“トニ・エルドマン”は、ウルグアイのムヒカ元大統領をイメージ? 映画『ありがとう、トニ・エルドマン』放送作家の町山広美が登壇

マーレン・アデ監督最新作『ありがとう、トニ・エルドマン』の一般試写会が、6月6日(火)に都内で行われ、上映終了後に「有吉ゼミ」「幸せボンビーガール」などの放送作家として知られ、雑誌「InRed」などで映画連載を持つ町山広美さんが登壇した。

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互いに思い合っているにも関わらず、今ひとつ噛み合わない父と娘の普遍的な関係を、温かさとクールな視点をあわせ持った絶妙のユーモアで描いた本作。冗談好きの父・ヴィンフリートと、故郷を離れ外国で仕事をする娘・イネス。仕事一筋で笑顔を忘れかけている娘を心配し、父は、出っ歯の入れ歯とカツラを装着し<トニ・エルドマン>という別人になって、神出鬼没に娘のもとに現れる…。

娘の造形について「ものすごく頑張っていて、会社の期待するものに合わせようとものすごく努力をしている。自分を殺して社会に合わせなきゃ、とその真面目さが彼女自身を苦しめている」と話し、映画全体として「とても温かみのある映画。この監督は世界の見方をよくわかっていて、父と娘のお話しだけれども、グローバル資本主義っておかしいのでは?生き辛くなっているでは?という問いかけをうまくその中に落とし込んでいる」と語る町山さん。

「義務に追われてるうちに人生は終わっちまう」という父のセリフに“世界一貧しい大統領”として知られ、公の場での演説やスピーチの際に数々の名言を残してるウルグアイのムヒカ元大統領の言葉を思い出したそう。

「人は物を買う時は、お金で買っていないのです。そのお金を貯めるための人生の裂いた時間で買っているのですよ」というムヒカ元大統領の名言に、町山さんは「多分ですけど、マーレン・アデ監督にもこの言葉が届いていたのではないか。お父さんの発言のモチーフになっているのではないかな、と思いました。こういう大きなテーマを持っていながらも、ちゃんと父と娘の話に置き換えて自分のメッセージを伝えられるってすごい!撮影時は30代だったなんて、この女性監督はスゴイなと思いました」と興奮気味に話していた。

「この作品は主人公が語る人生の話。冒頭では父の愛犬が亡くなって、それ以外にも“死”をイメージさせる場面がある。この監督はテーマの中に“時間”を据えているから、ただ単に長くなってしまって162分になってしまったのではなくて、始めから長い物語を作るビジョンがあったんだと思います」と、この映画の長さについて解説。

「この映画、ファーストシーンが長いでしょ?なかなか誰もフレームインして来ない。ようやく配達の人が出てきてドアベルを鳴らしても、なかなか中から人が現れない。これは映画の紡ぎ方じゃなくて、自然な時間の流れでわざと“時間をみせる”という仕掛けなんだなと分かりました。そう見るとたくさんの仕掛けがこの作品にはあるなと思いました」

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さらに印象に残ったシーンについて聞かれると、ポスターなどのビジュアルにも出てくる精霊“クケリ”の登場シーンについて「1テイクで、マジックアワーの時間に撮っているんだと思うのですが、あの淡い空気感の映像が素晴らしい。物語が終わることと、昔の記憶がシンクロする美しいシーンだと思います」とマジックアワーを利用したほんの一瞬のシーンに心を捕まれたと語る。

最後に監督のマーレン・アデについて「30代でこれだけのアイデアを貯め込んで、映画を撮っているのって本当にスゴイ人。ダメなところがほとんどなくて。プロデューサー経験はあるものの、監督作はこれがまだ3作目というので、今後も本当に楽しみです!」と嬉しそうに締めくくった。

町山さんがどの場面について話しているかは、是非6月24日(土)の公開をお楽しみにお待ちください!

『ありがとう、トニ・エルドマン』
2017年6月24日(土)シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督:マーレン・アデ
出演:ペーター・ジモニシェック ザンドラ・ヒュラー 
配給:ビターズ・エンド

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