年であること、もうひとつはシネマラヤ映画祭(英語表記:Cinemalaya Independent Film Festival)という若手映画人を支援する映画祭が始まった年であることが挙げられる。その後もインディペンデント映画の製作を援助する映画祭が多数行われるようになり、若手映画監督たちが映画を製作する土壌が作られていった。2015年にはメンドーサ監督の声掛けでシナグ・マニラ映画祭という、若手育成のための映画祭も開催されている。また、フィリピンを代表する大スターなどが若手作品にこぞって出演するなど、メジャー作品とインディーズ作品の境界が曖昧となり、「メインディーズ」という言葉も生まれている。それが「第3黄金期だ」。現在のフィリピンの映画制作は、最先端で活躍している現役の監督が若手の面倒をみる、といった流れにより培われ、 発達を遂げている。レストラン経営もしているメンドーサ監督は、映画の勉強をしたい者をその店で住み込みで雇い、現場の撮影スタッフとして使い、実地で映画撮影を学ぶ場を与えている。その結果か、「バードショット」のミカイル・レッド監督は、弱冠 24 歳にして東京国際映画祭の「アジアの未来」部門で作品賞に輝くなど、若手監督が世界でも続々と注目を集めている。

大学で広告美術を学び、プロダクションデザイナーとしてキャリアをスタートさせたメンドーサ。元々映画監督になる夢は持っていたが、チャンスはなかった。それが45歳の時に友人に誘われ、初めて手掛けた長編映画「マニラ・デイドリーム」(’05)で、一気に映画監督としての才能を開花させたという異色の経歴の持ち主。2008年に製作した「サービス」はフィリピン映画としては 24年ぶりのカンヌ国際映画祭コンペ出品作となった。続く「キナタイーマニラ・アンダーグラウンドー」でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞、さらに「グランドマザー/ばあさん」はヴェネチア国際映画祭コンペ出品、『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(’12)はベルリン国際映画祭コンペ出品と、なんとデビューから7年で世界三大映画祭すべてのコンペティション部門出品という快挙を果たす。そして、本作『ローサは密告された』では、第69回カンヌ国際映画祭で、フィリピン映画界初の三大映画祭の主演女優賞をジャクリン・ホセにもたらし、映画界の歴史を塗り替え続けている。

これだけ海外映画祭で評価される理由のひとつはメンドーサ作品の特徴でもある早撮りにある。メンドーサ監督は入念にリハー サルを行い、信頼できる少数のスタッフのみで素早く撮影を行う。そのため、撮影日数は非常に短い。手持ちカメラによる撮影は、スラム街の狭い路地を縦横無尽に駆け巡り、その強度は他に類を見ない。その結果、2005年のデビューから 現在に至るまでの12年の間に長編だけで13本の作品を生み出すことができた。また、“ノイズ主義”と呼ばれる、音の構成も彼の作品特徴のひとつ。登場人物たちの会話が聞き取りづらくなるほどに、街の雑踏や、登場人物を取り巻く環境音を現実そのままに取り入れる。映画のキャリアは短いながらもエネルギッシュな街を切り取る説得力を持った作風をすでに確立しているのだ。

「サービス」がコンペに出品された2008年カンヌ国際映画祭で、審査委員長だったショーン・ペンは本編上映後にメンドーサ に駆け寄り、称賛を贈るという感動的な場面があった。「キナタイ-マニラ・アンダーグラウンド-」では映画を観たクエンティン・タランティーノが「非凡な映画だ!」とベタ褒め。『囚われ人 パラワン島観光客 21人誘拐事件』(’12)に出演したイザベル・ユペールは、自らが「彼はとても力強い世界観を持っていて、それは彼の映画を観れば明らかよ。私は、そんな彼の宇宙を探検してみたいと思ったの」メンドーサ監督作品に出演を熱望したことを語っていた!そして今作『ローサは密告された』では批評家たちが「この作品の演技は助演レベルではないか?」と批判したことに対し、審査員であったドナルド・サザーランドは「彼女の演技は超一流なものだ!」と絶賛、アルノー・デプレシャン監督も「彼女に心動かされた」と賛同し、マッツ・ミケルセンも「絶対的に美しい主演女優によるパフォーマンス!」と褒め称えた。 同じく審査員だったキルステン・ダンストは、授賞式でのジャクリン・ ホセのスピーチ中にも感涙していたが、その後ホセと会話を交わし、本作のラストシーンに感動して涙したと言う。昨年の東京国際映画祭で共に映画づくりを行った行定勲監督は「今撮りたいことを、全スタッフで作り上げていることが画から伝わる」と映画を絶賛。世界中の映画人が称賛し、その才能に嫉妬する、メンドーサ監督の最新作を見逃すわけにはいかない。

STORY ローサはマニラのスラム街で小さな雑貨店を家族で経営している。家計のため、少量の麻薬を扱っていたが、ある夜、密告からローサ夫婦は逮捕される。麻薬売人の密告要求、高額の保釈金……警察の要求は恐喝まがいだ。この危機をどう脱するのか? ローサたち家族は、彼らなりのやり方で横暴な警察に立ち向かう。

『ローサは密告された』
2017年7月29日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ジャクリン・ホセ フリオ・ディアス
配給:ビターズ・エンド